油井秀樹(「国際報道2023」キャスター):ことし最初の今回は、アメリカの調査会社「ユーラシア・グループ」が発表した“ことしの10大リスク”を読み解きます。
(「国際報道 2023」で1月4日に放送した内容です)
・“ならず者国家ロシア”は“テロ支援国家”
油井:1番目に上がり最大のリスクとなったのは、ロシアが世界で最も危険な“ならず者国家”になるというもの。2番目は、権力が最大化された中国の習近平国家主席となっています。
角谷さんと酒井さんはどのリスクが最も気になりますか?
角谷直也(「国際報道2023」キャスター):時代を反映していると感じるのが3番目の「テクノロジーの進歩による社会の混乱」です。AIが混乱をもたらすというのは皮肉だと思います。それから去年、懸念が強まった4番目の「インフレの衝撃波」も気になります。
酒井美帆(「国際報道2023」キャスター):私が気になるのは、ロシアが核兵器を使うのではないかというところ。そして「習主席の権力最大化」では、中国も台湾に侵攻するのではないか。この2点が気になります。
油井:最大のリスクとなったロシアの“ならず者国家”という表現は通常、アメリカにおいて国際秩序を守らずテロ組織を支援する“テロ支援国家”に使用される表現です。
ちなみに、アメリカが現在“テロ支援国家”に指定しているのは、北朝鮮・イラン・キューバ・シリアの4か国。「ユーラシア・グループ」は、ロシアがイランのように西側諸国に対して「非対称戦」を仕掛けてくる可能性を警告しています。
サイバー攻撃やスパイ戦、情報戦など、通常の戦闘とは異なる手法で欧米を揺さぶり、結束にくさびを打ち込むと予測しています。中でも何より危険なのは、酒井さんが懸念している核兵器です。
「ユーラシア・グループ」は、ロシアによる核兵器の使用の可能性は低いとしながらも、核による脅しは増すと予測しており、戦術核兵器をウクライナの近くに配備する可能性も指摘しています。このため、2023年は「1962年のキューバ危機の時よりも事故や誤算による核のリスクが高い」と分析していて、核の使用をいかに食い止めるかは、ことしの国際社会最大の課題といえそうです。
・イランが不安定になれば、中東全体の安定も揺るがしかねない
酒井:核をめぐっては核開発を進めているイランも5位に入っていますね。
油井:はい。イランの核開発をめぐっては、おととし2021年のバイデン政権発足後は、核合意の復帰に向けた交渉が進められ、外交解決の機運が高まりました。しかし、バイデン大統領自身が“死に体”と表現して物議を醸したように、ロシアによる軍事侵攻の影響もあって進展は全く見られません。
さらに、イラン国内では、スカーフのかぶり方で逮捕された女性が死亡したのを受け、今も政権に抗議するデモが続いており、「ユーラシア・グループ」では、政権が崩壊する可能性は低いとしながらも「イスラム革命後のこの40年の中で最も不安定になる可能性がある」と予測しています。イランが不安定になれば、中東全体の安定も揺るがしかねない危険な状況です。
・ロシアの軍事侵攻による負の連鎖を断ち切れるか
油井:ロシアによる軍事侵攻は、イランとロシアの連携、イランと欧米の更なる対立を招き、各地に衝突が飛び火する危険性が増していると言えそうです。
実は今回「ユーラシア・グループ」が挙げた10大リスクのうち、ロシアによる軍事侵攻が関係しているものはイランだけでなく、
4番目の「インフレの衝撃波」
6番目の「エネルギー危機」
7番目の「阻害される世界の発展」と、少なくありません。
裏を返せば、ロシアによる軍事侵攻を止めて何とか停戦に向けた光明を見いだせば、さらなるリスクを食い止める可能性が高まるとも言えます。ことしは、軍事侵攻による負の連鎖を断ち切れるかどうかが正念場の1年になるといえそうです。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は4分26秒あります)