"レジェンド” 髙田明さんに聞く ライブコマースの可能性とは?

NHK
2021年3月31日 午後9:39 公開

コロナ禍でインバウンド需要が激減するなか、スマートフォンの専用アプリを使って生中継しながらものを売り買いする「ライブコマース」が活況を見せています。

中国ではライブコマースを通して国の内外からものを買う動きが急拡大。

去年、市場規模は前の年の2倍以上となる17兆円に上ったとみられており、活路を見いだそうと日本の大手デパートからドラッグストア、中古ブランド品店までが次々と参入しています。

「ライブコマース」の可能性と課題について、日本通販界のレジェンド、ジャパネットたかた創業者の髙田 明さんにインタビューで伺いました。

4月1日放送「コロナ禍で“爆売れ” 急拡大ライブコマース」

(1948年、長崎県生まれ。1994年からテレビショッピングに参入し、年商1700億円超の通販会社を築いた日本テレビショッピング界のレジェンド。2015年にジャパネットたかたの代表取締役を退き、現在は株式会社A and Liveの代表取締役を務める)

ライブコマース その魅力は「双方向性」

保里小百合キャスター:ライブコマースの熱い現場、どのようにご覧になりますか?

髙田 明さん:ライブコマースにもいろんな形の発信の仕方があるのでしょうが、今回拝見しました中国で月に1億円以上を売る李成倫さんの)映像は、非常に躍動感があっておもしろいですね。ちょっと僕にはできないなと思いました。

保里僕にはできない」・・・髙田さんがですか?

中国で月に1億円以上を売る李成倫さん

(2020年7月にライブコマースを本格的にスタートさせた李成倫さん。中国に住む5万人近くの人たちに向けて販売し、月に1億円以上を売り上げる。人気の秘密は“熱い雰囲気づくり”)

髙田 明さん:それはなぜと言いますと、次から次にお客様とやり取りしながら商品を紹介されていているからです。僕はテレビショッピングやラジオショッピングでお客様に向かって伝える形を20数年やっていました。

ライブコマースの特徴は、インターネットにつながり「リアルタイムに双方向でコミュニケーションがとれていく」ということですよね。

映像を見ていて視聴者の方がスマホを通してどんどんその場で質問や相談をされており、そこにリアルに答えていく部分が非常におもしろくて、これは今の時代だからこそ出来ることで、こういう世界がもっと広がってくるだろうなと感じました。

でもね、ひとつ僕が思うのはテレビショッピングでも、ラジオショッピングでも、同じようなことが出来ていたんです。実際は。

保里:共通点はあると。

髙田 明さん:あります。例えばコールセンターに、質問に対応するオペレーターが100人いるとします。その人がどんどん答えていきながら、その音声をスタジオで流すことは、実際にできることなんですね。

髙田 明さん:また、私がテレビショッピングしていた会社には中継車がありまして、スタジオを飛び出して北海道の雪まつりとか震災のあとの宮城県の気仙沼や、岩手県の平泉からテレビショッピングを行っていました。テレビでライブコマースと同じようなことをやっていたのです。だから、ライブコマースの映像を見ていて、テレビの手法がもっと進化したんだなと感じました。やっぱりおもしろい。

保里小百合キャスター

保里:おもしろさがありますね。目を引きつけられる何かがあるなと私も感じるのですが、実は番組で取材した中国の李さんも髙田さんが実践してこられたテレビショッピングでの販売や、お笑い芸人の方が話す様子などを繰り返し研究して、“熱い雰囲気”をつくり上げてきたそうなんです。その辺りはどうですか?

