「患者の命を守りたい」 私生活も一変…“第5波”と闘う看護師たち

NHK
2021年8月17日 午後1:06 公開

感染急拡大の中、新型コロナの治療にあたる医療機関で何が起きているのか――

聖マリアンナ医科大学病院の新型コロナ重症者病棟の現状をお伝えするシリーズ記事。

5回目は同病院救命救急センターで働く看護師からのメッセージを紹介します。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

  

【これまでの取材記事】

①緊急報告 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟

②半年以上たった今も…  新型コロナ ”後遺症外来” の現実

③重症者用ベッドが満床に “患者の選択”迫られる事態も

④“第5波”の猛威 増える妊婦の陽性患者

  

増床しても、すぐに満床・・・新型コロナ重症者病棟の現実

 

 聖マリアンナ医科大学病院

私たちが去年4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)は、8月に入ってから、新型コロナ重症者用のベッドを17床から24床まで増やしました。しかし、オリンピックの閉会式があった8月8日以来ずっと満床状態が続き、人工呼吸器を付けた患者が22人という危機的な状況にあります。医師も看護師も皆、これまで経験したことのない事態だといいます。

 

こうしたなか、急きょ一般病床10床を新たに新型コロナ重症者用にすると決断。17日から稼働させるにあたり、救命救急センターのスタッフだけでは手が足りず、一般診療にあたる看護師らの協力が必要となるため、一般診療に制限をかけざるをえなくなりました。

苦渋の決断の背景を大坪毅人 病院長は、こう語っています。

 

「災害モードです。あらゆる部署が一丸となって、事態にあたらなければならない」

 

 

「患者を助けたい! しかし、心身ともに削られる・・・」看護師たちの本音

 

救命救急センターで働く看護師(今年1月撮影)

 

“災害モード”というかつてない危機。この病院の救命救急センターで働く看護師は106人います。今、どういう思いで働いているのか――救命救急センターに配属されて5年目、新型コロナ患者と向き合い続ける男性看護師から、切迫したメッセージが寄せられました。

 

“私たち看護師は“第1波”の頃から約1年半、ずっとコロナと向き合ってきました。当院では、三次外来、ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)、夜間急患センターの4部門を全て、「救命救急センター」という1つの部署で担っていますので、1人でもスタッフから感染者を出してしまえば、救急医療が崩壊してしまいます。医療体制を守ること、自らの身体を守ること、家族や親しい方々を守ること、その全ての責任を感じながら、連日、日夜にわたり陽性患者の看護に当たるのは相当なストレスを伴います。

 

現在の“第5波”においては、感染力及び重症化するリスクが極めて高い、デルタ株の感染拡大が著しく増加しています。そんな中で、これまで“非コロナ”の重症者を受け入れていたICUも、全7床を陽性患者の部屋として稼働させることが決定しました。

 

HCUと合わせると、全24床にそれぞれ重症の新型コロナ感染者を受け入れている状況で、ベッドは既に満床です。PPE(防護具)を着用したまま、この猛暑の中、勤務時間のほとんどを陽性患者の部屋の中で過ごしています。心身ともに削られる思いです”

 

 

“私個人としても大きな危機感を感じており、三次外来においては、中等症以上の患者が連日、多数搬送されてきます。患者1人にかかるマンパワーは相当なもので、私たち救命救急センターでは、新型コロナの患者の対応をしながら、一方で通常診療の超重症患者の初療に当たらなければなりません。先日も、外来でコロナ陽性の患者を6名対応しながら、心肺停止の方を2名(内1名は新型コロナに感染していませんが、ECMO=人工心肺装置を導入)、さらには小さなお子様の人工呼吸器挿管の対応と、患者の命を守ることに精一杯な状態となりました。

  

各都道府県で新型コロナの診療を援助する調整本部が立ち上げられていますが、実際には感染者が多すぎて十分に機能しているとは言い難い状況です。自宅療養中の新型コロナ陽性者が、容態悪化で救急要請をする際、出動する救急車はすでに台数が足りず、さらに患者の受け入れもほとんどの病院で断られているのが現状です。当院には川崎市内に留まらず、東京都内、横浜市内から受け入れを断られ続けた患者が多数搬送されてきます。また一度病院で受け入れられた患者でも、他院では医療体制が整っておらず、想像を超える重症者であるという理由で、急きょ私たちの病院に搬送される場合もあります。当院は管轄地域の枠を超えて診療を求められているのです。

