ことし3月、北海道旭川市で中学2年生の廣瀬爽彩(ひろせ・さあや)さんが、凍死体で発見されました。彼女のSNSには「いじめ」を告白するメッセージが残されていました。
学校や旭川市教育委員会はいじめがあったとは認めておらず、いまも第三者委員会による調査が行われています。
今回、爽彩さんの母親がNHK のインタビューに応じ、胸の内を語ってくれました。
(クローズアップ現代+取材班)
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番組はNHKプラスで放送1週間後まで見逃し配信(~11/16)※別タブで開きます
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娘は “負けず嫌い”で“優しい子”だった
廣瀬さんの自宅には、爽彩さんの写真がたくさん飾られていた
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――爽彩さんは、どんなお子さんだったんですか?
母:
小さい頃から負けず嫌いでしたね。友達は自転車をこげるのに、自分はこげなくて泣いていたりとか。低学年の子などにはすごく優しい子でした。雨に濡れないように自分の傘を貸してあげて、自分は濡れて帰ってくるとか。
スキー学習のときに「低学年の子にはスキー板は重たいから」と、自分とその子のスキー板を両方持って帰ってきたとか。優しい子でしたね。
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母:
勉強も、小学4年生の頃に自分から「塾に行きたい!」と言い出して、いつも頑張っていました。算数が好きだったんですが、理由は「答えが一つしかないから」っていつも言っていましたね。
特に中学校に入る直前は、普段よりも“やる気満々”という感じでした。塾も行きたいし、部活も入りたいし、生徒会にも入って生徒会長になりたいっていうことを、いつも言っていました。あと「○○高校に進みたい!」ということも言っていましたね。
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イラストを描くことも好きだった爽彩さん。かわいらしい絵が何枚も飾られていた
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――将来の夢などはあったんですか?
母:
将来は「法務省で働きたい」と言っていました。法務省の仕事についてテレビで見たらしくて「法律では助けられないことがある。だから、そういう法律の矛盾するところを直してあげたい」と。
私が「弁護士じゃダメなの?」って聞いたら、「弁護士さんは悪い人の味方もしなきゃいけないから、それなら検察官になりたい」って言っていました。
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「娘は、震えながら泣いていた」
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――爽彩さんの異変に気づいたのは、いつ頃でしょうか?
母:
おととしの4月、中学校に入学した直後です。元気がないというか泣いて帰ってきたりしたので、「何があったの?」と聞くと、「別に何もないよ」という感じで。それがスタートだったと思います。
明らかにおかしいと思ったのは、その後の大型連休中でした。明け方の3時、4時くらいにいきなりガタガタと音がして、爽彩が外に飛び出していったんです。私もはだしで追いかけて無理やり家に連れ戻したんですが、泣きながら「先輩に呼ばれてるから行かなきゃ」と。がたがた震えながら泣いていました。
そのおびえ方が尋常ではなかったので、相手の子の名前を優しく聞いて、翌日には学校に相談しました。「いじめじゃないんですか?」と。
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――相談をしてみて、学校の対応はどうでしたか?
母:
そのときは、「別にいじめなどではなく(相手の子たちが)ふざけて呼び出しただけ」「その子たちもただ家にいただけですし、気にしないでください」というような説明を受けました。
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中学校入学後に爽彩さんが描いたイラスト
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――その後の爽彩さんの様子はどうでしたか?
母:
その後も帰りがすごく遅くて近所を探すようなことが続きました。公園で見つけて連れ帰ったこともあったんですが、他の子たちは大人が来ると、自転車だったり走ったりして、みんな逃げちゃうんですよね。娘だけ一人ぽつんといて、私が近づくと泣いてしまうんです。これは絶対おかしいと思いました。
それまでは家でご飯を食べるときも一緒に食べて、勉強もリビングでしていましたし、家にいる時間のほとんどはリビングで一緒に過ごしていました。それが自分の部屋にずっと閉じこもるようにもなりました。
部屋から「ごめんなさい」っていう声がずっと聞こえてきたり、いきなり「死にたい」って言い出すこともあって。これは間違いなくいじめなんだろうと思っていました。でも爽彩に「いじめられてない?」と聞くと、「どこからがいじめっていうのか分からない」と返ってきました。
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――そのことも学校には相談しましたか?
母:
何度も学校には相談しました。そういったことや帰りがすごく遅かったりすることを報告して「いじめじゃないんですか?」と聞いたんですけど、「(相手の子は)仲のいいお友達だから、心配し過ぎです」みたいなことをずっと言われていました。
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娘が自殺未遂 “いじめだと確信”
最初の異変からおよそ2か月後の2019年6月。
爽彩さんは同じ中学校の生徒などに囲まれる中、川に入って自殺を図る。
警察も駆けつけ救出されたが、爽彩さんはパニック状態だったためそのまま入院。
のちに旭川市が北海道に送った報告書では、爽彩さんが学校の教員に「死にたい」と電話で繰り返していたことが記録されている。
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――いじめを確信したのは、この6月の件がきっかけですか?
母:
はい。娘はその日のうちに入院したんですが、「いじめ」が確信に変わったのは、そのときに預かった娘の携帯電話の中からいろいろな写真や動画が出てきたことですね。拡散もされていました。
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この頃の状況について、のちに爽彩さんが友人に送ったメッセージ
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――受け止めづらかったと思いますが、それを見つけたときはどう対応しましたか?