髙田 明さん:ものを説明するというスタンスの番組だけでは買ってもらえないところがあると思います。だから伝え手の“人間性”や 話す“スキル”など、そういうものを全部もっていなければインフルエンサーやライバーという伝え手は、なかなか良さを伝えきれない。これは保里さんもアナウンサーをされていて、同じだと思うんです。

保里:日々痛感するところではありますね。

リモートインタビューに応じる髙田 明さん

(リモートインタビューに応じる髙田 明さん)

課題は「衝動買い」

髙田 明さん:僕が課題として感じたのは、番組を見た消費者は、そのときは勢いで買ってしまうのですが、大事なのは買った商品が届いたときです。例えば「衝動買い」という言葉があるでしょう。パッと見て「いいな」と思って購入したけど、商品が届いてみたら「あれ、ちょっと違うよな?」と思う比率は、ライブコマースは高いのではないかと思います。

保里:それはなぜでしょう。

髙田 明さん:それは有名な人が紹介した場合、その方のファンだからということで買うこともありますが、その商品の持つ価値が誤解なく消費者に伝わったかという視点を、ライブコマースの世界には今から取り入れていかないといけないと、僕はこれまでの経験から思いますね。

テレビショッピングに出演する髙田 明さん

(テレビショッピングに出演する髙田 明さん)

消費者の「納得」が 成功のカギ

髙田 明さん:私は「インプットとアウトプットが大切だ」といつも言っていたんです。伝え手がインプットした知識が2割しかなければ、絶対に消費者へのアウトプットは成功しないんです。魅力が伝わらないんです。

テレビショッピングの世界でやっていていちばん大事にしてきたのは、自分が自信をもてる商品しかやらないとか、徹底して商品知識を磨いて、わかりやすく伝え、納得してもらって買っていただくことです。値段が安いということは大切ではありますが、「値段だけの世界は長続きしない」と僕は思っています。

商品を徹底的にいろんな角度から考えてわかりやすく伝え、消費者の方に価値を納得して買っていただく。衝動買いであっても消費者が「これは10万円で買ったけど、もっと価値があるようないい商品を提供してもらった」と思って頂いたときには、衝動買いくらいにすばらしいものはない、と僕は思っています。

保里:予想した以上にすばらしいと思えたら、それ以上のものはないですね。

髙田 明さん:ライバーの方にそういう教育をしている機関が中国にはある、ということを本などで読みましたが、そうだろうなと思います。伝え手は、伝えるものに対して責任を持たなければいけない。その責任というものがライブコマースのなかに生まれることが、市場を本当の意味で、5年、10年、20年と拡大していくことにつながっていくのではないかと感じました。

「手軽さ」が生む熾烈(しれつ)な競争

髙田 明さん:日本でもライブコマースにチャレンジするという企業が、どんどん出てくるのではないかと思います。僕はこれまで番組の企画で全国の40数カ所を巡りました。

例えば岡山県のデニムの生産地で、40年くらい前は7割くらいのシェアがあったけど、今は海外から安いものが入ってきて、大変なご苦労をされているようなところに行きました。

工場に入って現地の方の想いや背景をしっかり伝えて販売したら、とても大きな反響を頂いたんです。ただし、それはテレビ撮影で1日がかりで行ったのですが、ライブコマースを使えばそれが2時間で出来ちゃうという世界ですので、便利さはいっぱいありますね。

日本の化粧品メーカーが行ったライブコマースの様子

(日本の化粧品メーカーが行ったライブコマースの様子)

保里:以前と違い、誰もがコストをかけずに、やりたいと思ったときに手軽に始められるライブコマースですが、今後どうなっていきそうですか。例えば、誰もが参加して大競争時代になるんじゃないかとか、その辺りはどう想像しますか。

髙田 明さん:これからどういう形に変化していくのでしょうか。例えば、ライブコマースには「多品種・少量販売」みたいな形が向いているのか、(それとも逆に)少ない品種を何万個も売るという形なのか、どちらが向いているのかということも考えますね。

どちらにするかによって、商品をどんどん立て続けに紹介するだけではなくて、1時間で2商品をしっかり30分ずつ丁寧に商品を紹介するというような、いろんなパターンが出来てくるんじゃないでしょうか。

10万円を100万円の価値に感じてもらう

保里:髙田さんは、ものづくりの背景がこれまで以上に重要になると指摘されています。消費の形、買いたいと思う消費者の心の持ちようは、時代とともに変わってきているのでしょうか。

髙田 明さん:僕はそこをすごく大事にしてきました。「ショッピングで一番優先されるのは価格ですか」と言われたら、「はい、そうです」と答えなければいけないと思います。これは間違いなくそうだろうと思います。

