未公開トーク「暴力団には厳しい状況が待っている」ノンフィクション作家・溝口敦さん

NHK
2021年10月8日 午後1:54 公開

北九州を拠点する暴力団「工藤会」のトップに死刑判決が下されました。2021年10月5日放送のクローズアップ現代+では、決死の覚悟で法廷に立った「証言者」の存在や、判決の知られざる内幕について、長年暴力団を取材してきたノンフィクション作家・溝口敦さんとともにお伝えしました。暴力団は”終末期”にあると語る溝口さんに、番組収録後さらに詳しくお話をうかがいました。

(聞き手:井上裕貴キャスター)

 

 

クロ現プラス「工藤会と"91人の証言者” 暴力団トップ死刑判決の内幕」(2021年10月5日放送)

NHKプラスで番組を見逃し配信中(~10/12まで)※別タブで開きます

 

 

「暴力団は“不思議な組織”」

溝口 敦さん(ノンフィクション作家)

1942年 東京都生まれ 山口組など暴力団への取材を50年近くつづけ 著書多数

近著にこれまでの暴力団取材を振り返った「喰うか喰われるか 私の山口組体験」

 

 

――著書「喰うか喰われるか」を読ませていただきました。暴力団の取材は50年近くになるんですよね。長年、暴力団を取材のテーマにしてきて、どんなことをお感じになってきましたか。

 

溝口 敦さん:

暴力団は非常に人間くさくて、やることが極端ですよね。気に食わなければ人を殺傷することを平然とやると。その一方で「任侠道」という言葉がありますが、“暴力団の美学”といいますか、一般人に対しては基本的に殺傷しないことが“美学”でもある。

今回、放送で出てきた「工藤会」は別ですが、暴力団であっても、それは避けようという意識が暴力団の中にもあります。そして、組織として動くということ。ボディーガードを何人も引き連れたり。他の組織、企業などではあり得ないことばかりですよね。

 

 

――独特の存在感があるからこそ、取材対象として取り上げてこられたんでしょうか。

 

溝口さん:

「暴力団対策法」でも、一定の条件で「指定暴力団」に指定されたりするんですが、別に暴力団を解散させようというわけではなくて、経済的な強要などをすると命令を出してやめなさいよと言われる。そういう存在なんですよね。

日本的な暴力団のあり方をそのまま認めたのは「暴力団対策法」じゃないかと思っていますが、“公認暴力団”みたいになっている状況もある。やっぱり不思議な組織ですよね。

 

 

「“終末期”にある暴力団」

 

――「暴力団対策法」が1991年にできて30年近くになります。いろいろな変遷があった中、いまはどういう状況にあるんでしょうか。

 

今回の指定暴力団トップへの死刑判決、これは画期となる判決だと思いますが、さらに暴力団の減少に働いていくんじゃないかと思いますね。

振り返ると「暴力団排除条例」の影響が大きかったと思うんですが、市民社会と暴力団の離間(りかん)が図られている。「暴力団排除条例」では暴力団を利用しない、密接交際しない、暴力団を自分の利益に使わないとなっています。暴力団は一般人に対して、奪う人であると同時に、自分たちを活用してもらって一般人に利益をもたらす場合もある。そういうことは断じてノーである。このことによって暴力団はまさしく生命線を絶たれている、これが今の状態だと思うんです。だから、暴力団は「暴対法」ができたころと比べてガクッと減ってますよね。

 

暴力団の現在の状況についてはこちらの記事でも解説しています

グラフィック解説記事「令和時代 暴力団はいま」

 

――警察庁の統計でもこの30年間で、構成員は7割減っています。

 

溝口さん:

暴力団は孤立を深め、今や上層部を除いて食うや食わずの生活におとしめられていることは、一般的に言えるんじゃないですか。“終末期”である。下手するとこのまま消滅していく存在になっていると思います。

 

 

「水面下に沈み、“半グレ集団化”」

  

溝口さん:

しかしながら、残念なことに暴力団に代わるような存在は出てくるでしょうね。今すでに始まっていることですが、暴力団は新規加入の組員に対して、最初から組員登録しない。その人間は組員ではないので「暴対法」の適用、「暴排条例」から免れるということを始めています。

それと“半グレ集団化”する。暴力団全体が水面下に沈んでいく。実行主体、犯罪主体がわからないような形になって、警察が摘発しにくい組織になっていく可能性はあります

ただ数は減っていくと思います。長いこと日本では暴力団を抱えてきたわけですが、その歴史はなくなるんじゃないか、と思っていますね。

 

 

「辞めたい人を辞めさせる環境に」

 

――暴力団にとって、ますます厳しい状況が待っている。だとすると、辞めていく人も増えてくる。社会としてはどんな仕組みや環境が必要だと思いますか?

 

溝口さん:

再就職を促進することですね。そうしないと刑務所が暴力団のセーフティネットになってしまう。老齢化した組員が仕事がないからと、「衣食住が保障される刑務所に入って老後をやり過ごすか」みたいなことがいま、現に行われています。

それと同時に、“暴力団を辞めて5年間は暴力団並みに扱う”というルールを改めていくことが大切だと思います。例えば、銀行口座も新規には作りにくい、銀行口座がないから給与の自動振り込みを受けられない・・・弊害が出てきていますよね。「お前は暴力団として登録されているから5年間は信用できないよ」といつまでも言わないようにする。

結局、暴力団を辞めたいっていうならば辞めさせる。潔く辞めてもらう環境が大切だと思います。

 

  

  

 

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