新型コロナ 感染リスク高い行動歴の患者が次々と

NHK
2021年8月24日 午前9:59 公開

去年4月から長期取材を続けている、聖マリアンナ医科大学病院の新型コロナ重症者病棟の「今」をお伝えするシリーズ記事。

8月17日に放送したクロ現プラスでも取り上げた、同病院の現状。番組放送後も、ひっ迫した状態は続いています。同病院救命救急センター長の藤谷茂樹医師が医療現場の差し迫った状況について、メッセージを寄せてくれました。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

 

8/17放送 クロ現プラス「新型コロナ重症者病棟 “負のスパイラル”が招く危機」(8/24 23:00まで見逃し配信中)

  

「わたしたち、限界かもしれません」

 

8月17日放送 クローズアップ現代プラスより

 

聖マリアンナ医科大学病院救命救急センター(川崎市)には、コロナ重症者用のベッドが24あり、8月17日に8床(数日中に10床)増床しました。しかし、すぐに埋まり、32床が満床という危機的な状況が続いています。

 

防護服を着た医師や看護師は病棟に入ると緊急時以外、少なくとも5時間~6時間は中に入ったまま。冷房が効いているとはいえ、ECMO(エクモ)=人工心肺装置の周辺は他の場所よりも温度が約1.5度高く、汗が体中から吹き出すほどの過酷な勤務だといいます。さらに現在、このエクモが6台中5台稼働し、かつほとんどの患者が人工呼吸器を装着しているという気が抜けない状況が続いています。

 

治療の陣頭指揮をとる藤谷医師のもとに、ふだんは元気でよく冗談を言う看護師が深刻な面持ちで、こう本音を漏らしていました。

 

「先生、わたしたち、このままの状況が続けば、もう限界かもしれません」

 

始まった“命の選別” 感染リスク高い行動歴の患者が次々と…

 

聖マリアンナ医科大学病院 救命救急センター長 藤谷茂樹 医師(8月17日放送 クローズアップ現代プラスより)

 

出口がまったく見えない“第5波”の猛威に医療従事者の心も体も限界が近づいています。

こうしたなか、藤谷医師から、重症者病棟がいかに危機的な状況に陥っているか、そして医療従事者として抱く複雑な気持ちを文章にして寄せてくれました。

 

“現在、人工呼吸器が26台という驚異的な台数の使用、そしてECMOは6台中5台を使用しており、どの患者にECMOを回すか、すなわちどの患者であればECMOを回して生存する可能性が高いかなど、「命の選別」を余儀なくされる事態に陥っています。

 

さらに、都内からも多くの重症患者を引き受けている当院に受け入れ要請の電話が鳴りやみませんが、命に直結する状況でなければ受け入れることができなくなっているのが現状です。入院させたくても入院ベッドがなく、医療従事者が枯渇しているのです”

 

医療崩壊を防ぐための「神奈川モデル」

 

“われわれの地域(川崎市)では、医療崩壊を防ぐための新型コロナ診療のピラミッド(「神奈川モデル」)である、軽症、中等症、重症の受け入れ医療機関のピラミッドが崩壊しています。

 

救急車でかけつけると、自宅療養の患者が意識障害・低酸素血症で、生命の危機的状況に陥っており、人工呼吸器管理が必要、そしてECMOまでもが必要な患者が出始めていることを知っていただきたいのです。重症の受け入れ病棟の確保もさることながら、自宅療養の患者をしっかり受け入れることができる中等症の病床の確保を進めなければ、集中治療の砦であるICUは、崩壊の危機にさらされます。

 

そのためには、ワクチン接種を早急に促進し、組織的に多くの方にいきわたる仕組みづくりをしていただき、ワクチンによる効果を待つ傍ら、新規感染症患者が減少に転ずるまで、中等症、重症の受け入れ病床の確保を進めていただきたいと思います。

 

8月17日に増床したICU(集中治療室)8床は、1日半で埋まろうとしています。ベッドを増床すれば、すぐにベッドが埋まる事態になっています。入院患者の中には、オリンピックの関係者も含まれ、多くが20代から50代と今までより比較的、若年層の患者が入院をしています。しかも、ワクチン未接種がほぼ全員。私が夕方、ICUの状況を確認に行くと何人かの看護師が、私のところに足早に立ち寄り、「私たちは限界に達しており、これ以上の業務が難しくなってきている」と口々に言います”

 

腹臥位(ふくがい)療法

 

“また患者の中には、体重が100kgを超える方が多く、ECMOの使用がこれ以上難しい状況の中で、腹臥位療法(ふくがいりょうほう:患者の体の向きを変え、血液を肺の細胞に行き渡らせ、回復を促す)をして維持せざるをえなく、「何とか患者の命を救いたい」と満身創痍で患者の治療やケアに取り組んでいる看護師たちも限界に達してきているのです。

 

「命は救わないといけない」とは当然思っていますが、このような災害事態にあるときに、すべてとは言いませんが、感染リスクが高い行動をして、感染をしている患者が次々と入院をしてくることに対して、疑問を持ち始めてもおかしくないというか、むしろこうした感情を抱くのは正常の反応なのかもしれない・・・などと、私たちは正直、何とも言えない気持ちを抱えて、治療にあたっています。

 

医療従事者は、自分たちの生活を犠牲にして、医療に取り組んでいますが、一向に収束する気がしない、終わりのない闘いに心が折れかけてきており、しっかりとこうした声を受け止め、対応策を講じていってほしいと切に願います”

 

若者が一気に重症化 ECMOと人工呼吸器が足りない事態もすぐそこに

 

8月17日放送 クローズアップ現代プラスより

 

全国の重症者数は日を追うごとに増えています。8月22日時点で1891人と過去最多。1か月前の約5倍の数字です。そして自力で呼吸ができず、ECMOによる治療を受けている患者も過去最多となっています。ECMOを使った治療を行う医療者らでつくる「ECMOnet」によると8月19日時点で全国で117人。第3波の60人、第4波のピークだった67人を大きく上回っています。またECMO患者は30代以下にも増えているといいます。

  

しかし、入院できる人は、まだいいかもしれません。入院先が見つからずしかたなく、自宅療養を続けている人は増え続けています。都は自宅療養者向けのハンドブックを作成中で家族などと同居の場合、2メートル以上の距離をあけてカーテンなどで仕切りを作ることなどを求めています。また入浴は感染者が最後にし、使用後はシャワーで洗い流すといったように細かく手引きをつくる方針です。

 

感染しても病院ではなく個人で備えなければいけない、そんな時期に差し掛かっています。

 

 

【聖マリアンナ医科大学病院 これまでの取材記事】

Vol.1 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟

Vol.2 新型コロナ ”後遺症外来” の現実

Vol.3 重症者用ベッドが満床に “患者の選択”迫られる事態も

Vol.4 増える妊婦の陽性患者

Vol.5 私生活も一変…“第5波”と闘う看護師たち

藤谷医師が語る「“医療崩壊”を乗りこえるための3つのポイント」

 

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