コロナ禍で孤独死や自死が増加し、そうした物件の多くが「事故物件」として扱われる現状。
10月6日に放送したクローズアップ現代+「あなたの家は大丈夫?事故物件の真相に迫る」では、僧侶として、緩和ケアに携わる看護師として、多くの死を見つめてきた玉置妙憂さんと考えていきました。
あなたの家は大丈夫? ~事故物件の真相に迫る~(2021年10月6日放送)
「死への想像力が乏しくなっている」「孤独死ではなく”孤高死”ではないか」
これまで”怖い”と避けられてきた事故物件を、独特の視点で読み解く玉置さん。
生放送ではお伝えしきれなかった考えを、さらに詳しく伺いました。
(クロ現+ 取材班)
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日本人の死への想像力が、乏しくなっていないか
取材班:
私たちは「事故物件には住みたくない」という街の人の本音やネット上で日々拡散する“負のイメージ”を目の当たりにしてきたんですが、玉置さんは事故物件についてどう考えていますか?
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玉置妙憂さん:
日本人の死への想像力がここまで乏しくなってしまっているのかと、衝撃を受けています。戦後まもなくは、日本人は家で亡くなるのが当たり前で、いわば、日常と地続きに“死”があったんです。でも1960~70年代を境に、病院や老人ホームで亡くなる方のほうが多くなる逆転現象が起きました。ここがターニングポイントで、これ以降、私たちは死に接する経験が圧倒的に乏しくなり、死を遠ざけるようになってしまったんですね。事故物件を忌み嫌うというのは、まさにその象徴なのではないかと感じます。
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取材班:
調査によれば「事故物件に住みたくない」という人は7割以上。街頭インタビューでも、事故物件は生理的に受け付けない、怖い、という声が多く上がりました。
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玉置妙憂さん:
でも、人間はいつか死ぬものなんですよ。いつ、どんな形で亡くなるかは誰にもコントロールできないのに、その事実を直視せず、他人の死に「気持ち悪い」と言ってしまうのはどうなのでしょうか。そこは一歩踏みとどまって考えてほしいなと感じます。本来、死は誰にも評価できないものです。いい死に方も、悪い死に方もない。もし、自分の家族、例えばおじいちゃんが「気持ち悪い死に方だったね」と言われたら、おそらく傷つくし、不快ですよね。そこに想像力が及ばなくて、人の死を単なる記号として見てしまうことに疑問を感じます。結果的に事故物件化してしまった人にも人生があって、人格があったんです。
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事故物件を読み解くと、実は仏教に通じる面もある?
取材班:
玉置さんは看護師である一方で、僧侶としての一面もお持ちです。仏教の考え方から見て、事故物件という概念はどう映りますか?
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玉置妙憂さん:
仏教では「死に方」は問題ではありません。でも死ぬ瞬間の感情は重要で、そのとき「生き切った」と思えればいいのですが、恨みや怒りに満ちた無念な死を迎えてしまうと、いわゆる「餓鬼道」に落ちるとされています。その意味では、事故物件の価格は死因によって変わって、「孤独死で1割、自死で3割、殺人事件で5割下がる」というのは興味深いなと感じました。自死や殺人事件の方が、亡くなる瞬間の無念さは強そうなイメージがありますよね。仏教に通じる面も、多少はあるのかなと。
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取材班:
実際に取材をしていても、日本人の死との距離感、そして文化や宗教的な背景が複雑に絡み合った概念なのかなという印象を受けました。
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玉置妙憂さん:
私は台湾に仕事で行く機会があるのですが、台湾では事故物件という言葉はまず聞かないですね。それはなぜかというと、台湾は今でも在宅で亡くなる方が8割いらっしゃるんです。そう考えると、現代の日本の様々な要因が影響して、事故物件という考えが生まれてしまっているのかなと思います。
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人間とは、基本的にひとりで死ぬもの
取材班:
人とのつながりが希薄になり、自ら命を絶つ人も多い今、事故物件で最も多いのは孤独死だといいます。超高齢社会のいま、この孤独死の問題とどう向き合うべきでしょうか。
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玉置妙憂さん:
まず、そもそも孤独死をネガティブに捉えすぎじゃないでしょうか。人間というのは基本的にひとりで生まれて、ひとりで死ぬものです。その過程で運よくパートナーや子どもに恵まれることもあるでしょうが、それは長い人生から見たらおまけみたいなもので、みな、ひとりで死んでいきます。死ぬという作業は、徹底的に個人作業なんです。ましてやこれから多死社会を迎えて、家でひとり亡くなる方が増えていくのは確実なのですから、孤独死に対する考え方も変えていく必要があるのではないでしょうか。私は、むしろ“孤高死”と呼んでもいいのではないか、とすら思っています。問題の本質は、ひとりで亡くなった方をなかなか見つけてあげられないこと。すぐ見つけてあげるための見守りこそが欠けているのではないでしょうか。
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取材班:
ひとりで亡くなる方を放置しないために、私たちにできることは何でしょうか。
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玉置妙憂さん:
孤独死というと、「家族や親族が面倒見るべきだった」という話に行きがちなんですが、それは幻想だと思います。付き合いが長いからこそ抱えている感情は複雑で、一筋縄ではいかないんです。こういう問題こそ、第三者が入り、ゆるくつながっていく仕組み作りこそが大切だと感じますね。一例として、私は2年ほど前から高齢者のお宅を定期訪問して話を聞く、「訪問スピリチュアルケア」という取り組みを始めました。看護師を引退した方やスピリチュアルケアにご興味のある一般の方々が一緒に活動する仲間として協力してくれていて、実際にこの取り組みで孤独死された方を見つけたこともあります。スピリチュアルケアというと難しそうですが、大事なのは、ただ話を聴くこと。家族だとああしろこうしろと言ってしまいがちなところを、あえて話を聴くだけに徹することで、その方の人生にゆるくつながり続けることができると感じます。こうした取り組みの輪を広げていければ、この問題は少しずつ改善できるのではないでしょうか。
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それでも事故物件は怖い、は全然OK
取材班:
事故物件について取材していると立場や世代によって本当に多様な見方があると感じました。これからも増えるであろう事故物件を、私たちはどう見ていけばよいと思いますか?
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玉置妙憂さん:
こうした事故物件の闇みたいな特集をすると、今度は「事故物件を怖がるなんてひどい!」という論調に傾きがちなんですが、私は事故物件について知って考えたうえで「やっぱり事故物件は怖い」でも全然いいと思うんですね。大切なのは、死について一歩踏みとどまって考え、その人なりに腹落ちというか、整理してみることではないでしょうか。仏教的に言うと、両極をふらふらしつつも、その人なりの中道(ちゅうどう)、つまり落としどころを探っていく、そんな機会になればうれしいですね。おそらく、死について考えて暗鬱な気分になられた方もいると思うのですが、最終的には「まあいいか」と腹に落とす。そのくらいの余裕というか度量をもった、ゆるい気持ちで、事故物件についても考えを深めていただけたらと思います。そして、自分と異なる意見を排除するのではなく、お互いの多様性を認め合える肝っ玉の大きさを持っていただけたらいいなと思います。もちろん自戒の念を込めて申し上げているのですけれど。
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