子どものSNS性被害 ドキュメンタリー映画が伝えるデジタル性暴力の実態

NHK
2021年5月19日 午後8:32 公開

「ズボン脱ぐよ」 「ほら、見せてあげる」

これは"12歳の少女がSNSを利用すると何が起こるのか"を描いたチェコのドキュメンタリー映画のワンシーンです。成人した女性俳優3人が"12歳"になりきって、SNS上にアカウントを登録。すると、わずか10日間で2458人もの男たちが"少女たち"に接触してきたのです。

映画はチェコでの公開後大きな話題となり、警察は捜査を開始し、検察庁長官が映画について会見で言及するなど社会を大きく動かしました。

その後、映画に登場した男は性犯罪の有罪判決を受け、他の複数の男についても捜査が続いています。

これまで被害を受けた少女たちは口を閉ざすことが多く、広く知られることがなかった子どもたちへのデジタル性暴力。その生々しい実態を製作した監督と出演した俳優が語りました。

(ディレクター 町田啓太)

撮影したヴィート・クルサーク監督(41)です。
撮影にあたってクルサーク監督ら制作チームは、架空の「12歳の少女」を設定するため、12歳にみえる成人俳優3人をオーディションで選出。さらに、その俳優たちが実際に子どもの頃使用していたおもちゃや家具などを使い、「12歳の女児の部屋」をスタジオセットに再現するなど、大掛かりな仕掛けを準備しました。それはSNSの性暴力をありのままに映画で描くために必要不可欠な手法だったとクルサーク監督といいます。

クルサーク監督 「ネットで女の子をあさっている男たちは子どもたちを手なずけるため嘘や見せかけを使います。巧みに人をだます彼らだからこそ、われわれもその手法をとりいれようと考えたのです」

"子どもの4割" すでにデジタル性暴力を経験

この映画製作のきっかけとなったのが、チェコでの子どもたちのネット利用の実態でした。

大人の想像以上に、子どもたちはSNSのリスクにさらされていたのです。

クルサーク監督 「あり得ないような大勢の子どもたちがオンライン上での性的虐待にあったことがあるとのことでした。この社会現象を見える化し、社会がこの問題を取り上げて議論するようになる事が狙いだったのです」

"友達"のはずが…露わになる男たちの欲望

出演俳優を守るため、撮影では以下の条件を設けました。

 

3人の俳優が"友達募集"とプロフィールに添え、12歳の女の子としてSNSにアカウントを登録。すると男たちからすぐに反応が。男たちはチャットで連絡先を伝え、ビデオ通話へと誘導します。

クルサーク監督:準備はいいか?カメラ回すぞ

男と会話を始めると、少女たちの心を少しずつ支配していく巧妙な手口がみえてきました。

男:きれいだ。後ろ向いて

この男は容姿を繰り返し褒めます。
しかし会話を始めて数分経つと、次第に服を脱ぐようしつこく迫り始めます。

男:脱いでよ

俳優:話がしたいの

男:脱いでも話せる

また、別の男は、命令口調で少女に指示を出します。金銭を支払うことを条件に、裸の写真を要求してきました。

訳:”写真とメッセージを送って裸を見せたら週2600円払う”

訳:”写真とメッセージを送って裸を見せたら週2600円払う”

クルサーク監督 「男たちはしばしばアメとムチを使い分け素敵だと褒める一方で脅迫するのです。その両極端さは子どもに大変なプレッシャーを与えます」

「認められたいけど抵抗できない」 12歳の心の内

執拗に写真を要求してくる男たち。その求めに応じるとどうなるのか。
合成した裸の写真を男たちに送ってみると…。

男:プラハで待ち合わせをしよう。ピアノ弾かせてあげるし猫を見せるよ

男:パジャマを脱いでよ

しかし、一度少女たちの弱みを握った男たちは行動をますますエスカレートさせていきます。

男のメッセージ:"写真をネットに公開する。ママにも見られるぞ"

俳優:ちょっとうそでしょ!

写真流出に脅迫、暴言。男たちの"様々な暴力"を目の当たりにしたこのときの心境を、出演した俳優の1人が語りました。

出演俳優のテレザ・チェスカーさん(25) 「もうプレッシャーは半端でなく、これ以上耐えられないと思いました。計り知れない恐怖と絶望を味わう出来事が現実に12歳の子どもに起こったとしたら…と考えるだけで恐ろしいです。この年齢の子どもたちは自分を見てほしい、尊重してもらい自分の言うことに耳を傾けてほしいという思いが強いのです。ただ、まだまだ大人に抵抗することが出来ず、NOと言うことができないのです」

"罪悪感すらない" 利己的な加害者たち

なぜ少女たちにためらいもなく危害を加えられるのか。さらに加害者の実像に迫ろうと、監督らは出演俳優たちに自慰行為を見せるなどしていたある男の居所を突き止め、直接対話を試みました。

男:なぜ私だと?

クルサーク監督:君と局部の映像が残っているんだ

男は苛立ち、しらを切り続けたものの、最後には連絡を取った本人であることを認めました。ところが、男は自分に非はなく、要求に応じた子どもたちにこそ非があると反論を始めたのです。

男:育ちが良ければそんな目に遭うこともない。親の育て方が悪いんだ

クルサーク監督:育ちが悪いから罰を与えていると?

男:違う別に俺の子ではないからな。親に隠れて男と何時間も話をしている子どもにこそ問題がある

この男の素性を調べたところ、男は子ども向けイベントを企画する仕事に就き、妻や子どももいることがわかっています。

クルサーク監督 「こうした男たちは異常なわけではありません。ただ利己的なのです。いわゆる普通のポルノで刺激が足りない人から少女を探す。残念ながら加害者の特徴を特定することはできないのです。こんな事態にならないように、何かの行動を起こしてくださればと思っています」

同様の性暴力は日本でも起きています。
日本での実態は。被害を防ぐためにどうすればいいのか。
日本で支援活動を行う団体に聞きました。

[続き→「デジタル性暴力から子どもを守るためには」

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