でも価格が占める割合が多ければいいかというと、そうではないと思います。特に最近はコロナ禍でなかなかコミュニケーションが取れない中で、いかに人間のコミュニケーションが大事かということを世界中の人がわかってきたと思うんです。

(リモートインタビューの様子)

(リモートインタビューの様子)

髙田 明さん:日常の平和とか、そういうものが大事だというのと同じように、「商品も価格だけではないよね」と、(商品が生み出されるまでに)「どういう方が、どれだけの努力や苦労なさっているんだろう」とか「背景にはどんなことがあるんだろう」とか、そういうところを感じていただくことが購入動機につながっていくのではないかと思います。

例えばAというエアコンを紹介するとき「Aの値段は10万円ですよ」と。でもこれ以外に、10万円のエアコンはいくらでもあるんです。紹介するAという10万円の商品は、エアコンだけではなくて、それを取り付ける方や配送する方のサービスの品質や想い、故障や修理のアフターケアの品質とか、そういうもののすべての精度を上げていくことによって、10万円の価値を、100万円くらいの価値に感じていただくこともあります。

ものは、人生を豊かにしてくれる“生き物”

保里:髙田さんの長年のご経験のなかで、商品の背景やストーリーに心打たれる消費者の方は、多かったですか。

髙田 明さん:僕が多かったと言ってしまったら、我見(がけん)になっちゃうので・・・。でもあえてご質問いただきましたのでひとつだけ。例えばビデオカメラ、保里さんも小さい頃、運動会に行くとお父さま、お母さまが、ビデオカメラを持って撮影に来られませんでしたか?

保里:撮影してくれましたね。

幼稚園時代の保里キャスター

(幼稚園時代の保里キャスター)

髙田 明さん:そこではビデオカメラを持っている親御さんが一生懸命、子どもの姿を撮影していますよね。でも僕がショッピングで伝えたのは、「3歳の子、5歳の子の運動会を撮ってください」、「子どもさんを撮ってください」ということだけではなかったんです。

僕は、子どもさんが30歳になったとき、映像を見ながら「お前、こんなに小さかったんだよ」とお父さんが言うよりも、お父さん、お母さん、あるいはおじいちゃま、おばあちゃまが一緒に映っていて「わぁ、お父さん、お母さん、こんなに若かったの!?」と周りの変化も楽しめるとビデオカメラの価値は数倍上がりますよと、こんなご提案をしたとき、ご注文がすごく入ったことがあるんです。

ものというのは、人の人生を豊かにしていくという、 “生き物”なんですね。ライブコマースというインターネットを駆使した便利で、すばらしい販売ツールで、そうした価値観が生かされてくるかが、これからの課題かなという気がします。

(東日本大震災の被災地、岩手県大槌町で鹿肉の販売を行う男性)

ライブコマースが生む「心の豊かさ」

保里:東日本大震災をきっかけに生まれている消費もあります。震災に遭われた方々の物語に思いをはせる、ご苦労に思いをはせて、ものを消費する動きも出ているのですが、こういった動きは、どのようにご覧になりますか。

髙田 明さん:現地にいらっしゃる方や原発事故で自分の町に帰れない方の想いやご苦労は(当事者ではない)僕らが言葉で語って、表現しても伝えていけるものではないと思います。

国民全員、1人1人が、そこに寄り添って一緒にその問題に対して、力を貸していくことが必要なのではないかと思いますね。応援したいですね。

例えば生産者のお顔もライブコマースは出せるでしょう。スマートフォン1つで農家に行って、畜産農家の皆さんに「どんなエサをやっていますか」「朝、何時に起きていますか」と、その取り組みをライブで配信するだけでも、値段だけではなくて、働いている方のご苦労と商品が重なり、見ている方は感動してただの消費ではない「応援しよう!」という世界が生まれると思うんです。

僕も震災のあと、いてもたってもいられなくて全国47都道府県にテレビ制作のスタッフを20名くらい派遣しました。そして、47都道府県の方から被災された方への応援メッセージをもらったんです。それを番組で流したんです。うちのスタッフも取材しながら、みんな泣いて帰ってくるんですよね。鹿児島へ行ったら、取材を受けてくれた方が、みんな涙を流したそうです。こういう支援が被災者の方の力になってくれたらと思います。企業のミッションには、売上利益だけではなくて、そういうところも大事にしていくという、日本人だから出来るすばらしいものがあるような気がするんですね。

