緊急報告 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟

NHK
2021年7月29日 午後0:04 公開

オリンピック・パラリンピック期間中に医療機関で何が起きているのか――私たちが去年4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院「新型コロナ重症者病棟」の現状について、お伝えしたいと思います。1回目は、治療の最前線で指揮をとる医師からのメッセージです。   (報道局社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

  

”終わらない闘い“ コロナ重症者病棟のいま

オリンピック開会式直前の7月23日・午後7時半過ぎ。聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)のICU内では緊迫感が走っていました。17床あるICUの病床はこの時点で9床埋まり、そのほとんどが50代の患者たち。命をつなぐ“最後のとりで”とされる人工心肺装置・エクモは、これまでで最大の4台が稼働する事態…。治療の最前線で指揮をとる藤谷茂樹医師を中心に、医師や看護師らは今後の対応について話し合っていました。

  

「この波は確実に第3波を越える。病院スタッフの人員を増やさなければならない。オリンピック期間中が正念場だ」

  

  

国立競技場に聖火が到着した午後11時半過ぎ。藤谷医師は病院内の自席のパソコンに向かっていました。部屋のテレビに映し出される開会式の様子…。テニスが趣味でスポーツ観戦が好きな藤谷医師は時折、開会式の映像に目をやりながら、新型コロナウイルスに関する国内外の最新論文をチェックしていました。

モニターには聖火のトーチを持ちながら無観客の国立競技場を走る医師と看護師の姿。その姿を見つめる藤谷医師。傍らに置かれた、ふだんは飲まないエナジードリンク…。新型コロナ治療の最前線に立つ国内外の医療スタッフたちの“終わらない闘い”は続いていました。

  

「病床ひっ迫 いま一度、感染防護の意識を」

  

ひっ迫する医療現場に立つ医師として、いま世の中に伝えたいことは何か――

私たちの問いかけに対して、藤谷医師は治療の現状を知り、いま一度感染防護について考えてほしいと強く訴えています。

  

聖マリアンナ医科大学病院  救命救急センター長 藤谷茂樹さん

「現在、新型コロナ感染の第5波が到来し、さらにオリンピックが開催されている状況です。必然的に人流が活性化され、海外からの新種の変異株が国内に持ち込まれる可能性も高くなってきています。

メダルラッシュでオリンピックに人々の心が向いている一方、医療の現場がどのようになっているのか、報道でもあまり取り上げられなくなり、希薄になってきているのが現状ではないでしょうか。患者の受け入れを続けている大学病院の現状について述べたいと思います。

私もオリンピック観戦をして、日本を応援しています。しかしながら、この一週間で20代から50代の患者さんが立て続けに入院してきます。

私たちの病院は、ダイヤモンド・プリンセス号の患者の受け入れを昨年2月から始めて以来、一度も途切れることなく、重症者を中心に入院患者の管理をしています。

ことしの6月までは、重症者の9割以上がイギリスで確認された変異ウイルスによる感染でしたが、7月後半になり、インドで確認された変異ウイルスのデルタ株が半数近くを占める勢いになってきます。

この2週間で、ECMOの導入が5名にも及び、しかも年齢層が40代~50代が中心となっています。中等症になり、他院に転院しても、次々と他院から重症化した患者が送られてきます。」

  

  「このインド型変異ウイルス株は、ウイルス量も他の変異株の1000倍にも及ぶことがあり、感染力は従来の1.5倍から2倍といわれています。そしてワクチン効果が従来のコロナ感染力よりも減少していることからも、この若い年齢層の重症化が蔓延してきていることは自明の理であります。

さらに新たな変異株の感染爆発など、予断が許されない状況となっています。

連日の暑さで熱中症も増加し、新型コロナ感染患者が救急患者として紛れ込んできています。救急医療自体の逼迫も起こり始めており、通常診療に影響を与えております。そして、中等症患者の受け入れを行う病院でも、病床がひっ迫してきています。

この炎天下の中、ECMOを一台使用すると温度が1.5℃も上昇する環境で防護服を身にまとった我々は日々働いております。

オリンピックで新型コロナの暗い影がさした雰囲気を変えたいという人々の願いもあろうかと思いますが、オリンピックを成功に収めるためにも一人ひとりが感染をまん延させない努力が必要であり、それは今まで当たり前のようにしてきた感染防護を再度、振り返って考えていただくことが肝要かと思われます。」

  

患者搬送が相次ぐ現場

  

オリンピック開幕から5日後の7月28日。聖マリアンナ医科大学病院の17床あるICUの病床はすでに12が埋まり、これまでにないほど緊迫感に包まれています。

この1年以上、65歳以上の高齢者で占めていた病床は今や50代の患者が殆ど。ワクチンによる効果なのか、高齢者の入院は減ってきているものの、ワクチン未接種である若年層の重症化が目立っています。そして都内では新規感染者が3000人を超えたというニュース速報。

取材からNHKに戻った直後、藤谷医師からメールが届きました。

  

「松井さん、あの後、大挙してまた患者がきました。ECMO5台全部まわるかもしれません!」

  

  

緊迫していたICUに激震が走っている様子が短いメッセージから読み取れました。ECMOに関わるスタッフは少なくとも8人。5台全部まわるとなると救命救急センターの半分近くのスタッフが対応にあたる計算になります。

新型コロナ対応だけでなく藤谷医師も話していたように、ことしは熱中症で入院する患者も増え続け、そのなかに新型コロナの患者も混ざっている可能性もあり、病院では気の抜けない日々が続いています。

感染拡大を抑えるために私たちに何が出来るのか、今後も重症者病棟からのメッセージを送り続けたいと思っています。

  

  

◆ 松井ディレクターによる取材記事

「私の知ってる父だった」 新型コロナ“看取り”の現場

◆ 聖マリアンナ医科大学病院を取材した過去のクロ現プラス

密着・医療最前線 “第2波”の苦闘(2020年8月25日放送)

新型コロナ“第3波” 最前線からの訴え(2020年11月19日放送)

コロナ重症者病棟 パンデミック下の年末年始(2021年1月5日放送)