ニュース速報

新型コロナ“第5波”の猛威 増える妊婦の陽性患者

NHK
2021年8月12日 午後7:07 公開

新型コロナの治療にあたる医療機関で今、何が起きているのか――

聖マリアンナ医科大学病院の新型コロナ重症者病棟の現状をお伝えするシリーズ記事。今回はその関連病院、川崎市立多摩病院からの緊急報告です。この病院は新型コロナの軽症・中等症患者を受け入れていますが、感染が急拡大する中で、一般の診療にまで深刻な影響が出始めていると言います。4回目は同病院総合診療内科の本橋伊織医師からのメッセージを紹介します。

(報道局 社会番組部 チーフディレクター 松井大倫)

  

取材記事① 緊急報告 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟

取材記事② 半年以上たった今も…  新型コロナ ”後遺症外来” の現実

取材記事③ 重症者用ベッドが満床に “患者の選択”迫られる事態も

  

  

増える妊婦の陽性患者 対応できる病院はほとんどない状態

川崎市立多摩病院

    

私たちが去年4月から長期取材を続けている聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)は、重症患者が命の危機を脱すると、関連病院である川崎市立多摩病院にまず患者の転院を促しています。その転院先である川崎市立多摩病院のコロナ病床数は30。オリンピックが始まったあたりから患者で埋まり始め、入院調整(ベッドコントロール)が非常に難しい状況になっています。そして8月に入ってからは、この病院ではこれまでほとんどいなかった妊婦の陽性患者の入院が相次いでいます。妊婦は新型コロナにかかると同世代の女性よりも、重症化する割合が高いことが報告されています。

  

多くの医療機関では妊婦の新型コロナウイルス感染者の対応は、現状ではなかなか難しいと言います。川崎市内では妊婦の入院治療ができる病院は現在、同病院を含む2つしかなく、その2つの病院もコロナ患者で埋まりひっ迫しています。そこに東京からも妊婦の陽性患者の受け入れ要請が相次いでいるのです。もし急に出産となった場合、切迫流産や早産などの事態に陥った時に対応が難しいため、どこの医療機関も受け入れに腰が引けているといいます。

  

ただ多摩病院の新型コロナ病棟には、妊婦の陽性患者を受け入れても、分娩監視装置はないため、「経過観察」しかできません。産婦人科と連携を取り、もし緊急で分娩となると、聖マリアンナ医科大学病院に搬送することになっていますが、その聖マリアンナ医科大学病院も病床はひっ迫しているのが現状です。

  

一般診療にも影響が…

川崎市立多摩病院(昨年9月放送「BS1スペシャル」より) 

  

こうした中、一般診療にも影響が出ています。新型コロナ病棟の看護師を確保するために一般病棟を縮小し、新型コロナ以外の入院患者数を制限せざるをえない状況です。川崎市立多摩病院では受け入れ病床を増床するにあたり、さらに看護師の数を増やす必要に迫られています。その分、他の病棟から看護師を引き抜くため、他の病棟は手薄になり、新型コロナ病棟以外で働く看護師たちの負担も大きくなっているといいます。

今月10日の夕方、同病院の本橋伊織医師から私のもとにメールが届きました。

  

「先週から、ずっと満床の状態が続いています。入院が必要な患者さんが自宅での待機を余儀なくされており、このままでは自宅で亡くなる方も出てきます」

  

「このままでは一般診療が維持できない 今一度、感染対策を」

  

川崎市立多摩病院  総合診療内科   医師  本橋伊織さん

感染急拡大の中、軽症・中等症患者を受け入れている病院では何が起きているのか。本橋医師がメッセージを寄せてくれました。

 

“当院は重点医療機関として、主に重症化リスクのある軽症から中等症の患者の入院診療を行なっています。より重症の患者さんの入院治療を行なっている聖マリアンナ医科大学病院と密に連携を取り、診療を行ってきました。しかし患者数の急増により、診療体制を維持することが困難になってきています。

  

年末年始の“第3波”の時も状況は切迫していましたが、この“第5波”はそれよりも深刻です。7月中旬までは新型コロナウイルス陽性者受け入れ病床にもある程度の余裕があり、軽症(発熱や軽度の肺炎はあるが、酸素は吸わなくてもすむような患者)を経過観察目的に入院させることも出来ていました。

  

しかし7月下旬、オリンピックが始まったあたりから様相が変わってきました。外来に来る発熱の患者が急増し、その中の新型コロナウイルス感染症患者の割合も急激に増加しました。受診の時点ですでに中等症(ひどい肺炎があり、酸素吸入が必要な患者)になっており、その場で緊急入院が必要な患者も一定数、見られるようになりました。

  

患者数の増加に伴い、1日あたりの入院患者数も急激に増加しました。“第3波”の時と明らかに違うのは、入院患者の年齢が極端に若年化したことです。年末年始では高齢者施設などでのクラスターからの入院が多く、ほとんどが高齢者でした。若年者は感染しても自宅やホテルの療養でなんとかなっていたのです。

  

