半導体最新事情 「微細化」「自給率低下」… “分解のプロ”が語る変化

NHK
2021年12月16日 午後7:39 公開

世界的な半導体不足によってさまざまな影響が発生しています。半導体は私たちの身の回りでどう使われているのか?デジタル技術が急速に発展する中で、半導体はどのように進化しているのか?

“半導体のプロ”であるベテラン技術者が、スマホを分解しながら最新の半導体事情を解説してくれました。

(クローズアップ現代+取材班)

 

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放送1週間後まで見逃し配信中【NHKプラス】

 

あの最新スマホを分解してみた

 

「これがですね、9月24日に発売になったアップルの『iPhone13 Pro』です」

東京・国分寺のビルの一室。数え切れないほどの電気製品に囲まれながら、白髪の男性が手慣れた様子で最新のスマートフォンを分解し始めました。

分解したスマートフォン(上)と分解していないスマートフォン(下)

 

男性は半導体調査会社のCEO清水洋治さん。長年半導体メーカーで技術者として働き、いまは大手自動車メーカーなどから依頼を受け、どの製品にどんな半導体が使われているのか、製品を分解して分析しています。

 

半導体調査会社「テカナリエ」CEO清水洋治さん

 

清水さん:こんな小さなスマホの中に、非常にたくさんの半導体が入っています。この半導体が実際に演算(=さまざまな入力の処理)を行ったり、記憶や通信をしたりします。

 

ディレクター:半導体はどれですか?

 

 清水さん:この黒いの。 

 

スマートフォンの中の半導体(矢印は一部)

 

 

そもそも半導体とは?

 

清水さん:ちょっと待ってね。

 

(そう言って、ほかの製品から取り出した半導体を見せてくれた)   

 

清水さん:半導体は「ウエハー」というシリコンの上に、いろいろな印刷技術を使ってナノメートル(100万分の1ミリ)単位で非常に細かい電子回路を50層以上も焼き付けて作ります。

高層ビルのように、どんどん50階ぐらいまで積み重ねることによって、さまざまな回路の接続関係を作り上げます。

 

こちらはほかの製品(美容器具)の半導体

 

清水さん:人間もいろいろな細胞が組み合わさって臓器や脳ができていますよね。同じようにスマホの中では、演算機や外と出入りするための回路が組み合わさって半導体になっています。

半導体はこのままだと外側とつながりませんので、半導体の信号を引っ張り出した端子を作り、それを基板というベースに載せていきます。そういうものをさらに組み合わせることで1つのシステムができています。

  

 

 

スマホの中には51個の半導体

 

ディレクター:スマホの話に戻ると、半導体はどこに載っているんですか?  

 

清水さん:これはスマホの「基板」といわれるもので、ちょうど真ん中あたりに、月のクレーターみたいにちょっとへこんだところがあるんですけど、ここに半導体チップが置かれていました。

   

 

ディレクター:その半導体はどういう役割をしていたんですか?

  

清水さん:通信やカメラ、センサーから入ってくるデータを全部集めて画像処理をしたり、データをディスプレイに映すための処理をしたり、人工知能の処理をしたり・・・まあ、スマホでできるほとんどの作業は全部ここで処理するようになっています。

私たち人間も、目、耳、鼻、みたいな形でいろいろなデータが随時入ってきますよね。それを脳が判断して、食べたり何かをしたりと決めているわけです。

同じようにスマホも、人が打ち込んだデータや通信で受け取ったデータ、センサーが受け取ったデータ・・・ありとあらゆるデータをいったんこの頭脳(半導体)のところに入れています。

 

ディレクター:なるほど。スマホの中で、ほかにも半導体が使われているところはありますか?

 

 清水さん:この裏側の銀色の部分、ここは「メモリー」と呼ばれるものです。  

 

 「メモリー」の半導体

  

清水さん:例えば人間は、電話番号とか「おととい何食べた」とか、すべては覚えられませんよね。スマホの場合は音楽や写真などさまざまなデータを「メモリー」に書き込んで記憶しています。記憶は「メモリー」、演算などは別の半導体の役割になっています。

 

演算などを行う半導体

  

ディレクター:ちなみにこのスマホの中に半導体は何個あるんですか?

