和歌山カレー事件とは? 発生から23年 当時の詳細とその後

NHK
2021年7月16日 午後2:11 公開

23年前の「和歌山毒物カレー事件」の詳細を、イラストとともに解説します。 

1998年7月25日、和歌山市園部で、住民同士の交流のために行われた地区の夏祭り。近所の主婦たちが調理したカレーが振る舞われると、住民たちが次々と激しい吐き気に襲われました。67人が中毒症状に見舞われ、小学生や高校生、自治会役員の4人が亡くなりました。後日、カレーからヒ素が検出され、毒物を使った無差別殺人事件として社会を震撼させました。

事件があった1998年には、全国各地で毒物や有害物質の混入事件が続発。世相を漢字1文字で表す今年の漢字は「毒」でした。

事件後、地区の夏祭りは行われなくなりました。また、事件を想起させることへの不安に配慮して地元の小学校の給食メニューからカレーが外されるなど、その影響は今も続いています。

林死刑囚は大阪拘置所に収監されていますが、今年5月、新たに再審の申し立てを行い、無罪を訴え続けています。

「事件は終わっていない・・・」 被害者家族の複雑な胸中

いま、被害者は事件のことをどう受け止めているのか。「カレー事件被害者の会」の副会長をつとめる杉谷安生さん(74)が、思いを聞かせてくれました。

杉谷さんは、当時高校生だった長女が被害にあい、入院。一命をとりとめました。

杉谷安生さん

「ここ(事件現場)へ来ると改めて『あぁ…』っていう、蘇ってくるというか、腹が立ってくるというかね、憤りを感じるというか。何年経とうが、もう気持ちはとにかく一緒ですね」

当時、夏祭りが開かれた現場は、空き地となっています。地元の自治会では、事件の翌年から、毎年、慰霊祭を開いてきましたが、「静かに命日を迎えたい」という遺族からの要望で10年前からとりやめています。

杉谷さんは、家族で事件を話題にすることはほとんどないといいますが、いまも、毎年7月25日にこの空き地を訪れ、献花を続けています。

杉谷安生さん

「いまでも、亡くなられた方のご家族にどう言えばいいのか言葉がありません。だから、亡くなった方のご冥福を祈るということと、せめて献花だけでもということで、それは自分の気持ちとしてやらせてもらっています。毎日、カレーカレーと思って生活してるわけじゃないんやけども、節々に結局、思い出す。『あれ、なんであんなことしたんやろう』と。『なんで、全く何の罪もない、何の落ち度もない人に、あれだけの被害を与えたりとかしたんかなぁ』、『カレー事件って何だったんやろうかな』と」

 

杉谷さんは、林眞須美死刑囚の裁判に何度も足を運び、東京の最高裁にも傍聴に訪れました。

裁判を通して、事件を起こした動機を知りたいと願っていましたが、判決では、死刑が確定したものの、動機は解明されませんでした。そのため、あれから23年が経とうとしているいまも「事件が終わったわけではない」という思いがぬぐえないといいます。

杉谷安生さん

「最高裁の判事がいろいろ議論に議論を重ねた結果、死刑という判断が下ったんだから、ほとんど間違いないやろなとは思います。でも、やっぱり動機。そういう事件を起こした動機を一番知りたい。未だに動機は何もないでしょ? 『どうしてあんなことをしたんや?』という動機。もう、うちの娘なんかも言うてんの。『なんであんなことしたん?』、『動機が一番知りたい』って」

「やっぱり“しこり”と言うんかな、動機が分からないだけに、地区の中でも、どうも、しこりが残っているような気がする。せやから、事件は終わりやないと思います」

杉谷さんは、先月、林眞須美死刑囚の長女が自ら命を絶ったことについて、報道を通じて耳にしていました。

また、母親が林眞須美だということを理由に受けた児童養護施設でのいじめや婚約破棄など、過去を告白している長男の人生についても、報道で聞いたことがあるといいます。   直接、事件とは関係のない子どもたちの境遇について、複雑な思いを抱えていると話しました。

杉谷安生さん

「子どもたちはある意味、事件の被害者やとは思います。彼らは彼らの人生やから、別に親と別やからね。でも、まあ私たち被害者からしてみれば、モヤっとしてるもんは、あることはありますよね。カレーを食べて亡くなられた方もいてるんやし」

 事件の被害者や家族、そして地区に暮らす1人1人の心に深い傷を残した、和歌山毒物カレー事件。杉谷さんは最後に、取材にこたえてくれた理由を次のように話しました。

杉谷安生さん

「こうやってお宅らの話にお応えさせてもらってんのも、事件のことを絶対忘れてほしくないという思いがあるからです。いつ、またどこで起こるか分からん。本当に明日どこかで起こる可能性もある。僕はそういう事件やと思いますのでね。風化させたくない、それだけです」

 

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