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研究者が警告する「首都直下地震」後の住まいをめぐる大問題

NHK
2021年7月13日 午後1:00 公開

「首都直下地震」で1都3県の最大290万世帯が全半壊

今後30年以内に起きる可能性が70%以上と予測されている「首都直下地震」。最悪の場合、死者は約2万3000人、経済被害はおよそ95兆円に達するとみられています。

ところが、問題は発災直後だけでなく、住まいをめぐり、長期に渡って大きな問題が生じる恐れがあると指摘するのが、専修大学ネットワーク情報学部教授の佐藤慶一さんです。

佐藤さんは、「災害後の仮住まい状況ミクロシミュレーション」という手法を用い、内閣府の報告を基に、都心南部に大規模な直下地震(Mw7.3)が発生したと想定。全半壊世帯のデータや仮設住宅の建設候補地のデータ、みなし仮設となり得る空き家の賃貸住宅の地震被害予測、さらに、首都圏に居住する5800人へ独自のアンケートなどを行い、分析をしました。

その結果、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で、住宅が全半壊のダメージを受けるのは、最大で290万世帯にも及ぶ可能性があることが明らかになったのです。

7割が公的支援を受けられず自分で住む場所を探す事態に

これだけでも、必要な仮設住宅やみなし仮設の供給量が、最大で62万戸に達した東日本大震災のおよそ5倍になるという大変な事態ですが、さらに深刻な状況が明らかになりました。

住居にダメージを受けた290万世帯の内、災害救助法で定められた応急修理の制度を利用して住まいを再建できるのが約28万世帯(約10%)。仮設住宅やみなし仮設に入居できるのは約62万世帯(21%)。つまり、公的な支援を受けて住む場所を確保できるのは、290万世帯の内の31%に過ぎず、残りの7割にあたるおよそ200万世帯は、自分たちで住む場所を探さなければならなくなるというのです。

例えば、自費で被害の少ない周辺地域の賃貸住宅を探す。あるいは、親や親戚、知人・友人の家に住むということが予想されますが、相手が比較的近い距離に居住している場合、相手の住居も大きな被害が出ている可能性があります。結果として、避難所生活が予想以上に長期化したり、生活に支障があるにもかかわらず、やむを得ず、壊れた自宅に住み続ける「在宅被災者」が大量に生まれたりする可能性が少なくないのです。

危機を回避する3つの鍵

では、いったいどうしたら良いのか。

佐藤教授はシミュレーションの結果を踏まえて、災害対応に当たる行政担当者や関連団体、仮設住宅暮らしをするリスクが高い地域住民と話し合いを重ねてきました。話し合いを通じ、特に重要だと感じているのが次の3つのポイントだといいます。

1,住まいの防災対策

第1に、住まいの防災対策です。住宅の耐震化や火災対策があれば、そもそも巨大な被害が生じなくなります。さらに、初期消火成功率の向上なども被害を大きく減らすことにつながると考えられています。

2,仮住まいの供給体制の整備

次に、仮設住宅やみなし仮設の供給体制の整備です。過去に経験のない膨大な対応が求められることになるため、地域外の賃貸型住宅(みなし仮設)を利用出来るよう周辺県との連携や協力方法の検討を始めていく必要などがあると指摘しています。

3,防災意識を高める

そして最後に、防災意識を高めることです。佐藤教授が地域のワークショップで「住居が被災したらどうするか?」と住民に尋ねたところ、ほとんどの意見は緊急避難時の対応に集中しており、在宅被災や仮住まいの長期化、生活再建の難しさを意識した意見はほとんど出なかったといいます。確かに、防災意識が高く自宅のある地域のハザードマップを確認したり、防災袋を用意したり、災害が起きたとき、家族とどのように連絡を取るかを話し合っている家庭でも、自宅に住めなくなったらどうするか、家が重大なダメージを受けたらどんな支援制度があるかなどを、きちんと把握しているという人は少ないのではないでしょうか。

そこで、佐藤教授が作成したのが、災害発生から仮住まいや生活再建までの流れをフローチャートで示し、時々に必要な手続きや支援制度を記したリーフレット「東京仮住まい」です。

リーフレット「東京仮住まい」  (※NHKサイトを離れます)

上記、都庁のHPからアクセスすることができ、内閣府が「被災者に対する支援制度」をまとめたコーナーなどの情報も紹介されています。

「東京仮住まい」の紹介動画  (※NHKサイトを離れます)