  

清水さん:私どもで細かいところまで調べたところ、全部で51チップ。

人間の肉眼ではほとんどとらえることもできないような非常に小さなチップまで含めて51個の半導体。それによってこのスマートフォンが作られていることが、解析の結果わかりました。

例えば腕時計にしても、車にしても、1つのシステムを作る上では大体20個から、多いもので100個ぐらいの半導体を必要としています。

 

 

もし半導体がなかったら・・・

  

ディレクター:このスマートフォンの中に51個入っていると。もし半導体がないとどうなるんですか?

 

清水さん:半導体がないと、まず1つはっきり申し上げますと、全く動きません。

ディスプレーに映し出すためにも「ディスプレーコントローラー」という半導体が必要です。われわれはスマホの画面をタッチしてスクロールなどをしますが、それを可能にするためにも半導体が非常にたくさん使われています。

ですから半導体がないと、スマートフォンはただの文鎮、箱になってしまいます。

 

ディレクター:半導体がないといろいろな製品が動かなくなるわけですね。

 

清水さん:当然そうですね。冷蔵庫も洗濯機も全部半導体で動いています。

昭和の時代には半導体のことをよく“産業のコメ”と表現していたんですが、全ての電子機器や社会システムは半導体で動いています。新幹線も電車も。

“半導体を制するものが、技術の世界を制す”と言われ、長いこと半導体に関してはすごい競争が行われてきたわけですね。半導体技術がないとわれわれの日常生活は何もできなくなっちゃうんです。

 

 

半導体競争の鍵を握る「ビサイカ」

 


これまで15年近くにわたり、製品の分解や分析を行ってきた清水さん。時代とともに、半導体にも大きな変化が見えるようになったと言います。


 

ディレクター:半導体の量や質は、近年どのように変化していますか?

 

清水さん:「ビサイカ」技術の進展があります。

 

ディレクター:ビサイカ?

 

清水さん:「微細化」技術です。

半導体を載せる基板の面積が以前は「1」だったとします。細かいものを作る加工技術が進化して半導体が微細化すると、必要な基板の面積が半分や4分の1になります。そうなると「面積が4分の1になったんだから、じゃあ4個載っけてもいいよね」という考え方になります。

例えばメモリーですと、1ギガバイトの容量だったものが微細化によって、同じサイズで2ギガバイト入れることができる。さらに微細化すると4ギガバイト、8ギガバイトと、どんどん容量集積密度が上がってきます。

我々が日常的によく使うSDカードも今128ギガバイトや256ギガバイトが数千円で買えますよね。昔だったらあれだけの容量のものは数万円したんです。微細化技術が進むことで、従来は高価だったものが、自分たちのお小遣いで買える範囲になっています。

この微細化による進化が、半導体の進化の中で1番大きなウエイトを占めていると思います。微細化の競争に乗り遅れた者は、世界競争の中から脱落してく可能性は非常に高いと思っています。

 

 

 

最新CPUは”マルチタスク”が進化

 

ディレクター:今のはメモリのお話でしたが、それ以外の半導体ではどうですか?

  

清水さん:パソコンやスマホのカタログで「デュアルコア」とか「フラットコア」という名前を見たことがあると思います。あれは何かというと、CPUと呼ばれる人間の頭脳にあたる半導体のことなんですが、最新のスマホでは大体4コアから8コアのCPUが載っかっています。

メモリーの場合は微細化によって容量が増えていきますが、演算機(CPU)の場合は「並列性が高まる」と言って、2コア→4コア→8コアと、コア数をどんどん増やすことで演算性能があがったり、演算時間が短くなるという進化が起こっています。

たくさんのCPUを載せるということは、人間でいうと頭脳が4個増えるようなもので、例えばAという作業をしながらBという作業を別の脳にやらせるといったマルチタスクが、以前よりも多くできるようになります。

 

ディレクター:もう少し平易に言うと、どういうことでしょうか。

 

清水さん:例えば片側1車線の道路だと、遅い車がいたら必ずほかの車もそれに合わせて速度が遅くなりますよね。でも2車線、3車線、4車線の道路なら、多くの車が同時に並列で走れます。

高速道路と同じように、CPUの数を増やせば増やすほど、みんなが潤滑にスムーズに動けるようになるととらえてもらえばと思います。

 

  

ディレクター:つまり半導体は微細化すると、製品としての性能が・・・

 

清水さん:純粋に4倍になるわけではないですが、4倍になる可能性を秘めるほど、たくさんのCPUを持つことができると。

 

ディレクター:それがこの半導体の世界で見えてきたことですか?

