ウクライナ政府は、ロシアによる軍事侵攻でイランの無人機が使用されているとして、イランへの批判を強めています。
そこでウクライナは、イランと敵対するイスラエルに軍事支援を求めているのですが、ウクライナとイスラエルの関係をめぐっては、軍事侵攻直後からウクライナは兵器の供与を求めてきたのに対して、イスラエル政府は人道支援には乗り出したものの、兵器の供与については拒んできたのです。
その背景には、イスラエル国内にロシア系が多いことや隣国のシリアに強い影響力を持つロシアとの関係を悪化させたくないからだと言われてきました。
このためゼレンスキー大統領は、9月「正直にいってイスラエルに対してショックを受けている。なぜイスラエルが防空システムをウクライナに供与しないのか理解できない」と不満を表明しているのです。
ただ今回、イスラエルが敵対するイラン製の兵器が使用されていると伝えられたことで、今後、イスラエル政府の立場に変化があるのか注目されています。
閣僚の一人がツイッターに「イスラエルもウクライナに軍事支援する時が来た」と書き込んだのです。
これを受けて、ウクライナ政府は、チャンスとみて、改めて働きかけを強めています。
アメリカのメディア、アクシオスが入手し公表したのはウクライナ政府がイスラエル政府に送った書簡とされたものです。
この中で、ウクライナ政府は「イランは、ウクライナの戦場で得た経験を基にイラン製の兵器を改良することになる。その結果、イスラエルや中東の安全はさらに脅かされる可能性がある」と指摘し協力を求めているのです。
<アイアンドーム>
具体的には、イスラエルが誇る防空システム。特に、迎撃ミサイルで標的を撃ち落とす「アイアンドーム」やレーザー光線で標的を破壊する最新鋭の「アイアンビーム」などの供与を打診しています。
一方ロシアは、イスラエルによる兵器供与の可能性について、メドベージェフ前大統領が「極めて無謀な動きで、ロシアとの関係を破壊することになる」とSNSに書き込み、けん制しているのです。
当のイスラエル政府は、ウクライナへの支援を強化する立場は示したものの、兵器の供与についてはまだ慎重な姿勢を崩していません。
ウクライナ政府はきょうにも閣僚が再度働きかけを行う見通しで、両国の交渉の行方が注目されています。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分40秒あります)