「将棋界が藤井さんを倒すためにどうしたらいいか考えている」…名棋士が語る藤井聡太

NHK
2021年10月6日 午後3:54 公開

デビューからわずか5年で三冠を達成した藤井聡太さんの飛躍を、いま多くのプロ棋士たちが“想像を超えている”と驚きをもって見ています。

藤井聡太さん、そして将棋界になにが起きているのか、6人の棋士たちがそれぞれの視点から語りました。

  

藤井聡太の強さとは? タイトル戦 “勢力図”と驚異の記録を解説

 

羽生善治九段 “藤井さんには自分なりに変化していく強さがある”

棋士でただ一人の「永世七冠」 藤井さんと同じく中学生棋士としてデビュー 最年少・前人未到の記録を打ちたて続けた

 

“平成の絶対王者”として将棋界を第一線で率いてきた羽生さん。藤井さんの近年の活躍に、結果や記録の素晴らしさだけでなく、ある「変化」を感じとっていました。

羽生さんが注目するのは、この数年、藤井さんが採用する作戦の変化です。

デビューしたころから藤井さんが特に得意としていた作戦は、定跡が体系化され棋士の間でも深くまで研究が進んでいる「角換わり」という戦法だったのに対し、最近はまだセオリーが確立されていない「相掛かり」という戦法をよく指すようになっていることを指摘します。羽生さんはそこに、藤井さんの強さの秘けつを見出していました。

  

(羽生善治九段)

「自分自身の興味、テーマみたいなものが変わってきているのかなという印象は受けています。その時、その時に自分なりに変化していく強さがあるんじゃないかと。経験値の部分ではまだ少ない部分もあるんですけど、未知な局面への対応力・適応力が高いからこそ、こういう結果を残せているのかなと思います。

1局1局、すべての棋士たちが(藤井さんが)どんな将棋を指すか注目を集めていますし、定跡の最新型、最先端のかたちを提示しているところもあります。細かいところでいろいろと小さな工夫を毎回されているので、非常に見ていて興味深いというか勉強になる」

 

“永世七冠” 羽生善治 が語る “令和の天才”藤井聡太の「成長」

 

 

中村太地七段 “藤井さんは最新技術を使った「羅針盤」を手にして航海” 

元「王座」 羽生さんから初タイトルとなる「王座」を奪った

 

中村さんは、ここ数年で藤井さんの将棋の実力はとてつもないくらい伸び、まさに「王者の指し回しだ」と語ります。

 

(中村太地 七段)

「藤井さんは人より明らかに精度の高い最新技術を使った、羅針盤を手にして航海している印象です。海が広くて何も目標物がないように見えるところでもしっかりと進むべき方向を把握することができる。

どの棋士とやっても、普通に指して普通に勝つことができる存在。将棋界全体が藤井さんを倒すために、藤井さんといい対局ができるためには、どうしたらいいかというのを考えている時期になっていると思います」

 

中村さんは、藤井さんの進化は総合的な力が伸びた結果だと見ています。

 

「大局観も伸びているし、研究の積み重ねによって序盤でも出遅れない、むしろリードするぐらいになっています。相変わらず読みのスピードは速いし、すべての能力が伸びた結果なのかなと思いますね。一朝一夕でなるものではないので積み重ねがここにきて急に実を結んだような感じだと思います。

タイトル戦などの大きな勝負も10代のうちにたくさん経験しているので、さらに伸びていくことは間違いない。今はAIもある時代ですから、成長に終わりがないと思います」

 

 

斎藤慎太郎八段 “藤井さんは勝っても反省するタイプ”

前「王座」 今期「名人戦」挑戦者にも 9月に行われた棋王戦・挑戦者決定トーナメントで藤井さんから白星をあげた

 

ことし9月にも藤井さんと対局している斎藤さんは、藤井さんの指し手の「正確性」に危機感を募らせたと語ります。

 

(斎藤慎太郎 八段)

「正確さ、リードしたら逆転されない指し方、逆転負けというものが相当に少ないのは藤井さんの特長かなと思います。つまり、中終盤の精度が相当にほかの棋士に比べてもたけている。

藤井さん相手には、間違えると厳しいと思わされる。それまでの道のりというか、積み重ねてきた藤井さんの棋風というのがあるので、対戦するにあたっては研究することにはなるんですけど、『ああ、これほどの将棋を指しているのか』と思うと、こちらは危機感を持って対局させられるというようなところがあると思います」

 

斎藤さんは、藤井さんの進化の裏に、勝ち負けに関わらず自分の指した将棋から何かを学び取ろうとしてきた姿勢があると考えていました。

 

「もっとプロ歴が長くても同じところにはなかなか到達しないものなので、経験の密度というか、藤井さんは勝っても反省するというタイプだと思うんですね。勝った将棋でも、この一手はよくなかったというような反省をすごく大事に持っている。普通は勝ったら、よかったと思って終わることも多いと思う。でも藤井さんのインタビューとかコメントを聞くと、勝っても、この将棋は不満が残ったとか、課題が残ったというコメントが多いのは、向上心からくるものだと思います」

 

 

広瀬章人八段 “羽生さんが出てきたときは、こういう気持ちだったのかな”

前「竜王」王位戦第2局で藤井さんと豊島さんの対局の立会人を務めた

 

