ウクライナ情勢は、ウクライナ軍が近く仕掛ける構えの反転攻勢("Counter Offensive")に世界の関心が集まっていますが、その反転攻勢に向けてウクライナ軍が今月始めたと見られているのが、“Shaping Operations”です。日本語では「形成作戦」とも訳されていて、あまり聞いたことがない言葉ですが、このウクライナ情勢でよく使われているのです。
この「形成作戦」について現地ウクライナの専門家達は、次のように説明しています。
(「国際報道2023」で5月31日に放送した内容です)
・形成作戦とは“戦場の準備”
軍事専門家ミハイロ・サモシ氏:ウクライナ軍の形成作戦は、戦場の準備を形成するものだ。軍事インフラを破壊することでロシア側が防衛作戦をできないように戦場を準備する狙いだ。
アリーナ・フロロワ元国防次官:明らかに、いくつかの形成作戦が国境沿いのロシア領内にある補給拠点で見られる。ロシア軍の貯蔵庫と補給路を破壊して打撃を与えようとしている。
この2人の専門家によると、「形成作戦」はロシア軍の後方支援拠点をできるだけ破壊することで、最前線に展開しているロシア軍を孤立化させる。そうすることでウクライナ軍にとって有利な状況を形成する狙いということです。
そして、この「形成作戦」。ロシア軍の後方支援拠点の攻撃にとどまらないという報道も出ています
英・フィナンシャル・タイムズによると
①クレムリンを狙った無人機の攻撃
②ロシア人の義勇兵を名乗る集団がロシア西部で起こした襲撃
③黒海でロシア海軍の情報収集艦を狙った無人艇の攻撃
④そして5月30日モスクワを襲った8機の無人機
いずれも2023年5月起きたものですが、ウクライナ側による「形成作戦」の可能性があると伝えています。
フィナンシャル・タイムズは、この形成作戦はロシア側を心理的に動揺・撹乱させて口シア軍の注意を散らす狙いと指摘しているのです。
ウクライナ政府は、この4つのうち3つは関与を認めておらず、実際に「形成作戦」なのかどうかは不明です。ただ、クレムリンを襲った無人機については、ウクライナ政府が関与していたという報道も出ています。
・アメリカ政府は難色を示すが…
5月31日にもクリミア半島に近いロシア南部のクラスノダール地方にある燃料貯蔵施設で火災が発生し、地元の州知事は無人機による攻撃を受けたという見方を示しました。
アメリカ政府などはウクライナに対してロシア国内の攻撃は控えるよう求めているとされていますが、ウクライナによる「形成作戦」、活発化しているのかもしれません。
油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は3分2秒あります)