監修: 大妻女子大学 田中俊之(ジェンダー論・男性学) 東京大学 汐見稔幸(教育学・教育人間学・育児学)
【ねらい】
他者がもつ色のイメージにとらわれる必要はない。自分が納得し、自分が心地よいと感じる色を選んでよい。
大妻女子大学 田中俊之さんからのメッセージ
今回は色について考えるエピソードです。みーの物語に登場するおじさんは、いつもピンク色の上着を着ていますが、ハンカチに傘にキャンプ道具…持ち物もピンク色です。みーはそんなおじさんのことを「ヘンじゃないかな?」と、感じてしまいました。
ジェンダーレスという言葉が広がる中、こどもたちの世界でも「男の子だから」「女の子だから」という意識は少しずつ変わり、いまは人によって、場所によって、環境によって価値観が混在している状態かもしれません。
■好きな気持ちを認めてあげて
みー:うわー、すごい!ピンクだらけでかわいいなぁ。 こんなにかわいいキャンプをしているのはきっと… おじさん:はい、おじさんでーす。 みー:えー!おじさん!? モーヤン:モヤモヤ、モヤモヤ、モヤモヤ、モヤモヤ… みー:うーん、このモヤモヤはなんだ?ねぇ、モーヤン。 モーヤン:なんだモヤ? みー:さっきからモヤモヤするんだけど、このモヤモヤはなんだろう? モーヤン:きっと、おじさんがピンクが好きだからモヤ。 みー:そうか。おじさんなのに、ピンクのものばっかり持ってるから モヤモヤするのか!でも待てよ。なんでおじさんがピンクだとモヤモヤするんだ?
みーが感じたモヤモヤ。人によっては「みーは古い固定観念を持っている子ね」と思う人もいるかもしれません。
しかし、子どもはかなり幼い頃から周囲の影響で「男の子の色」「女の子の色」という感覚を身に着けていると言われます。
おとなが子どもの物を選ぶ時も、「青色は男の子の色かな…やっぱり女の子はピンクかな?」と性別を意識して選んだ経験が少なからずあるのではないでしょうか。色を選ぶ際に大事にしたいのは、こどもがその色を「好き」という気持ちです。男の子が「ピンクが好き」というのもいいですし、女の子が「ピンクが好き」と言うことに対してもまわりがとやかくいうことではありません。
問題なのは、その子の気持ちと関係なく「女の子だからピンク」「男の子だから青色」などと決めつけて、押しつけてしまうことなのです。
■他者のイメージでなく自分で決めるのがいい
みー:あの、すいません。モヤモヤしてるように見えますが、何かありました? ひー:ひーは紫よりオレンジがよかったです。 紫の服を着ているからって紫が好きだって思わないでほしいです。 みー:そうだったんですね。しーはどうですか? しー:しーも、緑より黒がよかったです。 みー:へー!しーって黒が好きなんですね? しー:大好き。黒ければ黒いほど好きです。 みー:そうか!そうだよね!自分が好きなものや似合うものを、人に勝手に決めつけられるのって嫌なことなのか!
物語でみーは、色のイメージを勝手に決めつけられた友だちの話を聞いて、それが嫌なことだと知ります。ランドセルや洋服、それから文房具など、色を選ぶ場面は生活の中でよくありますよね。こだわりの強さは個人差がありますが、好きではない色を身に着けるよりは、自分が好きな色や自分で納得して選んだ色を身に着ける方が、自分らしさが表現でき心が満たされるものです。好きな色や心地いい色は、おとなもこどもも関係なく一人ひとり違います。周りが決めるのではなく自分で決めるのがいいですね。もしこどもが選んだ色が思わぬ色だったとしても、そこは「その色が好きなんだね」とその子の好みとして認めてあげてほしいと思います。身近な人に自分の好きなものが認められると、こどもはとても嬉しいはずです。
■一人ひとりの価値観を大切に
みー:おじさーん! おじさん:おっ。みー、どうしたんだい? みー:さっきはピンクが似合わないって言ってごめんなさい。 おじさん、ピンクが本当に好きなんだね。 おじさん:大好きなんだよ。こうしてピンクに囲まれてると幸せな気持ちになるんだ。 みーは何色が好きなんだい? みー:みーはね、オレンジも好きだし、緑も好きだし、黒も白も青もみんな好き。 おじさん:ははは!それでいいんだよ!おじさんだって、明日、茶色が好きになってるかもしれないし、 もしかしたら虹色が好きってなってるかもしれないしな!!
そもそも「男の子らしい色」「女の子らしい色」は社会的につくられたイメージです。時代や社会によって異なります。こだわってもいいし、こだわらなくてもいい。一人ひとり違っていいのです。未来を生きる子どもたちには性別の枠にとらわれない価値観を身につけてもらいたいですし、色に限らず、おとなは子どもの“多様な好き”を認めてあげてほしいと思います。