大谷翔平 データが語る打撃の進化 元ドジャース・斎藤隆さんが投手目線で解説

NHK
2021年7月14日 午後7:14 公開

大谷翔平選手の驚異の打撃は、どう生み出されているのか――。

7月13日(日本時間14日)、大リーグ史上初の投打の“二刀流”でオールスターゲーム出場を果たし、先頭打者として登場、さらに先発投手として160km/h超えのストレートを連発し、勝利投手となった大谷選手。日本選手初出場となったホームラン競争では、熱戦を繰り広げ多くのファンを魅了しました。

クローズアップ現代+では、野球のデータ解析を手がける専門家とともに、大谷選手の打撃を分析。その結果、大リーグに移籍した2018年と比べて、驚くべき進化を遂げていることが分かりました。かつてドジャースなどで活躍した斎藤隆さんに投手目線で解説してもらいました。

斎藤隆さん

NHK大リーグ解説。投手としてドジャースなどで活躍し、オールスターゲームにも出場

メジャーのレジェンドをしのぐ長打力

今シーズン、両リーグトップを独走する33本のホームランを放ち、自己最長の143メートルという飛距離も記録した大谷選手。その長打力の進化がデータからも明らかになりました。安打に占める長打の割合が、今シーズンは67.1%と3年前と比べて飛躍的に上昇しています。

20世紀以降の選手の中で、1位のバリー・ボンズ選手に次ぐ2位。マーク・マグワイア選手やベーブ・ルース選手をも超える驚きの数字です。

(データ協力:データスタジアム)

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――大谷選手、なぜ長打が増えたと見ていますか?

斎藤隆さん:大谷選手は筋力がついて、肉体が一回りも二回りも大きくなっています。普通、肉体が大きくなっても、動作は脳を経由するので、すぐに反応がついて来ないものですが、すぐに反応できています。スイングスピードが速くなって理論的には反応できる球でも、これまでと距離感が違ったりして打てないものですが、打つ度にどんどん適応しています。その適応力は超人的で、成長のスピードが、まさに「覚醒」しているという感じだと思います。

さらに、どのコースの球をホームランにしたかを2018年と比べると、その範囲が格段に広くなっていることも見えてきました。インコース高めや、アウトコース低めなど、これまで苦手にしていたコースでもホームランを打てるようになっていたのです。

――ホームランになるコースも広がっていますが、投手から見るといかがですか?

斎藤隆さん:打者というのは、普通得意なゾーンのすぐそば、紙一重の所に苦手なゾーンがあるものなんです。投手としては普通そこを狙うんですが、今の大谷選手にはそれがほとんどない。左投手が、スライダーやカーブで、ストレートと球速差をつけても、2打席目には大体捉えられているので、歩かすしかないというか、お手上げに近い状態だと思います。投手としては、ヒットにしかならないゾーンがあるならそこを攻めるけど、そこもホームランになると、これは大変です。

――あえて攻めるとすると、どのコースになるんでしょうか?

斎藤隆さん:左投手だとアウトコース低めいっぱいのカーブとスライダー、右投手だとアウトコース高めのストレートに空振りゾーンがあることがわずかに見えてきます。でも、ここも150㎞/hくらいの球速だと当たってしまうので、それ以上でないとダメです。ただ、投手として言っておきたいのは、いわゆる強打者で「ここに投げないといけない」というように限定される打者に対峙すると、逆に甘いコースへすい込まれるように投げてしまうことがあるんです。9日に打った33号ホームランの場合も、投手は誰が見ても「そこに投げたらダメだろう」という所に投げています。僕も若いとき、落合(博満)選手や松井(秀喜)選手に対してよくありましたよ。

“最高のバッターの証”―ファーストストライクボールを仕留める「積極性」

もう一つ、データから表れたのが大谷選手の「積極性」です。ストライクゾーンにきた最初のボールをスイングする割合「ファーストストライクスイング率」は、今シーズン61.6%。ホームランになった33本を分析すると、3分の1にあたる11本をファーストストライクで仕留めていることが分かりました。

――投手として、この数字は脅威に感じますか?

斎藤隆さん:これはすごさを象徴する数字です。「最高のバッターの証」です。投手はタイミングをずらすために、変化球を投げるなど、駆け引きをするわけですが、それが通じない。全盛期のバリー・ボンズ選手など、本当に名だたるレジェンド級です。投手のモーションは千差万別だし、攻め方も違うので、わずかにでもタイミングがずれるものです。ところが大谷選手の場合、詰まらせたり色々狙うけど、特に右投手に対してはほぼ崩れない。そこが驚異的だと思います。

――全米を熱狂させている大谷選手、何がもっともファンの心を捉えていると思いますか?

斎藤隆さん:大谷選手の場合、バーチャルやアニメのストーリーでも想像がつかないようなことが目の前で起きる。とんでもないボール球をホームランにしてみたり、「明日は投げるらしいよ」と言って勝利投手になってみたり、それをさらっとやってのける訳ですから。まさにドラマの世界ですよね。

<再放送のお知らせ>

「大谷翔平 歴史をつくる大旋風」

7月15日(木)17:30-18:00 (BS1)

7月16日(金)23:00-23:30 (BS1)

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