しかし、現在の入院患者のほとんどがワクチンを打っていない30歳〜60歳程度の方々です。皆ひどい肺炎になっており、酸素吸入や点滴での治療が必要な状況です。高齢者ワクチン接種が広まり、高齢者が入院してくることはほとんどなくなりました。たまに入院してくる高齢者は、ワクチンを摂取していない方です。

  

また、“第4波”まで主流だったアルファ株(イギリスで確認された変異ウイルス)の時は、若年で重症化するのは糖尿病や肥満などの基礎疾患がある方ばかりでした。しかし今回流行しているデルタ株では、何も病気をしたことがない健康な30代の方が急激に重症化して人工呼吸器を必要とするまで悪くなるのです。デルタ株は、これまでの新型コロナウイルスとは全く違う感染症になってしまいました”

 

  

“デルタ株は感染力が非常に強く、現在感染者数が急増しています。また、非常に重症化率が高いことが問題で、若年者でも入院治療を要するような肺炎を引き起こします。

  

患者数の増加に合わせて、当院でも陽性者用病床の増床を行いました。しかし、患者数の急増がそれをはるかに上回っています。重症化率が高いので、高度医療機関である聖マリアンナ医科大学の重症者用ベッドも常に満床に近い状況で経過しています。つまり、当院で重症化しても転院搬送先が無いのです。本来ならば当院のキャパシティを超えるような重症度の患者でも、転院先が無いため高濃度酸素吸入器で経過を見ていることも多々あります。

  

人工呼吸器をつければ、あるいはECMOをつければ助かるかもしれない人が、それらを受けられずに亡くなってしまうかもしれないのです。

  

「じゃあベッドを増やせばいいじゃないか」という問題ではありません。新型コロナウイルス感染症を診療するには多くの人手と物品と隔離のためのスペースを必要とします。重症者対応になればそれはより顕著で、一朝一夕に増やせるものではありません。

  

そして、新型コロナウイルス感染症が蔓延すればするだけ、通常の診療に影響が出てきます。心筋梗塞、くも膜下出血など命に関わる病気になっても、それらの病気の治療を行うためのICUは新型コロナウイルス患者に使われていて、本来であれば受けられる治療が受けられなくなる可能性もあります。新型コロナウイルスの流行は、医療システム全体を脅かすのです。

  

この状況をなんとかする方法としては、一人ひとりが感染しないように行動することです。人と接触しないこと、しても常時マスクをつけること。そして、打てる人は可能な限り速やかにワクチンを打つことです。

  

日々新型コロナウイルス感染症の診療をしていると、mRNAワクチンの威力を本当に肌で感じます。ダイヤモンド・プリンセス号の頃から新型コロナウイルス感染症に関わっている者として、現状を打開する方法はこれしか無いと心から思います。デルタ株であっても、ワクチンは重症化を明らかに予防してくれます。

 

ワクチンを打っていない人は、絶対に感染しないように行動してください。いま感染し、ひどい肺炎になっても、関東圏に入院できるベッドはありません。これを書いている8月10日現在、救急隊は新型コロナウイルス陽性者の入院先を12時間以上探し続けることも珍しくありません。入院できればマシなほうで、重症化しても人工呼吸器やECMOなどの治療を受けられる可能性は極めて低いのが現実です。

  

今、感染してしまうと本当に助かる命も助けられないのです。どうか、自分のワクチンの順番が来るまでもう少しの間、自分と自分の大切な人を守るために、行動を今一度見直してみてください”

  

医療体制ひっ迫 集中治療に制限かける病院も

川崎市立多摩病院(昨年9月放送「BS1スペシャル」より)

  

今月10日、新型コロナの感染拡大で医療体制がひっ迫し、全国27の大学病院がICUでの患者受け入れを制限したとの調査結果を発表しました。今後、受け入れ制限の可能性があると回答した病院も数多くあり、感染拡大の状況によっては、さらに深刻な状況になる恐れもでてきました。

 

さらに、本橋医師によると、新型コロナの可能性がある「疑似症患者」の来院が増えているといいます。新型コロナと症状が似ている疑似症の患者が増えているのは、猛暑による熱中症などが原因です。家族や職場に陽性者がいれば、本人に症状がなくても「疑似症」として扱わなければなりません。受診時の検査が陰性でも、いつ発症するかわからないからです。

  

陽性者と同じ感染対策を取らなければならないので、当然、人手と物資とスペースを取ります。そして、陽性者と異なり、個室で管理しなければならないところも問題となっています。その人は「陽性じゃないかもしれない」からです。疑似症患者が入れるスペースには物理的に限界があり、それを超えたら、発熱患者自体の受け入れが不可能になるという新たな問題にも直面することになります。

  

「自分と自分の大切な人を守るためにも今一度、感染対策を」という本橋医師からのメッセージを多くの人に理解して実践していただきたいと思います。

  

  

【これまでの取材記事】

取材記事① 緊急報告 オリンピック期間中のコロナ重症者病棟

取材記事② 半年以上たった今も…  新型コロナ ”後遺症外来” の現実

取材記事③ 重症者用ベッドが満床に “患者の選択”迫られる事態も