ニュース速報

新型コロナ治療の最前線 妊婦の陽性患者と赤ちゃんをどう守るか

NHK
2021年8月26日 午後1:23 公開

去年4月から長期取材を続けている、聖マリアンナ医科大学病院の新型コロナ重症者病棟の「今」をお伝えするシリーズ記事。

“第5波”の感染急拡大の中、医療はひっ迫。先日、千葉県柏市で新型コロナに感染して自宅療養中だった妊婦が、体調が悪化してからも入院先が見つからず、そのまま自宅で出産、赤ちゃんが亡くなるという悲劇が起きました。

妊婦の陽性患者が相次ぐ中、同病院救命救急センター長の藤谷茂樹医師はこう言います。

「私たちも何か一歩間違えたら、同じようなことが起きていたかもしれない・・・」            

        (取材:報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

 

医療ひっ迫の中 相次ぐ妊婦の陽性患者

  

聖マリアンナ医科大学病院(8月17日放送 クローズアップ現代プラスより)

 

聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター(川崎市)では、コロナ重症者用のベッド32床が満床という危機的な状況が続いています。

同病院の救命救急センター長・藤谷茂樹医師は、爆発的な患者増に対して医療スタッフ、特に看護師の増員を要請したといいます。一人ひとりの看護師の負担がかつてないないほど大きくなっているからです。限られた人員で26台の人工呼吸器の管理、人工心肺装置=ECMOを4台使用している現状(8月25日時点)――特に夜間は4名の重症患者を1人の看護師がケアすることも、時にはあるといいます。

さらに医療現場は、“フルPPE(防護具)”というマスク・フェイスシールド・ガウン・キャップを全て身につけたフル装備で、水を飲むことさえままならない状態。スタッフの精神的、肉体的な苦痛をいかに和らげるかも、陣頭指揮をとる藤谷医師の重要な仕事となっています。

こうした中、病院には神奈川県や川崎市の調整本部(入院患者の調整を行う部署)から、妊婦の陽性患者の受け入れについての相談が次々と寄せられるようになっています。

 

川崎市立多摩病院

 

関連病院の川崎市立多摩病院には8月に入り2名が入院。今月下旬の深夜にも聖マリアンナ医科大学病院の産婦人科に市の調整本部から連絡があり、多摩病院に妊婦の陽性患者1人が救急搬送されました。

その陽性患者は、30代で妊娠20週程度。職場内で感染し、自宅療養を続けていましたが、呼吸困難になりました。保健所に相談したところ、調整本部経由で聖マリアンナ医科大学病院に連絡が来たといいます。同病院は産婦人科と救命救急センターが日頃から連携をしているため、調整本部からの依頼は他病院に比べて圧倒的に多いのが実情だと藤谷医師は指摘します。

医療がひっ迫し、余力がない中、いかに妊婦と宿った命を守るのか――

その模索について、藤谷医師がメッセージを寄せてくれました。

 

「新型コロナ対応 産科救急態勢の整備を早急に」

  

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター長 藤谷茂樹 医師(8月17日放送 クローズアップ現代プラスより)

  

“千葉県で自宅療養中の妊婦の陽性患者が、体調悪化してからも入院先が見つからず、自宅で出産、赤ちゃんが死亡という悲しいニュースが報じられました。そして、こう思いました。「私たちも何か一歩間違えたら、同じようになっていたかもしれない・・・」と。

 

昨日(8月21日)、近隣の医療機関から妊婦の新型コロナウイルス感染症患者の紹介があり、私たちの病院で急きょ受け入れ、帝王切開で出産するケースがありました。母子ともに良好な経過をたどっていますが、医療がかつてないほどひっ迫する中、ギリギリの対応だったとも思います。

 

また、別の妊婦は他の病院がかかりつけでしたが、病床の関係で受け入れができず、私たちの病院で7月31日に受け入れることになりました。当初はわずかな酸素投与であったため、自宅療養していましたが、急激に症状が悪化。急遽、関連病院に転院し、産婦人科、救急、小児科、新生児科と連携をはかり、モニターすることになりました。2日後、さらに病状が悪化したため、私たちの病院に入院となり、ギリギリのところで対応。人工呼吸器での管理を免れ、無事に退院しました”

 

 

