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沖縄やんばる世界自然遺産へ 登録後の課題「外来種問題」

NHK
2021年7月14日 午後5:07 公開

登録後 観光客の急増で起こりうる事態

7月末に世界自然遺産への登録が見込まれる、沖縄島北部のやんばる地域。世界自然遺産登録後に想定されるのが観光客の増加です。地元経済の活性化に繋がると期待される一方、人が押し寄せてくることで、自然が保たれるのかと心配する声もあります。

(追記)7月26日、ユネスコの世界遺産委員会で、世界自然遺産への登録が決まりました。

地元で懸念されていることの一つが外来種問題です。沖縄島中部で広がっている「ツルヒヨドリ」と呼ばれる南北アメリカ原産の植物。“mile-a-minute“、「1分に1マイル広がる草」の異名を持ち、猛烈な勢いで広がるツルヒヨドリ。他の植物を覆いながら成育するため、その下にある植物に太陽光が当たらず枯らしてしまうなど深刻な影響を与えます。日本では1984年に沖縄のうるま市で最初に確認され、既に農作物を枯らすなどの被害も出ています。環境省によると、このツルヒヨドリがやんばるの世界自然遺産推薦地の周囲でも確認されています。

【元々あった木を枯らすツルヒヨドリ(特定外来生物)】

外来種とは、もともとその地域にいなかったのに、人の活動によって他の地域から入ってきた生物のことを指します。全ての外来種が悪いわけではなく、農作物や家畜、ペットのように、人の生活に欠かせない生き物もたくさんいます。しかし、一部の外来種は地域の自然環境に大きな影響を与え、生態系のバランスを崩し、生物多様性を脅かすなど深刻な問題を引き起こします。中でも特に重大な影響をもたらすものについては、環境省により「特定外来生物」に指定され、栽培・移動などが禁止されますが、ツルヒヨドリもそのひとつです。

生物多様性を支える やんばるの森に迫る外来植物

やんばるでネイチャーガイドを務める上開地広美(かみがいち・ひろみ)さん、ツルヒヨドリを始めとする外来種の問題は、被害が広がる前に対策をする必要があると訴え、調査や駆除活動を行っています。

【ツルヒヨドリを駆除する ガイドの上開地広美さん】

ガイド 上開地広美さん

「ツルヒヨドリを食べるやんばるの生き物は、ほぼいないんです。人間も、レタスは食べるけど、道に生えている草は食べられません。それと同じで、野生動物の生き物たちも食べる植物が決まっているんです。なので、ツルヒヨドリだらけになると、そこの地域の生き物が食べるものがなくなる。人間の目には同じように緑に見えるんですけど、生き物にとっては砂漠と同じです。

やんばるの森がすごいのは、世界中でここにしかいない生き物たちが、今でも安心して暮らせていけるだけの森の土台がすごいんです。この土台を揺るがしてしまうと、希少な生き物たちも棲むことができません。」

【多種多様な生き物が暮らす沖縄・やんばる地域】

駆除の際、除草剤などはもともと生息している植物へ悪影響を与える恐れがあるため使えません。ツルヒヨドリは根や茎の一部が数センチ残っているだけで、すぐに再生し広がっていくため、一つ一つ丁寧に根元から抜き取る必要があります。

外来種が広がる原因の一つは、人の往来です。服や靴に、種などが付着し人が運んでしまうことで生息域が広がると言います。世界自然遺産に登録され、訪れる人が増えると、その分、種などが運ばれる機会が増えることになります。実際、ネパールの世界自然遺産チトワン国立公園ではツルヒヨドリが大量に繁茂し、絶滅の危機にあるインドサイの生息地を脅かしていると言います。

ガイド 上開地広美さん

「世界自然遺産になると、有名になって大勢の方が来てくれると思います。今でさえ手がかけられてないところから広がってきているので、早く対策しないと、やがて自然が壊されてしまい世界自然遺産も取り消しになることも考えられます。そんな残念な結果は生みたくないので。」

人が来ても被害を広げないために

上開地さんが勤める会社では、観光客へのツアーも行っています。そこで今、取り組もうとしているのが、やんばるを訪れる観光客に、この外来種駆除を体験してもらおうというエコツアーです。企画したのは会社の代表を務める、仲本いつ美さん。

仲本いつ美さん

「観光客が来るから、自然が悪くなる、いわばオーバーツーリズムに向かっていくというのではなくて、観光客の方が訪れれば訪れるほど自然も環境もよくなるような仕組みができたらいいなと思っています。」

仲本さんは国頭村で生まれ育ち、2年前まで役場に勤めていましたが、過疎に悩むふるさとを、地域の魅力で活性化させたいと起業しました。役場時代に作ってきたつながりを活用し、この取り組みを進めています。

【外来種駆除を行うエコツアーを企画した 仲本いつ美さん】

やんばるのある国頭村、東村、大宜味村の3つの自治体では年間約1万人の修学旅行生を受け入れています。仲本さんは修学旅行のプログラムに、外来種駆除を行うツアーを組み込めないかと考えました。現在、地元の国頭村観光協会と連携し、その準備中。既に予約も入っているとのことです。

仲本いつ美さん

「外来種駆除はすごく人手が必要なところなので、生徒たちの手を借りることで手数を増やしていくこともできるし、実際に体験してもらうことで外来種問題について考えるキッカケになれば、環境教育にも繋がると考えています。」

やんばるの地元の人が自然の「守り手」に

この一石二鳥のアイデアを実現するために、仲本さんたちは民泊を営む地元のおじいやおばあに協力を得ることにしました。

大きな宿泊施設が少ないやんばるで、修学旅行生の受け入れ先になっているのが地元の民泊です。生徒4~5人が1つのグループになり、宿泊先になる民泊で農業体験を行い、心づくしの郷土料理を食べてもらうのが、やんばるの修学旅行のプログラムでした。生徒たちとの出会いを楽しみに、約130軒が受け入れています

【民泊先での農業体験を行う修学旅行生 写真:国頭村観光協会】

外来種駆除のツアーの際、一人のガイドだけでは目が行き届きません。4~5人の生徒のグループごとに地元のおじいやおばあが案内役として入ることで、例えばハブが出るような危険な場所に近寄らせないことや熱中症対策など、安全管理もしっかりできます。

今はまず、地元の人たちに外来種について知ってもらおうと、ガイドの上開地さんを中心に講習を行っています。

【講習会に参加する地元の方たち】

民泊を営む男性

「身近に外来種があるということは全然気がつかなくて、自分とこの集落でもそういうのが生えてたら駆除したいと思います。きょうは、ものすごく自分自身が勉強になりました。」

4年前、世界自然遺産への登録に一度「待った」がかかった沖縄・やんばる。仲本さんはその延期となったことが、結果的に外来種を広げずに済むことになったと前向きに捉えています。

コロナ禍で、まだ観光客が押し寄せてきていない今のうちに、一人でも多くの人に外来種問題について知ってもらえるよう活動を続けていくと仲本さんは話します。

仲本いつ美さん

「登録が一度、延期になったことで、人が来ても外来種が広がらないような仕組みを作る時間が出来ました。観光協会と連携したり、民泊業者の皆さんとの協力できる体制を作ったり。地域の人たちにも外来種の問題に気づいていただいて、来る人にもぜひその問題に気づいていただき、一緒に取り組める仲間になってもらいたいと思っています。」