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広がるSNS精子提供 作家・川上未映子さん 放送後未公開トーク

NHK
2021年9月17日 午後2:39 公開

9月14日(火)に放送したクローズアップ現代+「それでも子どもをもちたい 広がるSNS精子提供」。SNSを介して精子がやりとりされるケースが増える中、その背景にある「多様化する家族」のあり方についてお伝えしました。スタジオゲストとして出演したのが、精子提供で子どもをもとうとする女性の葛藤を描いた「夏物語」の著者・川上未映子さんです。

放送終了後、井上・保里キャスターが、さらに詳しくうかがいました。

 

9月14日放送「それでも子どもをもちたい 広がるSNS精子提供」

番組の概要をお伝えするテキストダイジェストはこちら

 

「生まれる」ということは 取り返しのつかないこと

作家 川上未映子さん

大阪生まれ  2008年『乳と卵』で芥川賞受賞

2019年に書いた『夏物語』は世界各地で翻訳され、大きな反響を呼んでいる

 

川上未映子さんの著作「夏物語」は、精子提供で子どもをもとうとする女性の葛藤を描いた作品です。主人公は、大阪の下町で生まれ、小説家を目指して上京した夏子。38歳のとき、自分の子どもに会いたいと思い始めます。子どもを産むこと、もつことへの周りの声を聞く中で、出会ったのが精子提供。パートナーがおらず、性行為に抵抗がある夏子は、結婚をしないで子どもをもつ選択肢を考え始めるのです。

 

井上 裕貴キャスター:

そもそも、本のテーマに精子提供をとりあげたのはなぜですか。

 

川上 未映子さん:

人間の中で取り返しのつかないものというのは、代表的なものは「死」で、死んでしまったらもうかえらない。それと同じように、「生まれてくること」も取り返しがつかないことだと思っていました。「死」について考えるのと同じように、「生」について考えたいというのがあったんですよね。子どもの頃から、何がよくて何が悪いのか、何が善悪を決めるのかという倫理全般に関心があるので、このテーマになったのだと思います。

 

保里 小百合キャスター:

主人公の夏子は迷いながらも、精子提供で子どもをもつという決断をしたわけですが、その道を選んだということについては、川上さんはどのような思いを込めたのですか。

 

川上さん:

この本は、当事者の方の声がなければ、書くことはできませんでした。執筆するにあたってわたしのなかに最初からあったのは、精子提供で生まれてきた人たちの存在や思いをどんな意味においても否定したくないという気持ちでした。そして物語としては、夏子にとってより困難な、未知の体験を用意すること。読者の中にはハッピーエンドと読んでくれる人も多いのですが、本全体を通して読んだときに、無条件に善いと思われていることは本当にそうなのかと問うている小説で、どうしたって人は愚かな行為かもしれないことをしてしまうのだとも、読める小説だと思います。

  

 

1人の提供者から50人の子どもが生まれる いびつさ

 

井上:

番組では精子提供によって「50人の子どもがいる」という男性が出てきます。その事実に男性として何とも言えない気持ちになったのですが、川上さんはどう見ましたか。

 

【NHKプラスで映像を見る】50人に精子提供をしてきた男性(※9/21まで見逃し配信中)

 

川上さん:

いろんな知り合いの男性に、こんなふうにたくさん提供することについてどう感じるのかを聞いてみたら、自分の知らないところで50人の子どもがいるというのは、やはり想像が追いつかないようです。

でも、提供者の方は私たちが感じている、いわゆる「子ども」という概念とは違うことを感じていらっしゃるのかもしれないですね。また、小説を書くために調べたんですが、提供者の中には、人助けという動機に加えて、自分の繁殖力・生殖力がいかに強いかということをアイデンティティーに感じている人も多いようです。どう思われますか?