“一般的に、妊婦は胎児と2名分の酸素量が必要であり、特に胎児には酸素が希釈され届けられるため、通常の成人の酸素化(酸素が血液に取り込まれること)では、胎児に酸素の供給ができなくなります。もし重症になれば、脳性小児まひや胎児の生命にかかわってくることになります。

 

海外では、集中治療にあたる医療スタッフは、産科ICUのトレーニングも受けており、母体の管理の重要性を徹底的に叩き込まれています。しかしながら日本では、こうした教育がまだ十分に普及していないため、産婦人科と集中治療の協力体制が海外ほどは充実していません。それゆえ、患者の受け入れができずに、救える命も救えなくなる可能性が高いのです。

 

私たちの施設は、神奈川県の「総合周産期母子医療センター」でもあり、リスクの高い妊娠に対する医療、高度な新生児医療等の周産期医療を行うことができる施設となっています。多くの施設が、出産に関係する患者の受け入れ態勢はできていますが、新型コロナウイルス感染症に対しての受け入れには、産婦人科だけでは限界があります”

 

医療者用SNSの画面(画像提供:藤谷医師) 

 

“では、私たちが現在、どのように妊婦の陽性患者に対応しているか。重要なことは「情報の共有と体制作り」だと思います。

 

今年7月に行ったのが、私たちの学校法人が管理・運営する3つの病院(聖マリアンナ医科大学病院、横浜西部病院、川崎市立多摩病院)の小児科、新生児科、産婦人科、救急・集中治療科に関係するメンバー57人全員の名前を医療用SNSに登録しました。メンバー全員と常に情報共有できるようにするためです。

 

そして、中等症の妊婦の陽性患者は、出産に直接関係がなければ、横浜西部病院と多摩病院の総合内科で対応。また重症であり、高濃度の酸素が必要となれば、聖マリアンナ医科大学病院の救急・集中治療で入院管理をして、産婦人科と協働で、患者の管理にあたることにしました。

 

3つの病院では、入院にまで至らなくても、どのような患者が私たちの医療圏にいるか瞬時に情報伝達を行い、入院が必要な場合は適切な施設で対応。そして妊婦のお子さんの水平感染(人や物から感染が広がること)の管理なども一元的に情報管理され、治療を行っています。このような仕組みがあることを国内の多くの施設に是非知っていただき、実行していただきたい。そして、不幸な症例が回避できることを願っています”

 

絶えない受け入れ要請 そして挿管された妊婦の搬送が・・・

 

病院内の藤谷医師

 

8月21日、神奈川県にある聖マリアンナ医科大学病院に、東京都の某指令室から10名の患者の受け入れ要請がありました。「これほど大量の要請は今までない」と藤谷医師は衝撃を受けていました。

同病院では要請があった段階で32ある新型コロナ病床のうち、31を使用していたため、断らざるをえませんでした。しかし、藤谷医師は「10名の患者がどこに搬送され、果たして助けることはできたのか、非常に気がかりだ」と苦渋の思いを吐露していました。

 

また最近、川崎市内の簡易宿泊所でクラスターが起こり、身寄りのないお年寄りについて救急車からの要請があり、市内で受け入れ調整をしている時間がないため、一時的に聖マリアンナ医科大学病院で受け入れることがありました。その患者は、新型コロナによる重症の肺炎で、こうした立場の弱い人々が病院などの施設になかなか入院できない状況が続いているといいます。

 

そして今月下旬の朝、関連病院の多摩病院の医師から聖マリアンナ医科大学病院に緊急連絡が入りました。前述した職場感染の30代の妊婦(妊娠20週程度)の容態が悪化し、気管挿管されて、聖マリアンナ医科大学病院に搬送されました。

 

妊婦と赤ちゃんの命をどう守っていくのか。ギリギリのマンパワーの中、懸命な治療が続けられています。

  

 

【聖マリアンナ医科大学病院 これまでの取材記事】

Vol.1 緊急報告 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟

Vol.2 半年以上たった今も…  新型コロナ ”後遺症外来” の現実

Vol.3 重症者用ベッドが満床に “患者の選択”迫られる事態も

Vol.4 “第5波”の猛威 増える妊婦の陽性患者

Vol.5 私生活も一変…“第5波”と闘う看護師たち

Vol.6 新型コロナ 感染リスク高い行動歴の患者が次々と

 

【あわせて読みたい】

医師が語る「“医療崩壊”を乗りこえるための3つのポイント」