監修:東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 遠藤利彦(発達心理学) 東京大学 汐見稔幸(教育学・教育人間学・育児学)
【ねらい】
むしゃくしゃして人や物にあたってしまう時は、俯瞰(ふかん)して自分がいまどんな状態なのか確認してみよう。そして、イライラしてしまう原因をさがしてみよう。
東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 遠藤利彦さんからのメッセージ
みーがパパにあたっていたように、こどもがわけも分からずイライラしていることってありますよね。保護者の方々からもよく聞く話です。そもそも怒ることは、自分の気持ちを相手に伝える大切な自己表現です。自分を大切にするために必要なことなのですね。
とはいえ、こどもがイライラして不機嫌なときは何とかしたいもの。
で気持ちを切りかえるのもひとつの方法ですが、他にもあるのでしょうか。
■イライラに気づかせてあげて
パパ:みー、今日はイライラしてたな みー:え、イライラ? パパ:怒りたいような、なんかイヤな気持ちがしてたでしょ? だって見てごらん。ほら、イライラすると現れるイラりんがいる みー:え!?ずっといた? パパ:いたよ。パパにはずっと見えてた たぶん、みーはイライラしてたから見えなかったのかも みー:そうか、みーってそんなにイライラしてた? パパ:してたよ。何でイライラしてたんだろうね? みー:うーんと、えーと、なんでだっけな?
そもそも、イライラしているときはおとなでも自分の状態に気づくのは難しいですよね。こどもはもっと自分のイライラに気づいてないことが多いものです。ストレスを感じる出来事があったり、寝不足だったとしても、そのことがイライラにつながっているとは思っていないのです。イライラの原因や相手やタイミングなど関係なく、その場の感情で目の前のあたりやすいものにあたってしまうのですね。
おとなは、まずはこどもがイライラしていることに気づかせてあげることが大切です。番組では、みーがイライラしていると「イラりん」というキャラクターが登場します。日常でもこどもがイライラしていたら、「いまイラりんが来てるね!」など気持ちをイメージしやすくしてあげることで、こども自身が自分の状態を理解しやすくなるかもしれません。自分の状態がわかれば、イライラを切り離したり、イライラを小さくするなど、気持ちのコントロールがしやすくなるのではないでしょうか。
■イライラの原因を探してみる
パパ:お、何か思い出したか? みー:そうそう!今日はたろさんの家族と遊びたかったんだ。 みー、お家からシャボン玉を持っていってたんだよ。でも、どんに誘われちゃったから断れなくて、 一緒に遊んだんだ パパ:そうかそうか。友だちに誘われたら断りにくいもんな。ほら見て! イラりん:イラッ みー:イラりんだ パパ:したかったことができなくてイライラしてたんだ みー:気づいたらもうたろさん達はいなくなってた イラりん:イラッイラッ みー:そうか!みーがちゃんと断れてたら、ちゃんと遊べたはずなのにさ、 断れなかった自分にイライラしてたのか!
物語では、みーはパパと一緒に過去にさかのぼってイライラの原因を探しに行きます。みーは上空から俯瞰(ふかん)して自分を見ることで、昼間に何があってどんな気持ちだったか振り返っていたのですね。もちろん、実際は自分を俯瞰してみるのは簡単ではないですが、自分に何があったのか、その時の気持ちは「怒りたかったのか」「悲しかったのか」「悔しかったのか」「寂しかったのか」…を振り返ってみましょう。その振り返る過程そのものも気持ちを落ち着かせる近道になるのではないでしょうか。おとなは、パパのように「したかったことができなくてイライラしたのかな?」「負けちゃったから悔しかったのかな?」など、こどもが気持ちを具体的に把握できるよう言葉がけをしてあげられるといいですね。イライラの原因自体はすぐに解決できないかもしれませんが、自分の気持ちの状態がわかれば、より良い対処法を落ち着いて考えられるはずです。
■人に話すことも大事
パパ:キレイだなぁ みー:あ、イラりんが消えた。自分の気持ちがわかると、なんか落ち着くね。 パパ:もし自分がイライラしてるなぁって思ったら、なんでイライラしてるのか、 理由を思い出してみるといいよ みー:うん、だね
イライラの原因や自分の本当の気持ちに気づけたことに加え、今回の物語では、みーがパパとそのことについて話せたこともイライラを落ち着かせるためにはとても大事だったと思います。おとなでもイライラに気づき、向き合うことは難しいものですよね。自分ひとりで内省してみるだけではなく、ことばにしてみて、信頼できるパパが聞いてくれる中で自分でも改めて気持ちを理解することができたのだと思います。
おとなは、ついこどもに怒ったりイライラしないように伝えたくなってしまうと思いますが、イライラすること自体に怒ったりせず、こどものうちに自分なりの気持ちの落ち着かせ方を見つける手助けをしてあげていってほしいと思います。