多くの学校で2学期が始まっていますが、新型コロナウイルスの感染拡大により全国で休校も相次いでいます。この先3~4週間後には、子どもの感染はさらに増えるのではと懸念する専門家もいます。
家庭内で親子で感染するケースや、子育て世代の親が感染し子どもの生活に影響がでる事例も相次いでいます。
子どもの感染をどう防ぐのか――聖マリアンナ医科大学病院小児科の勝田友博医師に詳しく聞きました。(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)
子どもの新型コロナ感染 7割以上が家庭内感染
聖マリアンナ医科大学病院 小児科医師 勝田友博さん
(以下、勝田さんの話)
国内では2021年8月末時点で20歳未満の累積患者数が18万人を超えています。全患者数の中で20歳未満が占める割合も徐々に増加し、全体の2割に迫っています。
ただし子どもの患者数増加の原因は「デルタ株が子どもだけに感染しやすい」というわけではなさそうです。
デルタ株による流行が拡大した、8月15日〜21日に発生した国内新規患者数を見てみます。
年齢群別に比較すると次のようになります。(人口10万人当たり 厚生労働省発表)
▼20代が355.4人で最多
▼30代が183.6人
▼小児は10代が181.2人、10歳未満が101.1人
また日本小児科学会の調査結果から、子どもの新型コロナ感染はその7割以上が家庭内感染であることが知られています。
これらの結果から最近の小児症例数の増加は、保護者世代による大流行が家庭内への持ち込みを増加させた影響が示唆されます。
現時点では幼稚園・保育所・学校での感染拡大が与えた影響は限定的のようです。
家庭内感染 入院する子どもたちも
右:聖マリアンナ医科大学病院 小児科医師 勝田友博さん
子どもたち自身は軽症または無症状であっても、自宅で過ごせなくなってしまうことがあります。
我々が経験したのは、母子家庭で生活している10歳未満の子どもです。幸いこの子自身の症状は軽症であり、酸素や点滴など入院しないとできない治療は必要とせず、自分で食事をとることもできていました。
ところが、この子のお母さんが新型コロナウイルスによる肺炎を発症し、我々の病院とは異なる病院に入院をしてしまいました。通常の疾患であれば、このような場合はおじいちゃんやおばあちゃんが一時的に預かってくれることも多いのですが、新型コロナウイルス感染症は高齢者における重症化が懸念されるため、そのような対応は難しいとされています。
最近は、少しずつ子どもの新型コロナ患者さんが入院できる施設は増えてきましたが、この子のお母さんが入院している施設でも子どもの新型コロナ患者さんの入院を受け入れることができませんでした。
その結果、この子自身は非常に元気で自宅での療養が可能な体調であるにも関わらず、この子を養育する家族がいなくなってしまい、児童相談所の介入により我々の病院に保護目的入院をすることになりました。
実はこの子には10代のきょうだいがおり、やはり同時期に新型コロナウイルスに感染していたため、お姉ちゃんと2人で同じ病室に入院することができました。知らない病院に一人で入院する不安と恐怖を考えると、きょうだい一緒に入院できたのは見方によっては幸運だったかもしれません。
しかしながら、このあと2人はお母さんが回復するまで、1週間以上を新型コロナウイルス患者さん用の閉ざされた空間で過ごしました。
大人と同じ治療が必要なケースも
さらに最近は国内において、子どもの新型コロナ患者絶対数の増加に伴い、重篤な症状を伴う子どもが少しずつ増加してきています。当病院においても、特別な治療を要さずに軽快する子どもたちがほとんどでしたが、最近は抗ウイルス薬、ステロイド、酸素の投与など、成人と同様の治療を要する患者さんが入院しています。
国内における新型コロナウイルス感染症の今後の流行状況を正確に予想することは困難ですが、もしこのまま重篤な症状を伴う子どもの患者さんが増加した場合、近い将来、冒頭で紹介した子どもたちの安全な居場所が不足してしまう可能性もあります。
今後の流行拡大や長期化を想定し、比較的症状の軽い子供達がなるべく快適に療養できる施設の準備を検討する必要が出始めていると考えられます”