紹介動画なども公開されているので、ぜひ一度、ご覧になってみてください。

現代版「疎開」も現実的な選択肢に

さらに、佐藤教授が最も効果的な対策の1つとしてあげたのが、「第2のふるさとづくり」です。実は今からおよそ100年前の1923年に起きた関東大震災の時には、100万人規模の人々が田舎を頼って「疎開」したといわれているのです。首都直下地震では、ライフラインの復旧に数ヶ月、住まいの復旧には数年を要する可能性がある一方、現代は田舎がなく、「疎開」したくても行く先のない人々が首都圏には大勢います。コロナ禍がもたらした数少ない社会の好ましい変化の1つがテレワークの普及。いざという時のために「疎開先」を考える条件は、以前より広がっているのかも知れません。

番組をきっかけにぜひ、大切なご家族と、来たるべき「その日」および「その日の後」について、考えてみてはいかがでしょうか。

※ さらに、研究の詳しい内容を知りたいという方は、こちらの佐藤教授が研究内容をまとめた文書をごらんください。

『 災害後の仮住まい状況ミクロシミュレーションの紹介 』

専修大学ネットワーク情報学部 教授  佐藤慶一

仮住まい状況ミクロシミュレーションについて

災害により住宅が被災し居住継続が困難となった場合、避難所等での避難生活をいち早く終えて、仮設住宅等の仮住まいで生活を復旧することが必要です。仮住まいは発災後すぐに対応が必要になるもので、事前の検討や準備が不可欠です。事前検討や準備に有用と考え、仮住まい状況ミクロシミュレーションを開発してきました。

今回のシミュレーションは、内閣府が想定する都心南部直下地震(Mw7.3)を対象に、全半壊世帯データ、建設型応急住宅の建設候補地データ、賃貸住宅空き家の地震被害算定、独自のインターネット調査システムで5800人より収集した意向データを用いた選択確率計算モデルなどから独自に構築したものです。

1都3県で合計約290万の全半壊世帯のケースに対して、「応急修理」は約28万世帯(約10%)、「建設型応急住宅」は約6万世帯(約2%)、「賃貸型応急住宅」は約56万世帯(約19%)、「自力賃貸住宅」は約46万世帯(約18%)、「その他」が約154万世帯(約53%)という結果となりました。

現在居住する都県の外にある賃貸住宅への仮住まいが約36万世帯(13%)と大規模に想定されたことに加えて、巨大な被害想定に対して応急仮設住宅や都県外も含めた賃貸住宅は十分ではなく、「その他」が半数以上で154万世帯となるという点が特徴的でした。

インターネット調査では、親や子供などの家族宅、親戚・知人宅、勤務先の施設、別荘など、応急修理や応急住宅、賃貸住宅以外の選択肢として、「その他」を設けてあり、4-5%程度選択されていました。世帯属性や他の選択肢の条件により、選択確率が計算され、シミュレーション結果に出力されます。

建設型応急住宅や賃貸住宅が十分にある場合には、想定する家族宅などの仮住まいの当てを選択した結果と見ることができます。建設型応急住宅の入居が完了したり、賃貸住宅への入居が進み、条件の良い物件が少なくなったりした場合には、「その他」の選択確率が上がることになります。計算過程を見ると、途中から、賃貸住宅への入居が減り、「その他」が急増しており、その中には、仮住まいの当てが無く、住まいの確保に困難を伴う世帯が相当数含まれることが懸念されます。

シミュレーション結果を対応策の検討に繋げる

私は、仮住まい状況シミュレーションをしながら、計算するだけではなく、今後、実際に対応にあたる行政担当者や関連団体の方、仮設住宅暮らしをするリスクがある地域住民の方々らと共に、想定される状況への対応を話し合い,具体的な準備につなげることが必要だと考えていました。

そのような折、東京都「大学研究者による事業提案制度」の募集がありました。そこで、図に示すような「首都直下地震時の仮設住宅不足への対応準備」という事業を提案したところ採択され、2019年夏頃から約1年半かけて実際に事業に取り組みました。都内6箇所約120名の方とワークショップを行ったり、計8回にわたり防災、建築、法律、医療分野の専門家や、国の担当者、不動産や住宅関係団体等による検討会で議論を重ねたりして,2021年3月に政策提案レポートを提出しました。

政策提案レポート  (※NHKサイトを離れます)

大学提案事業の概要(調査研究結果を1都3県合計に差し替え)

提出したレポートでは、仮設住宅不足への対応準備の方向性として、「1.住まいの防災対策を進める」「2.仮住まいの供給体制を整備する」「3.都民の防災意識を高める」の3つを挙げました。