母:
私も慌ててしまって内容が内容なだけに、どこに相談すればいいのか。とりあえず交番に行くと、飛び込みがあったときに来てくれた警察の方がいたので相談したところ、「明日、少年係に行ってくれ」と言われました。
それで翌日の朝7時くらいに学校に電話をして「警察に行きます」と伝えたら、「その前に学校に来てくれ」「携帯の中を確認させてくれないか」と言われ、先に学校に行ってから警察に行きました。
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学校側は「悪ふざけ、いたずらの延長」
――そのときの学校側の対応はどうでしたか?
母:
「(娘の)LINEのやりとりを写真に撮らせてください」と、1枚1枚撮影していました。そして、「これをもとに調べさせていただきます」と伝えられました。
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――学校側も、事態の把握はしたんですね
母:
はい。しかし最終的には「悪ふざけがすぎただけで、(加害生徒に)悪意や悪気はなかったんです」という説明を受けました。
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それに対してはもちろん怒りました。しかし「じゃあお母さんは、どうしたいんですか?」というのを何度も何度も言われました。「どうしてほしいんですか?」って。それでもう泣くことしかできなくて。
それを繰り返す中で、(教頭から)「加害者にも未来があるんです。これは単なる悪ふざけ、いたずらの延長だったんだから、もうこれ以上、何を望んでいるんですか?」ということをずっと繰り返し言われました。
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爽彩さんの母親が記録していた、教頭の発言
「10人の加害者の未来と、1人の被害者の未来、どっちが大切ですか。10人ですよ。1人のために10人の未来をつぶしていいんですか。どっちが将来の日本のためになりますか。もう一度、冷静に考えてみてください」
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―――それを言われたとき、どういうお気持ちでしたか?
母:
受け止め切れないし、そのときはもう何でしょう、何も考えられないというか、ショックを受け過ぎてしまって。この学校にいちゃダメだと思いました。
それで教頭に「誰がその画像を持っているか分からない。みんなが持っているかもしれない状況では、この学校にはとても怖くて通えないと思う」と言いました。すると「怖くないです。僕なら怖くないですよ」「僕は男性なので、その気持ちは分かりません」と言われました。
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NHKでは母親の対応にあたった教頭に取材を申し込んだ。
「なぜいじめと判断しなかったのか?」
「母親が記録している学校側の発言は事実なのか?」
これに対する返答は「私が回答することにより調査に影響を与えることが懸念されることから、回答を差し控えさせていただきます」というものだった。
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“フラッシュバック”に苦しむ娘との日々
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――爽彩さんが苦しんでいる姿を見るのは、つらかったですよね
母:
爽彩は知られたくないんだろうと思って。だから、入院中も知らないふりをするのがすごくつらかったですね。笑っていなきゃって。いじめられていることも、どうして飛び込んだのかについても、ずっと知らないふりをしていました。
身内や一部の友人には話していたんですけど、お見舞いに来てくれるときには「知らないふりをしてくれ」と頼んでいました。本人が一番つらいのは分かっているんですけど、もうなんでしょう。娘にどう接したらいいのか、どうしてあげればいいのかというのが分かんなくなるような感じで、知らないふりをするのが一番つらかったんですね。
そのときはもう本当に、「爽彩に元気になってほしい。生きててほしい」と思っていました。
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あと印象に残ってるのは、入院中で絵を描くこともすぐには許されなかったりと自由がない中で、爽彩の携帯にSNSの通知が来るんです。加害者と言われている子たちが、夏休みで海に行ったりキャンプに行ったりしているのを毎日見ていました。
「謝罪したい。反省してる。謝罪の会を開きたいんです」って言ってきたけど、「なんでうちの子は自由がないのに、みんな笑って遊べるんだろう?」「爽彩は外にも出られないのに、なんで?」と思うと、すごく苦しかったですね。
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――退院後、引っ越しや転校もされたと思いますが、爽彩さんの様子はいかがでしたか?
母:
退院した直後は窓から飛び降りようとしちゃったりとか。
入院中もそうだったんですけど、フラッシュバックが起こると「殺してください」「許してください」って叫んだり、白目をむいて泡を吹いて倒れちゃうとか。そういうことが一日に10回や20回、頻繁に起きていました。
だから目が離せないというか、時間が経って徐々に減ってはいたんですけど、それでも一日に数回はフラッシュバックが起きる状態でした。
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その頃に爽彩さんが友人に送っていたメッセージ
(左:2020年7月24日 / 右:2020年9月18日)
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「すぐに戻るね」と声をかけた後に・・・
心的外傷後ストレス障害「PTSD」と診断された爽彩さんは、転校後も不登校が続いた。
ことし2月13日。
爽彩さんはネット上で知り合った友人に、自殺をほのめかすメッセージを送る。
その日の夕方5時頃、母親が「すぐに戻るね」と家を空けた1時間ほどの間に行方不明に。
1か月以上が経ってから、自宅から約2キロ離れた公園で雪の下から凍死体で見つかった。
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母:
いじめの疑いを持った時点で、転校などを考えればよかったかなとは思いますね。
でもそれで解決できたのかというと、過去に戻れたとしても結局は一緒なのかなって。
どうすれば助けてあげられたかは、いまも分かりません。
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―――いまだに「いじめ」と認定されていないことに対しては、どう思っていますか?また、どういうふうに対処してほしかったですか?
母:
「じゃあ何をされたらいじめなんですか?」っていうのは思っていますね。
いじめがエスカレートして犯罪に発展したということではないんですかって、ずっと思っています。「いじめだ」と普通に認めて先生方にもちゃんと調べてもらって、ちゃんと対処してほしいです。
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もし今後、同じようなことが起きた時に、被害を受けた方のご両親などにきちんと適切な形で情報を共有してもらえるような形になっていくのが一番いいのかなと思います。
アフターケアについても、たとえば学校に通えないなら通えないなりのフォローがあるとか、そういった形に変えていってもらえたらなと思います。
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