子どもたちの安全を守るための3つのポイント
勝田医師が指摘するポイント
子どもたちに幼稚園・保育園・学校での安全な日常生活を送るために、どんなことができるか、勝田医師にポイントや注意点を聞きました。
基本的な感染予防を徹底
毎朝、自宅を出発する前に子どもたちの体調を自宅で十分確認。発熱・食欲低下・倦怠感など、わずかな変化を認めた場合は、無理に登園・当所・登校をせずにかかりつけの先生に早めに相談することがとても重要です。
また、実践的な感染予防対策として、適切な手洗い指導やアルコール清拭などによる清潔な環境を維持することもとても大切なポイントです
マスクについての注意点
一般的には子どもたちは成人と比べて、マスクを適正に使用することが困難であるとされています。日本小児科学会は、子どもおよび子どもにかかわる業務従事者のマスク着用の考え方において、特に2歳未満や障害のある子どもの着用には誤嚥や窒息の危険性があることを指摘しています。
その上で子どもが適切にマスクを使用するための具体的なポイントを紹介しています。
▼会話の際はマスクをする
▼マスクから鼻を出さない
▼マスクをあごにずらしたままにしない
▼マスクの前面に触らない
子どもに対するワクチン接種は?
日本においては、執筆の時点で12歳未満の子どもたちは新型コロナワクチンを接種することはできませんが、12歳以上であればファイザー社またはモデルナ社のワクチンを接種することが可能です。
これらのワクチンは、接種後の発熱・倦怠感・接種部位痛などの副反応を高齢者と比べて、若年者において高頻度に認めることが知られています。ただし、その頻度は12~15歳と16~25歳では差がないことが報告されています。
一方で、ワクチン供給状況が依然として安定していない日本においては、一般的に新型コロナに罹患した場合、軽症であることが多いとされている子どもよりも,重症化のリスクがある成人への接種を優先すべきであるという意見があります。
また元々、成人においても接種実績が少ない新規ワクチンである新型コロナワクチンを、さらに接種実績が乏しい小児に優先して接種するべきかも、賛否が分かれています。
日本小児科学会は、特に重篤な基礎疾患のある子どもへの接種の重要性を示すとともに、健康な子どもへの接種も意義があり、その際はメリット(感染拡大予防等)とデメリット(副反応等)を本人と養育者が十分理解し、接種前・中・後にきめ細やかな対応が必要であるとしています”
10代のコロナ後遺症患者も相次ぐ
聖マリアンナ医科大学病院
「呼吸が苦しそう」「食事をとらない」「元気がない」などといった症状が子どもにみられる場合は、直ちに医療機関の受診が必要だと専門家はいいます。
国立成育医療研究センターによると、子どもが新型コロナウイルスに感染すると発熱や乾いた咳がみられることが多いと言います。ただし鼻水や鼻が詰まったような症状は少ないということです。
しかし、子どもは正確に症状を訴えられないことがあるため、大人たちが十分に注意する必要があるといいます。
また気になるのが、新型コロナ後遺症を訴える10代の患者が増えていることです。
後遺症の専門外来がある聖マリアンナ医科大学病院にも受診が相次いでおり、軽症だったものの半年以上にわたって、味覚・嗅覚の異常や倦怠感に悩まされ、体重も減り、気力を失ったという10代の若者もいます。
先日、後遺症外来を訪れた女子高生は学校のクラスターで感染しました。彼女はスポーツ推薦で入学するほど体力に自信がありましたが、立ち上がるだけで脈が急に高くなる体位性頻脈症候群というコロナ後遺症の症状があり、今後スポーツができなくなるのではないかと大きな不安を抱えています。
子どもたちをどう守ってくか。改めて感染予防対策の徹底と、親世代(30代~50代)や若者(10代~20代)へのワクチン接種を早急に進めていくこと、そして検査拡充が求められていると強く感じます。
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聖マリアンナ医科大学病院を取材した番組が、9月12日(日)午前6:10から放送されます。
※放送1週間後まで、見逃し配信でもご覧になれます。