住宅の耐震化や火災対策が進めば、そもそもここまで巨大な被害が生じません。中央防災会議首都直下地震対策検討ワーキンググループ(2013)「首都直下地震の被害想定と対策について(最終報告)」では、耐震化や出火防止、初期消火成功率を向上すれば、想定されている被害を大きく減らすことができることが計算されています。

一方で、いつどのような地震が来るかわかりませんから、現時点で想定される最大規模の被害に対する備えも必要です。シミュレーションで、応急住宅は建設型と賃貸型と併せて最大62万戸。ピーク時に約12万戸の応急住宅が供給されていた東日本大震災のおよそ5倍の対応量です。応急修理や公的住宅の活用も併せて、過去に経験のない膨大な対応が求められます。検討会では、この対応に必要な準備について議論を重ね、レポートを作成しました。例えば、都県外へ賃貸住宅への仮住まいが約36万世帯(13%)とシミュレーションされましたが、多数の都外の賃貸型応急住宅を前提として、「入居手続きや仮住まい先での行政サービス等について周辺県との連携や協力方法を検討」するよう提案しました。

リーフレット「東京仮住まい」の制作

住民ワークショップの前半では、「住居が被災した場合どうするか?」について,ポストイットを書いてもらい、避難、仮住まい、生活再建の時期区分に整理してもらいました。写真に示すように、どのテーブルでもほとんどの意見が、緊急避難期に集中する結果となり、在宅被災を含めた仮住まいや生活再建に関して、明確なイメージを持ったワークショップ参加者はほぼ皆無でした。「地盤が固く耐震補強もしたので壊れないだろう」「土地が平たいから壊れないだろう」「もしかしたら危険かもしれないが、あまり危険と思っていない」など、「自分は大丈夫」という意見が多く、そのような認識が、仮住まいや生活再建について考えたり、備えたりすることを妨げているものと考えられます。

そこで、災害発生から仮住まいや生活の再建までの流れに沿ったフローチャートを用意し、関係する支援制度や情報をまとめ、住まいや防災対応などの情報の記入欄を設けた住民向けのリーフレット「東京仮住まい」を制作しました。

リーフレット「東京仮住まい」  (※NHKサイトを離れます)

上記のように、都庁のHPから公開され、

「東京仮住まい」の紹介動画  (※NHKサイトを離れます)

上記、紹介動画も公開されています。2021年度には、国の制度運用の変更に伴う内容調整、WEB上で閲覧や入力ができるサイト、多言語版の公開などが予定されています。

このリーフレットは、現状ほとんど認知されていないものと思われます。今後,周知や利活用が課題です。検討会では、高齢者や要配慮者等災害弱者への配慮として、住まいの被災リスクやその後の対応について、ケアマネージャーやソーシャルワーカーへ伝えていくという視点が有効ではないか、という指摘がありました。

「その他」をワークショップで議論

住民ワークショップの後半では、シミュレーション結果を市区町村別に集計して紹介し、自宅が被災して仮設住宅や賃貸住宅に入居できない場合どうするか、議論を重ねました。

その中で、「応急仮設や家族の家がダメという状況では、地⽅に第2のふるさとをつくっておいて、交流しておくことが必要」というような広域仮住まい先との事前交流を求める声が多数聞かれました。また、「テレワークを災害対策として捉えて、被災した時の働き⽅としてリンクさせていってはどうだろうか」というような声も聞かれました。

関東大震災時には、100万人規模の方が田舎を頼り「疎開」したと言われています。想定されている首都直下地震、ライフラインの復旧には数ヶ月、住まいの復旧には数年を要し、現代版「疎開」が生じる可能性がありますが、田舎が無い人が増えた東京では頼る先が無く「疎開」したくてもできないのかもしれません。

首都直下地震のみならず、南海トラフ巨大地震、首都圏大水害など「国難」級の巨大災害を前に、いざという時の疎開先を考えて備えることの必要性が建前としては理解されつつも、現住地から離れられないという事情や、オペレーションの困難など、現実的な課題が多く、解決困難な問題となりつつあります。

2021年5月に、複数の企業の方に参加いただき東京大学復興デザイン研究体「防災型ワーケーション研究会」がスタートしました。国内外の関連する取り組みの成功や失敗に学びつつ、新たな事業企画を通じて、シミュレーション結果で膨大な「その他」へのアプローチを模索しています。

放送内容はこちらから

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