地方の特産品を専門に販売する会社が始めたライブコマース

(地方の特産品を専門に販売する会社が始めたライブコマース。商品の背景にある“物語”を伝えて付加価値にしようとしている)

保里:そういう意味では人の優しさ、思いやり、そうした人の優しいところに訴えかけるように、ライブコマースの市場が“物語消費”という形で、さらに発展していく可能性もあるということでしょうか。

髙田 明さん:ライブコマースが中国ではすごい、いま市場規模が17兆円くらいと言われています。今年は20兆円を超えるようになってきていると思いますが、果たしてこれが欧米で成功するかと言うと、僕はその保証はないと思っているんです。

例えば、日本で成功した企業がヨーロッパに進出したことがありましたが、すぐに撤退しました。それから見ると国民性とか、ドイツ人の考え方、イギリス人の考え方、アメリカ人の考え方、ブラジル人の考え方、全部国民性がありますから、1つの国で成功したから、それが世界に広がるということではないと思います。

人の幸せに寄与するビジネスかどうか、すべてそこからスタートするんじゃないか、そこに尽きるんじゃないかと僕は思いますね。

ライブコマースで特産品のホタテを販売する男性

(ライブコマースで特産品のホタテを販売する男性)

時代の流れを感じる企業だけが残っていく

保里:刻々と変わりゆく消費者の欲求、ニーズに応え続けていくことがライブコマースの市場でも欠かせないということでしょうか。

髙田 明さん:そうですね。ニーズに合わせて商品も変わっていく。ペットボトルの水を100円で買って飲む世界は、僕が10代のころには無かったんですね。水道のお水を飲んでいたんです。でもやっぱり地球環境が変化するなかで水質汚染というのが出てきたら、水は100円でも200円でも買う方が増えてきました。

また、空気がきれいというのは当たり前だったのですが、これだけ公害とかが出てきたら、空気清浄機とか、加湿器、除湿機が求められるようになっています。昔は部屋の中にはそのようなものは必要なかったんですが、今はこれだけ文明がどんどん進化して、商品もそれに見合ってずっと変わっていくんです。これは文化の発展と同時に変わっていきますので、時代の流れを本当に感じる企業だけが残っていくのかなと思います。

ライブコマースを成功させていくには、例えばそれを伝えていく、ライバーとかインフルエンサーだけの問題ではなくて、商品自体を提供する企業の役割が、非常に大事ではないかと思います。

「人を幸せにすること」を忘れずに

髙田 明さん:日本のものづくり、例えば家電だと、これまで「家電はジャパンだ」と世界を席けんしていたじゃないですか。今はちょっと弱くなりましたが。戦後の復興の中で団塊世代の方が頑張られて、日本をこれだけ元気な国にしたと思うのですが、ものづくりをする方は、ものを通して(気持ちが)落ち込んだ日本の人を、世界の人を絶対に元気にしたいと想って、作ってこられたと思うんですね。

しかし利益や売上という競争のなかに入りすぎて、ある面ではものづくりにおける想いが見えづらくなってきているというのがありますから、もう一度「商品選択」とか「本当にいいものを伝える」とか、そういうところをしっかり検証しながら、質の高いライブコマースの世界が広がればいいなと思います。おもしろいと思いますから。僕がいた会社でもやってみたらいいんじゃないかと思います。

髙田 明さん:「売る」ということは、「その商品を通して本当に人を幸せにする」ということ。この部分だけは絶対にぶれない。伝え手(ライバー)にも責任があります。それを提供する会社にも責任があります。そして、そのあとのアフターケアをする会社にも責任があります。もちろん、プラットフォームの責任もあります。

自分はただ売っているだけの人間ではないと、「人生のすばらしさを売っているんだ」という想いで一生懸命、頑張っていくのが大事だと思いますから、ぜひ皆さんの伝わるやり方で、世の中を幸せにしていただけるように頑張っていってほしいと思います。

保里:伝え手の1人としても、ずしりと響くメッセージでした。ありがとうございました。