  

また、私たち看護師は入院生活の援助や医師の診療の補助を主な職としていますが、実際の現場ではそれ以上に多くの役割を担います。ベッドサイドで患者の状態観察を行うのは私たちの仕事であり、ケアだけではなく、人工呼吸器やECMOなどのクリティカルな機器類の管理、点滴の作成から投与、採血など各種検査。これらは清潔ケアや日常生活援助を行いながら、実践しなければならないことです。また診療場所の調整や、医師が円滑に診察出来るように他部門との連携を担うのも看護師です。通常運用であっても、とても大変なこの仕事を、“コロナモード”で質を落とさずに提供していくことは、口にするよりもはるかに難しいことです。それに加えて私たちは、患者のご家族のケアなども手を抜かずに取り組んでいます”

  

  

“今回の“第5波”を乗り越えるには、救命救急センターのスタッフだけでは乗り切れず、現在は各病棟から応援要請をしたり、過去に一緒に働いた仲間たちが善意で集まってくれたりと、みんなで一丸となって救急医療を支えています。好きなことも、やりたいことも、会いたい人も、私生活における全ての時間も、私たちは患者の命を守りたいというその一心だけで犠牲にしています。

 

私自身は、比較的体力も精神力もあると思っているので、まだ心に余裕がありますが、現場の看護師が全員そうとは限りません。みんな疲弊し、精神的にも負担を感じ、ただ毎日を「自分は看護師だから」という使命感だけで、患者の軽快を願って過ごしています。そういった精神状況の中で、連日絶えることなくコロナ陽性患者が救急搬送されて来ると、やはり心が折れそうになります。

 

医療崩壊は、単にベッドが埋まるということだけではなく、スタッフの精神状況が維持されなくなるということも含まれていると思います”

  

  

「感染させられない!」私生活も一変…常に危機感を持つ日常生活

 

去年12月撮影

 

この看護師によると新型コロナの対応が始まってから、生活は一変したそうです。昨年、誕生したお子さんは、8月13日で1歳を迎えましたが、自分が救命救急センターで働いている以上、「いつか家庭に新型コロナを持ち帰ってしまうのではないか」と常に危機感を持っているとのことでした。子どもに楽しい思い出を作ってあげたいと思っても、旅行はもちろん、近場であっても家族で出かけることは控え、もどかしさを抱えているといいます。また、友人や両親・親戚とはこの1年半、全く会っておらず、人とのつながりを最小限にしているとのことでした。

  

こうした中、自らが関わった患者との交流が心の支えだと言います。この看護師が“第1波”の時にケアをした患者が退院後、リハビリを頑張って社会復帰し、家族と共に苦難を乗り越え、感染した現状を講演するまでに回復。その患者とは互いに動画でメッセージを送り合ったといいます。看護師にとって、どんなにつらく、多忙な日々を送ろうとも、患者や家族が前向きに軽快していく姿を見ることができるのは、何よりも幸せなことだと話していました。

 

看護師が患者と家族をテレビ電話でつなぐ(去年12月撮影)

 

また、救命救急センター内では家族ケアチームを立ち上げ、家族に一定の条件をクリアした場合のみ、PPE(防護具)を着用し、終末期の新型コロナ患者との直接面会をできるようにしてきました。これまでこの看護師は、家族との直接面会や、長い間、共に寄り添ったご家族とのお別れの場の実現に関わってきました。目の前で家族が患者に触れ、温もりを感じながら、お別れができるということは、患者、家族の双方にとってかけがえのない時間になったのではないかと言います。

 

しかし今、聖マリアンナ医科大学病院では、感染急拡大により、病床がひっ迫。こうした家族対応が十分に行えなくなっています。「やりたい看護ができない」――看護師たちは、葛藤を抱えながら、目の前の新型コロナ患者への対応にあたっているのです。

 

 

【関連番組】

クロ現プラス「新型コロナ重症者病棟 “負のスパイラル”が招く危機」 (8月17日放送)

※放送後1週間は見逃し配信がご覧いただけます