”大島てる”とは?事故物件情報サイトの運営者を直撃取材

NHK
2021年10月5日 午後8:49 公開

事故物件に注目が集まる大きなきっかけとなったと言われている有名な情報サイト。どの物件で、どんな事件や事故が起きたのか、およそ6万件の情報が掲載され、今も増え続けています。

事故物件を気にする人にとっては知りたい情報が集まっている一方で、起きた事実がいつまでも消せずネット上に残り続ける、いわゆる「デジタルタトゥー」という問題に繋がるという指摘も。

サイトの運営者は、ある大きな意義があると言いますが、本当に問題はないのでしょうか。取材しました。

(クロ現+ 取材班)

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始めたきっかけは 不動産投資で大損をしないため

大島てるさん

――そもそも事故物件の情報を載せたサイトを作ろうと思ったきっかけは何だったんですか?

大島:今はこのサイト運営が本業なんですけれど、創設した時は私自身が不動産業に携わっていました。仲介業者さんではなくて、不動産投資家のようなイメージで、大金を投じて物件を買っていたわけです。大金を投じて買う身になると、徹底的にあら探しをする必要があるわけです。大損しないために。

例えば雨漏りがしないかとか、シロアリに蝕まれていないかとか、そういう物理的な欠陥や、違法建築などの法的なところ、あるいは同じマンションのほかの部屋に暴力団の事務所がないかなどの環境面はチェックできる。

しかし、心理的な瑕疵=人の死に関しての情報はなくて、やむを得ず自分たちのために、労力を割き始めたというのがそもそものスタートでした。

平成17年(2005年)の9月にオープンした当初は、自作自演といいますか、我々が知り得た情報を載せて、反響がないから、合っているか間違っているかもわからないという時期でした。

その後、テレビ番組などで取り上げられるようになって、集まっている情報は本当に爆発的に増えているという状況です。

なぜネットで公開するのか?-ネガティブな情報を扱うことが自浄作用を働かせる

事故物件サイト

――事故物件の情報を不特定多数の人が見ることが出来るネットに出すことへの反発もあると思います。誰でも見ることができるようにしたのはなぜですか?

大島:誰でも見られるようにする必要ないじゃないかというご意見があるのは重々承知しています。中には、すごく高額な利用料金を設定すれば、真剣に家探しをしている人だけが閲覧して、悪い情報が世間に広まらずに済むじゃないかと言われることもあります。

それなのに、なぜ私が無料公開、会員登録も不要という仕組みにこだわっているのかというと、なるべく多くの人の目に触れないと、間違った情報を正すという自浄作用が働かないというお話があるからです。

自殺があったという話は、所有者にいやな思いをさせると。だからこそ、ちょっとでも間違った情報が載ると「違う」という反応が来るようになり、結果的には間違った情報というのは一瞬しか載らない。

長い目で見れば、ネガティブな情報を扱うことが自浄作用を働かせる、機能させるための大事な条件なんじゃないかというふうに思っています。

さらに言えば、私はむしろネガティブなことでなければ、載せる意義はないくらいに考えております。

ジャーナリズムの神髄は、誰かにとって困ることを晒すということに尽きるということですので、何もネガティブな要素がないのであれば、むしろ公表する意義がない。そのぐらいには考えております。

織田信長が死んだ本能寺は事故物件か?

――それでも間違った情報が広まってしまう可能性はないですか?

大島:間違った情報が確認できたら、我々が削除します。いつまでも残るかというと、そんなことはないですね。そして、載ったとしても、今であればそれが間違っていたということも含めて伝播していきます。

サイトに“本能寺の変”のことが載っていると。そこで織田信長が自害に追い込まれたんだと書き込まれていると、たびたびSNS上でにぎわったりすることがあるんですけど、実際には載っていないんですね。いたずらで載ったことはあるんですけど、私が消したわけです。

第三者から指摘が寄せられている状況で、事故物件に関しては、間違った情報がいつまでも流布するということはないですし、ちゃんと反論もセットで流通するということであれば、打ち消すというふうに私は考えています。

載せ続けている正しい情報に関しての反論については、これは歴史的な事実ですから、「こんなことは黙っていればいいじゃないか」と、そんなものが通用するとは、私には思えないですね。

3年という告知期間が短いと考える消費者は ますますサイトを見るようになる

事故物件サイト情報画面

――国のガイドラインは事故物件であることを告知すべき期間は、賃貸の場合おおむね3年という案になっていますが(インタビュー後、2021年10月8日に正式に策定)、大島さんのサイトなどに残ることで「デジタルタトゥー」になってしまうという指摘もあります。どう思われますか?