前竜王の広瀬章人さんは、藤井さんと過去に対局した際、見た目から感じる「普通の若者」というイメージと、指し手の精度とのギャップに驚いたと言います。

 

(広瀬章人 八段)

「羽生さんとかが出てきた時は、みんなこういう気持ちだったのかなという印象ですね」

 

広瀬さんは、多くの棋士が今期の名局としてあげる「王位戦」第2局、藤井さんが最も苦手としてきた豊島さんを相手に逆転勝利をおさめた瞬間を立会人として目撃していました。この戦いは藤井さんと豊島さんのタイトル戦の行方に大きな影響を与えたと感じています。

 

「先手の豊島さんに有利な条件が多くて、焦らないでじっくりいっても、たぶん勝っていましたし、ほぼ決めにいったんですけど、藤井さんはたぶん意識しないで、(逆転の)局面に持っていって、相手に選択肢を与えながらチャンスを待つ。めったに見られない藤井さんの一面が皆さんの記憶に残ったんじゃないかなと。

藤井さんを相手にすると、みんな終盤のほうでどうしても劣ってしまう、最終盤でほとんどミスを期待できない相手というのが、どれほど効果が大きいかというのが、自分は見ていて恐ろしいなと思ったところですね。豊島さんにとっては、相当ショックな逆転負けだったんじゃないかなというのが率直な感想です」

 

 

畠山鎮八段 “豊島さんは意志の人、根性の人”

関西奨励会の「幹事」として プロ入り前から豊島さんを見てきた

 

藤井さんの最大のライバル、豊島将之さんをプロ入り前の幼い頃から知る畠山さん。「王位戦」「叡王戦」の連戦に敗れた豊島さんの、今後の底力に期待を寄せています。

 

(畠山鎮 八段)

「豊島さんは、意志の強さや根性の人といいますか、そこは変わっていないですね。子どもながらに、絶対にプロになるんだという強い意志も感じましたし、どこまでも将棋を極めたいという、すごく強いスタイルがありました。中学生くらいになった時は、対局の決着がついても1人、気になる盤面をずっと見ていたり、頭の中で考えたり。将棋を極めるんだ、自分の将棋を指すんだという“意志の人”だと私は思います」

 

畠山さんは、10月から始まる「竜王戦」で再び対局する豊島さんと藤井さんが、さらに高いレベルの戦いを繰り広げていくと予想しています。

 

「普通の若い棋士だと、年上にちょっとでも勝ったら、『自分はこの人を追い越した』と思ってしまうでしょうけど、タイトル戦で藤井さんは盤上の中の芸術性を求めている人ですからね。2つ勝ったけど今度は、自分より長く棋士をしている豊島さんが自分の知らない世界で向かってくるのが、藤井さんとしては楽しみでしょうね。豊島さんを手強いと見ているのは間違いないですね。

(豊島さんの)経験としては間違いなく、今が非常につらいとは思いますが、豊島さんなら乗り越えられると思いますし、これからも豊島さんがまた一皮むけて、どんどん強くなって、よりレベルの高い豊島・藤井戦がでるでしょうね」

 

 

杉本昌隆八段 “豊島さんは藤井三冠にテーマを与えてくれる棋士”

藤井さんの師匠藤井さんが初段の時、同郷のつながりで豊島さんと藤井さんを引き合わせた

 

師匠の杉本昌隆さんは、藤井さんがプロになってから大きく負け越した豊島さんの存在が、藤井さんの進化に大きな影響を与えてきたと見ています。

 

(杉本昌隆 八段)

「同郷の先輩棋士でもあるわけですが、対戦を積み重ねてもどうしても勝てない、常に藤井三冠にとって、豊島竜王は壁のような存在ではなかったかと思います。ほかのトップ棋士には互角以上に戦うことも多いのに、なぜか豊島竜王相手だと最後はひっくり返されてしまう、どんな展開でも勝てないという感じになっていました。

勝てない相手がいるということは、(藤井は)何か自分がミスをしているんだと捉えたはずなんですね。そのミスをなくすためには、どうしたらいいかを考える、豊島さんは藤井三冠に常にテーマを与えてくれる棋士なのかなという気がします。

年齢的には10歳くらい離れているので、豊島さんが常に先を走っていて藤井三冠が今、そこに追いつきかかっているという段階なのかなと思います。

勝負は紙一重なので、この2人のタイトル戦は続きます。竜王戦もありますから、おそらく次回の豊島竜王はまったく別人のように、新たに対策を立てて竜王戦に向かわれると思います。豊島・藤井戦は将棋界のゴールデンカードの1つとして、ずっと続いていく、今回がその始まりだと思います」

 

10月から始まる「竜王戦」

 

名だたるトップ棋士たちも驚くほどの進化を遂げる、19歳の藤井聡太三冠。今月(10月)戦いの火ぶたが切られるタイトル最高峰「竜王戦」での、豊島将之さんとの七番勝負の行方に、将棋界内外から熱い視線が注がれています。

 

「竜王戦」の日程

  • 第1局 10月8日(金)・9日(土)

  • 第2局 10月22日(金)・23日(土)

  • 第3局 10月30日(土)・31日(日)

  • 第4局 11月12日(金)・13日(土)

  • 第5局 11月26日(金)・27日(土)

  • 第6局 12月4日(土)・5日(日)

  • 第7局 12月17日(金)・18日(土)

 

 

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