 

井上:

提供しているものは「生命の種」ですよね、それをどう捉えたらいいのかというのが本当に分からなくて。

 

川上さん:

命というものと、シリンジで自分で……というどこかDIYみたいな感じのものとの間にギャップを感じますよね。でも、提供者の倫理を問いたくなる気持ちと同時に、提供を受けて「希望だ」という女性が現実にいらっしゃる。VTRのリアリティには本当に考えさせられました。

ただ、個人どうしが直接やりとりするというのは、希望者が危険にさらされるばかりでなく、感染症の問題もあって多大なリスクがある。ちゃんとアクセスできる医療体制、そして親の気持ちや事情よりも、誕生する子どもの権利を保障することが最優先です。

 

 

子どもの権利 ぽっかりと忘れられている

井上:

第三者の精子を自分で体内に入れるということに、男としても抵抗があったのですが。

 

川上さん:

当事者になってみないと分からないことはたくさんあって、例えば、不妊治療であっても、他人から見たら「そこまでしなくても」と思えるようなことでも、当事者の人たちにとっては、そのときどきにおいて最善の方法なのだと思います。とくに今回のVTRの方たちは、もとからマジョリティーが当たり前に享受している選択肢がない状態で、決死のジャンプをしなければならない瞬間があるんだと思う。

「こんなことが本当にできるのか」と多くの方が自問自答するのだけど、それをするのか、親にならないかという二択を迫られる。それだったら親になるという選択をする。それは当事者にしかわからない決意と選択なんだろうなと思います。

 

保里:

一方で、生まれてくる子どもの権利は十分に保障されない可能性はあるわけですよね。

 

川上さん:

子どもの権利をめぐってはいろいろな立場からの事情があるそうです。親は提供者が後になって子どもにアクセスしてくる可能性を絶ちたい。そして提供者の側は、養育の義務を追求される恐れを排除したい。そこに親が感じる世間体などもあり、匿名での提供が主流になっている。

そして、子どもだけの思いや権利だけが、ぽっかりと忘れられている。これは本当につらいことで、当事者の方たちは、人生を賭けてご自身の半分、根拠を探していらっしゃいます。本当に切実な問題なのです。わたしが今日お伝えしたかったのはこのことです。出産は自分とは違う他者を、本人の同意なく迎え入れる、圧倒的に非対称な行為です。子が自分の出自を知りたいと思ったときに知ることのできる権利、知りたくないときは知らずにいられる権利を保障するのは、この方法で子と出会おうとする親と、それをバックアップする社会の絶対的な義務だと思います。きちんと情報が管理され、責任を負う第三者機関の整備が本当に必要です。

 

  

常に自分の物差しを点検する

井上:

本来、子どもをもつことももたないことも、あらゆる生き方の選択が認められる社会になるべきだと思うのですが、日本は「結婚しない」「子どもを生まない」ということについては、「なぜ」と理由を聞かれてしまいますよね。どうしたらそういうことから解放されると思いますか。

 

川上さん:

生むことについては何も理由を聞かれないですよね、でも生まないことの理由はいつも聞かれるんですよ。現実に少子化が進んでいて、全員が子どもをもつわけではなくなってきているので、周りを見渡せば子どもがいる人、いない人がいるのは当たり前になっています。

認識よりも先に状況が進んでいくと思うんですけど、それにつれて社会通念も日々更新されていくものですよね。大切なのは、自分の物差しを常にチェックすること。この物差しの効力が何によるものなのかを、いつも考えているのは大事ですよね。

嫌悪感を持ってしまうときにも、それがどこからくるのか、それを発露する前にいったん問う。SNSなどでもそうですよね。今、思ったことをすぐに言葉できる時代になったから、より一層自分の心の動きや反応には慎重になっていければと思います。

 

 

川上 未映子さんが出演 スタジオトークの映像

「スタジオトーク前半」を見る

「スタジオトーク後半」を見る

※「NHKプラス」に移動します(9月21日まで見逃し配信中)

 

 

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