大島:デジタルタトゥーで言えば、私はまさに彫り師の立場になるわけなんですけど、このサイトは、いち私企業が勝手にやってるだけですから、見たくなければ見なければいい、あくまでも一番気にする方に合わせて発信している情報です。

国のガイドラインが出たことで、これであのサイトは終わりだと。デジタルタトゥーのように事故物件情報を公示し続けてるあんなサイトはつぶされるはずだというような見解が一部にあるんですけど、今回のガイドライン案のどこにも、3年を超えたら告知禁止だという文言はないんですね。であるからには、我々としても何も気にされてないじゃないか、自由な領域ではないかということになるわけです。

これから、国の指針に従っていると、さも良心的な不動産業者のように振る舞う業者がたくさん出てくると思うんですね。でも、3年では短いじゃないかというような反発を覚える消費者は、きっと今後も我々のサイトを、むしろますます見るようになると思うんですね。

“人が亡くなったところには住みたくないと言ってるのであれば、その思いは尊重されてしかるべき”

“大島てる”さん

サイトは事故物件について気になる人だけが利用すればよいと語る大島さん。しかし、このサイトが世間の事故物件に対するイメージを悪化させ、高齢者が住宅を借りにくくなる問題に繋がっているのではないかという指摘もあります。

最後に、その影響についてどう考えているか、問いました。

――運営されているサイトが、事故物件に対するイメージに大きな影響を与えたのでは?

大島:もともと消費者の中に事故物件は嫌だという思いがあって、ところが告知義務があいまいだったがゆえに、真実に触れることができなかった。それが、ネット社会が浸透して、わかるようになったということだととらえています。

大家さんに正直に告げてもらえなくて、結果的に家賃も下げてもらえないままで、これまで住んでいたという可能性があるわけですね。

業者に嘘をつかれたら、やっぱり腹が立つと思うんです。ですから、事故物件を公開するサイトしか運営できませんけども、どの大家さん、どの業者さんが正直者で、どの業者どの大家が嘘つきなのか、それをあぶり出しているということですね。

理屈で幽霊なんかいないんだと。でも、やっぱり怖いと思うのが人間として自然な感情だと思うんですね。住みたくないんだ、人が亡くなったところに。と言ってるのであれば、その思いは尊重されてしかるべきだというふうに思います。

そうすると日本でも雨風さえしのげればどこでもいいという時代が長かったわけですが、ぜいたくな趣味趣向として人が亡くなったようなところはちょっとかんべんという発想が出てくる。

事故物件が嫌がられるような豊かな社会になってきているということは喜ばしきことだというふうに考えています。古くさい迷信の話ではなくて、まさに現代的な話だと。

私はよくたとえ話で、ペットの犬用のおせちと同列だという話をします。つまり、生きていくのに絶対必要なサービスかというとそんなことはないんですけど、豊かな成熟した社会であればこういうサービスも成り立つということです。少しでも消費者の取捨選択に資するサービスを提供したいです。

※取材後記

需要がある限り情報を出すというのが大島さんの強いポリシー。取材班の周りでもサイトをチェックしたことのある人間もいて、需要は確かに多いと感じます。

しかし一方で、事故物件というレッテルが残ることに苦しむ人を思うと、割り切れない思いを抱きました。諸刃の剣の一言で片付けられてしまうことかもしれませんが、これから発表されるガイドラインも含め、注目していきたいと感じました。

(クロ現+ 取材班)

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