 

清水さん:ええ、今起こっていることですね。

過去10年間くらいでスマホのサイズはほとんど同じです。半導体に割り当てられる面積が、決して増えているわけではないんです。微細化によって、同じ面積で搭載できるものをどんどん増やしてるのが、半導体の進化なんです。

 

 

 

『東京~大阪』が『東京~横浜』に縮まる?

 

ディレクター:半導体の処理速度が速くなったのは、なぜなんですか?

 

清水さん:ええとですね・・・例えば皆さんが、東京から大阪に行くのと、東京から横浜に行くのってどちらが速いですか?

 

ディレクター:それは横浜ですね。

 

清水さん:微細化すると電子回路の物理的な距離が短くなるので、電子を送る時間も短くなんです。例えば「トランジスター」のスイッチング速度とか。

電子を送る距離がたとえば『東京~大阪』くらいだったものが『東京~横浜』くらいに縮まるというわけです。

微細化による恩恵は非常にたくさんあります。多くの機能を載せることができる。処理速度も速くなる。一石二鳥みたいな効果があるってことですね。だから、微細化の競争になるんです。

 

ディレクター:なるほど・・・

 

清水さん:非常に面白い世界です。

 

 

日本製品だけど中の半導体は・・・

 


清水さんは、スマートフォン以外に日本の電機メーカー製の「イヤホン」や「美容機器」も分解し、驚くべきことを教えてくれました。


 

清水さん:では2つの製品を分解してみます。まずソニーの新しいワイヤレスイヤホンです。私も分解するのは今日が初めてです。新品をこれから開けます。

 

 

数分後…

 

清水さん:これがいわゆるボタン電池ですね。この電池でイヤホンを動かしてます。で、ここにコンピューター基板があって、ここにスピーカーがあると。非常に単純な構造になってます。このコンピューターチップの部分は今、白いシールが上に貼ってあってあります。

 

ディレクター:そこに入っているのが半導体ですか。

 

清水さん:このワイヤレスイヤホンを駆動させている半導体になります。

 

 

清水さん:スマホなどから音楽のデータを無線で受け取ったり、そのデータをスピーカーに渡して音声にしたり、さまざまな処理をしている半導体になります。

 「airoha」というメーカーの型名が書いてあります。台湾の通信メーカーです。

 

 

ディレクター:日本製じゃないんですか?

 

清水さん:メーカーとしてはソニー製ですよ。ソニーの製品だけど中は台湾製だと。

 

 


もう1つの美容機器も分解してみると、中には海外製の半導体が使われていました。

日本の半導体の自給率はおよそ27%。大半を輸入に頼っています。

日本製の電気製品でも、半導体は海外製――

こうしたことは決して珍しいことではないと清水さんは指摘します。


 

清水さん:僕らは日本の大手電機メーカーの製品を年間50~100機種ぐらい分解しているんですが、中はほとんどが海外製の半導体で出来ています。日本製を見かけるのは、どっちかというとレアなほうかなって。そんな状況がどんどん広がってます。

 

ディレクター:清水さん、製品の分解を何年やられているんですか。

 

清水さん:えーとね、前職まで合わせると、15年くらいやってます。

 

ディレクター:15年の”分解生活”の中で、日本の半導体シェアなどで感じることはありますか?

 

清水さん:昔はどの製品を分解しても3分の1くらいは日本製でした。ところが2010年を境に3分の1が4分の1になり、2015年ぐらいから劇的に減ったなという感じがします。

 

 

半導体 “大競争時代”

 

 


半導体は技術覇権の鍵を握る存在として重要性を増し、各国はし烈な開発競争に乗り出しています。そうした中、日本は多額の税金を投じて海外企業を呼び込み、生き残りを図ろうとしています。

そして今、コロナ禍でのテレワークの広がりや巣ごもり需要などを受けて、半導体が世界全体で不足。日本はどういう戦略をとるのか――

12月16日(木)放送のクローズアップ現代+でさらに深掘りします。


 

クローズアップ現代+「半導体 大競争時代 日本の戦略は?」(2021年12月16日放送)

放送1週間後まで見逃し配信中|NHKプラス

 

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