ウクライナ情勢をめぐって、アメリカと対立を深める中国。
秦剛(しんごう)外相は、10日、ドイツに続き、フランスを訪問しました。
来週行われるG7広島サミットを前に、アメリカ一辺倒にならないようヨーロッパ各国にくぎを刺す狙いがあるとみられます。
(「国際報道2023」で5月11日に放送した内容です)
中国政府は、アメリカとヨーロッパの間にくさびを打ち込みたい思惑と見られています。
習近平政権は、10年前に発表した「一帯一路」政策で、中国とヨーロッパをつなぐ巨大な経済圏構想を掲げ、当初は、ヨーロッパ各国と良好な関係を目指してきました。
しかし、習近平政権による香港などでの強権的な対応やアメリカ政府が中国の脅威を強調したこともあってヨーロッパと中国の関係はこの数年、悪化傾向です。
こうした中で、中国政府は、覇権争いの様相を呈するアメリカをけん制する意味でも、ヨーロッパ、特に西ヨーロッパとの関係改善に動き出したようです。
そして、その関係の行方を占う試金石となっているのが、ウクライナ問題です。
ヨーロッパでは、習近平国家主席が影響力を行使してプーチン大統領に戦争をやめさせるべきだという声が強く、中国がウクライナ問題にどう取り組むかがヨーロッパとの関係の行方を左右しそうです。
中国としては、アメリカとの覇権争いを視野に、アメリカとヨーロッパの関係にくさびを打ち込みたい思惑と見られています
一方、ヨーロッパ、特にフランスやドイツなどは、ロシアに戦争をやめさせるため、ロシアと中国の関係にくさびを打ち込みたい。そんな関係なのです。
酒井キャスター:そして、そのヨーロッパでEUが、最近対中国政策として打ち出したのがこちら。「デリスキング(de-risking)」ですよね。
油井キャスター:デリスキングは、こちらの中国との経済関係を切り離す「デカップリング(decoupling)」、強硬な手法ではなく、経済関係を維持しながら中国への依存度を減らすことで 安全保障面でのリスクを低減させるというものなのです。
EUとしては、中国への依存度をどこまで減らすかは中国の行動次第として、ロシアとの関係を見直すよう迫る思惑もあると見られますが、当の中国政府はこのように警戒しています。
「中国との『デカップリング』には取り組まないという欧州の姿勢を評価する。しかし、欧州の『デリスキング』の主張には懸念がある」。
「『デリスキング』の名の下に脱中国が行われれば、機会、協力、安定、発展が失われることになる」
ロシアによる軍事侵攻を受けて「欧米」対「中ロ」、「民主主義」対「専制主義」という陣営の構図が鮮明になる中、双方は、硬軟織り交ぜた手法で相手の陣営を切り崩す試みも活発化しているようです。
油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分49秒あります)