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作家・重松 清さん「クロ現プラス」へのメッセージ

NHK
2021年4月9日 午後5:08 公開

刊行から17年経ったいま人気が再燃している『ビタミンF』を始め、『とんび』『流星ワゴン』など数々の作品で知られる作家の重松清さん。20年前からクローズアップ現代にたびたびご出演され、「親の自殺でのこされた子ども」「東日本大震災」「行き場のない遺骨」など、その時代の社会問題に番組スタッフと一緒に向き合ってきました。

2021年4月、井上裕貴・保里小百合という30代の新キャスター2人となり再出発したクロ現プラス。番組に何を期待するか、どんなキャスターを目指すべきか、重松さんから“叱咤激励”のメッセージを頂きました。

(対談 2021年4月1日)

クロ現の根っこは「クローズアップ」

井上 裕貴キャスター:実は私、学生時代から重松さんの小説を読みあさるほどファンでした。また、クローズアップ現代にも何度も出演され、勝手にご縁を感じております。長く番組を見てこられた重松さんが「クロ現」に期待するのは、どんなことですか?

重松 清さん:クローズアップ現代って、根っこは「クローズアップ」だと思うんです。クローズアップということは、今回のテーマ(※4月13日放送「“同居孤独死” 親と子の間に何が起きているのか」)なら孤独死という大きなテーマのなかの、ある一点にギュッといく。だから“入門編”ではないと僕は思っているんです。

今の日本のジャーナリズムは、全体的に“俯瞰する”のは得意になっちゃった。じゃあクローズアップするときに、どこにするかが“切り口”だと思うんです。僕は井上さんや保里さんに「井上さんがここを切ったんだ」と分かるようにしてほしい。

国谷裕子さんの時代って、国谷さん自身がイニシアチブをとって、ここを切ってきたなというのが、少なくとも演出的には見えるようになっていた。それをどんどんやってほしいなと。

正しい意味でのキャスターであり、正しい意味でのジャーナリストであってほしい。アナウンサーとキャスターの違いもあるかもしれないけど、僕は放送をやっているジャーナリストであってほしいと思うんです、クローズアップ現代の進行役は。ここをクローズアップしてきた、というものを見せてほしい。

井上:クローズアップ現代プラスに、どういう番組であってほしいですか。

重松 清さん:僕が一番好きな番組は、実は「ETV特集」なんです。クロ現は、ETV特集と7時のニュースをちょうど真ん中でつないでほしいなと。あくまでも総合テレビのプライムタイムで放送しているけれども、志に「ETV特集」のようなものをもってほしい。

あとは、取材VTRをしっかり作ってもらいたいと思う。あれが好きなんだ、Vが。

小さなエピソードを大事にして欲しい

井上:これから私も取材を頑張りたいと思っていますが、これから“ひと”を見ていくうえで、どんなことを大事にしながら取材した方がよいと、重松さんは考えますか。

重松 清さん:僕だったら例えば“同居孤独死”でいえば、事件で逮捕された息子さんが、父親の死に気づかず放置したことは、もうわかったと。じゃあその前に何があったか。ああ、息子が父親に料理をつくっていたんだ、父親が息子に風呂を入れていたんだという、違うベクトルをもった小さなエピソードを大事にしたいと思う。同居を始めた最初から、事件の結末のような悲劇に向かっているわけではなくて、その途中には全然違う様子が伝わるエピソードもあり、それでも最後、この結末に向かったのはなぜだろうと。

いろんなエピソードがあるのが好きなんですよ。結論のダイジェストではなくて、むしろ、結論とは逆のベクトルをもったエピソードを大事にすることによって、人間の持っている矛盾みたいなものを感じられる。

井上: そこに本質があったりする。

重松 清さん:そう。よく「ギャップもえ」って言うじゃない。ギャップもえなんだよね、基本は。事件で息子さんがやってしまったことだけを切り取っていったら、理解不能なモンスターと思うかも知れない。けどその前に、お父さんのためにごはんを作ろうという一面もあったんだな。それを置くだけで、あの息子さんの人間としての姿に、厚みが出てくる。

本当に時間のないなかで編集するから大変だと思うけど、VTRの編集で落としてしまったエピソードをスタジオで、実はこういう話もあったんですよと拾ってもらうのは、僕はすごく大事だと思うし、それを拾う井上さんや保里さんの拾い方に「こういうのを拾うんだ、井上さんは」と、視聴者に思わせてほしいなと。スタジオは井上さんや保里さんの人間味を出してほしいなと思う。

独自の目線で“発信する”キャスターに

重松 清さん:今、視聴者の代わりに聞き手を務めてくれると思うんだけど、僕はもっと“発信”でいいと思う。井上さんの発信を見たい。それはね、前任の武田さん(武田真一キャスター)が、あの人と仕事をするたびに、熊本出身で熊本地震や水害に、ものすごくあの人のベースを置いていたんだよね。

そんな風に、このキャスターは何をベースに置いて生きているんだと分からせてほしい。例えば、30代の井上さんが見ている“親”は60代でしょう。まだ若いですよ。もし80歳になったら、けっこう性格も悪くなるよ(笑)。だから、先に30代の井上さんや保里さんの目線ありきで、ゲストにはもうちょっと上の世代の人の目線で、という風にやってみたらいいんじゃないかと。

井上:どう別の目線を入れて、多様な意見を番組の中に取り入れるか、ですね。

重松 清さん:そうそう。井上さんや保里さんが、クロ現を通じて40代の井上さんのライフワークと出会うとか、あるといいね。いろんなテーマを扱って、全方位を打ち返さなければいけない「クロ現」は、逆にいろんなテーマが見つかるかもしれない。頑張ってください。

※ 重松さん出演の「“同居孤独死” 親と子の間に何が起きているのか」は4月13日(火)放送です。

「“同居孤独死” 親と子の間に何が起きているのか」