半年以上たった今も… 新型コロナ ”後遺症外来” の現実

NHK
2021年8月4日 午後3:31 公開

オリンピック・パラリンピック期間中に医療機関で何が起きているのか――去年4月から取材を続けている、聖マリアンナ医科大学病院の「新型コロナ重症者病棟」の現状について、お伝えするシリーズ記事。2回目は新型コロナの後遺症にいまも向き合う患者のご家族からのメッセージを紹介します。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)
   

【前回の記事】 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟 開会式の裏で・・・

  

コロナ後遺症外来 患者の多くが“若年層”

  

  

私たちが去年4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)ではことし1月18日から総合診療科が中心となり、後遺症の専門外来「新型コロナウイルス感染症後外来」を設けています。7月末までに受診した後遺症を訴える患者は160名を超えています。

そのほとんどが新型コロナの軽症者で、なかには半年以上にわたって後遺症に苦しんでいる方もいます。患者は20代~50代が最も多く、全体の8割に及んでいます。症状もけん怠感、嗅覚味覚異常、呼吸困難、不安、頭痛、脱毛、胸痛、どうきと多岐に渡っています。

  

私たちが取材している新型コロナの後遺症を患う方々の現状や言葉を紹介します。

看護師の20代女性。周囲にけん怠感を訴えるものの理解されないことから、精神科にも通うようになりました。さらに、立ち上がっただけで脈が異常に高くなる体位性頻脈症候群(POTS)にも悩まされています。

  

30代の会社員の男性は、どうきや激しい息切れで仕事を休みがちになり、最終的には離職を余儀なくされ、コロナ後遺症による影響は生活にも深く影響しています。

  

「マスクも手洗いも励行し飲みにも行かなかった自分がまさか感染するとは。コロナはひと事だと思っていた。」

  

介護職の女性は、聖マリアンナ医科大学病院内の医療ソーシャルワーカーの手助けで傷病手当をもらい生計を立てていますが、治るメドは今も立っていません。

  

「この病院に来るまでは誰にもわかってもらえなかった。いつになれば普通の生活ができるのか不安。このまま治らなければどう生活していけばいいのかわからない」

  

  

感染急拡大の中で…「コロナの怖さが伝わらない…」家族からのメッセージ

  

妻・加奈子さん(仮名)と原口さん

  

70代の男性も後遺症に半年以上、悩まされてきました。一時は人工呼吸器を付け、命の瀬戸際まで立たされましたが、病院の懸命な治療で危険を脱しました。しかし、退院後、けん怠感と足の痛みが治らず、自営業を辞めざるをえませんでした。その男性の妻から先日、私たちのもとにメールが届きました。

  

「コロナ前と変わらない平穏が少しずつではありますが、家に戻りつつあります。オリンピックを二人でテレビ観戦していますが、夫がコロナにかかった1年前が嘘のように感じます。しかし、もしかしたら一人で見ていたかもしれないとふと思うと、とても怖くなります。今の急激な感染者の数に昨年のいやな思いが頭をよぎるのです」

原口さん夫婦を取材した番組のテキストダイジェスト版(2021年4月28日放送)

  

夫が生死の境をさまよい、その後も後遺症に苦しむ姿を見守ってきた妻の原口加奈子さん(仮名)。連日、過去最多の新規感染者数が確認されている今、何を思うのか―――メッセージを寄せてくれました。

  

“感染症といえば風邪・インフルエンザ・胃腸炎など、医療機関にかかることでほぼ回復が得られ、生死を分ける事態などこれまで考えたことはありませんでした。

しかし、新型コロナウイルスは違いました。昨年春から日本でも発熱者が出始めて徐々に広がり出すと、自粛の呼びかけに高速道路からも車が消え始め、その光景は異様に思えたものです。

その後、ひとごとではなく、夫も感染したのです。第1波の時でさえ病院の受け入れに50分を要したのち、ようやく5軒目の病院に入れました。‘’発熱‘’と言うだけで拒否が続き、得体の知れない恐怖感が人々に広がっていた頃です。

夫は重症化し、転院を繰り返し、人工呼吸器の装着と医療従事者の方々の多大なご支援で、命を繋いでもらい、ただただ感謝でした。一方で亡くなった方もいて、「生死を分けるこの境は何なのか」、「人はこんなにも呆気なく、脆い存在なのか」と考えさせられました”

  

入院中の原口さん

入院中の原口さん

  

  

“その後の回復も難航しましたが、幸いにも夫は自宅に戻ることができて、当初を思うと考えられないことでした。家族は万が一のときを想定して、それぞれの立場で思いやってくれたその気持ちは、私の力になりました。

コロナ感染から1年を経て、私たちは日常を少しずつではありますが、取り戻しつつあります。長い間、生活の柱であった自営業はコロナで閉じる結果となりましたが、気持ちを切り替えて「ここが引き際なのだ」と思うことにして、車も含め仕事に関する諸々の処分を数ヶ月にわたり行いました。

  ワクチン接種が始まり収束に向かうかにみえましたが、足踏み状態のなかで懸念していた感染が急拡大しています。それもこれまでにない速さです。かつて自分たちが経験したときのように医療機関から入院を受け入れてもらえず、救急車が自宅前に止まったままであったことを思い出し、背筋が寒くなる思いです。

     オリンピック観戦で思わず密を忘れて、肩が触れ合いそうな沿道の場面や、緊急事態宣言中の無関心さは、コロナの本当の怖さが分からないからではないかとも思ってしまいます。「コロナは死と隣り合わせ」であることを!!もっと自分の事として受け止めて欲しいと願います”

  

増え続ける後遺症患者 いま、私たちは

  

  

聖マリアンナ医科大学病院の後遺症外来は予約がすぐに埋まるほど受診希望者が後を絶ちません。原口さん(仮名)と同様に仕事をやめざるを得なくなった方も大勢いるのではないでしょうか。

  

去年、取材した40代の男性はフリーカメラマンでしたが後遺症により指の震えが止まらず、もう二度と自由にカメラを持つことはできないかもと嘆いていました。ハローワークに行く気はあるものの、「今の自分に何が出来るのか、分からない」という不安から仕事の相談に出向くことを、ためらっていました。

  

「若い方は重症になりにくいから大丈夫だ」と間違った考えが広まったこともあります。重症に万が一ならなくとも後遺症で長く苦しみ悩み続けている方はいらっしゃいます。

感染爆発を抑えるために今一度、行動を見直すことが必要なのではないか。後遺症のご家族からのメッセージは、感染症対策の基本の大切さを改めて私たちに突きつけていると感じます。

  

これまでの取材記事

緊急報告① オリンピック期間中のコロナ重症者病棟【現在取材中】