「ロシア国民へのビザ発給停止」案をめぐり、欧米の間では立場の違いが表面化しています。
今月上旬ゼレンスキー大統領は「ロシアに対する最も重要な制裁は国境を閉鎖することだ。ロシアは考え方を変えるまで自分たちの世界で生きるべきだ」と述べ、ロシア国民が他国に入国できないよう欧米などはビザ発給を停止すべきだと訴えたのです。
欧米のこれまでの制裁の対象は主にプーチン政権の関係者やオリガルヒでしたが、この案は一般国民を対象にするだけに、議論を呼んでいるのです。
解説:テロ支援国家求める声も 米"プーチン大統領の恋人"制裁
慎重派「人権活動家や反プーチン政権の人たちに配慮の必要性」
アメリカやドイツは慎重派です。
ドイツのショルツ首相は「この戦争はロシア国民ではなくプーチンの戦争だ。それを明確にしなければいけない。さらにロシアからはプーチン政権に反対する大勢のロシアの人たちがヨーロッパ各国に逃れている点も考慮すべきだ」と話しています。
ロシアの人権活動家や反プーチン政権の人たちが国外に出られなくなる事態に懸念を示しているのです。
積極派「ロシア国内の支持率の高さに懸念」
積極的なのはロシアと国境を接するフィンランドやバルト3国です。
フィンランドのマリン首相は「ロシアの一般国民が戦争を始めたわけではないが戦争を支持している。ロシアがウクライナ人を殺害している一方でロシア人がヨーロッパを旅行できるのは正しくない」というのです。
中でも強硬なのはエストニアで、すでに先週からロシア国民の入国を大幅に制限する措置に乗り出していて、EU=ヨーロッパ連合に共同歩調を取るよう求めているのです。
このような強硬な案が今、出ている背景には経済制裁にもかかわらずロシア国内ではプーチン大統領や軍事侵攻に対する支持率が高いという現実があります。
さらにロシア政府が、近く見せかけの住民投票を行ってウクライナ全土の20%とも言われる領土を一方的にロシアに併合する動きがあることに危機感を強めているのです。
EUは来週開かれる外相会議などで、このロシア国民へのビザ発給停止の案も検討する見通しで、どのような議論が交わされるのか注目です。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分50秒あります)