【ウクライナからの声⑭】 ブチャで"ロシア兵は酔っ払って市民を撃った”

NHK
2022年4月13日 午後3:49 公開

「現実は公開された映像よりもずっと恐ろしいものでした」

道に放置された遺体、両手を縛られ殺害された人々…キーウ近郊の街ブチャの映像が世界に衝撃を与えました。殺害された市民は400人に上ると伝えられています。いったい何が起きていたのか。ブチャから逃れた人々が口にしたのは「ロシア兵は酒を飲んで銃を撃っていた」「置き去りにされた遺体を犬が食べていた」といった耳をふさぎたくなるような実態でした。

“置き去りにされた遺体を犬が食べていた”

4月初め、ロシア軍が撤退したあとのブチャで多くの遺体が発見され、ゼレンスキー大統領は”大虐殺“だと国際社会に訴えました。

一方のロシア側は政権幹部や国営メディアを通じて民間人の殺害を否定、ウクライナや欧米によって“ねつ造”されたものだと主張しています。

実態を探ろうと、私たちがまず連絡をとったのは決死の覚悟でブチャから避難したナターリャ・プセービナさんです。

3月上旬に話を聞いたとき、砲弾が飛び交う中で”地獄を見た“という証言をしていました。

【ウクライナからの声③】“私はブチャで地獄を見た”

ナターリャさんにメディアで明らかにされたブチャの映像が事実かどうかたずねると、強い口調で答えました。

「私はまったく驚きませんでした。戦争が始まったばかりの頃、私もすべてを見たからです。埋葬できず、路上に置き去りにされた遺体を犬が食べていました。他の人に伝えようとしてきましたが、すぐに真実だとは受け止めてもらえなかったのです。現実は公開された映像よりももっともっと恐ろしいものでした」

<ロシアのネベンジャ国連大使>

ナターリャさんに話を聞いた前日の4月5日、ロシアのネベンジャ大使が国連で演説をしていました。

主張したのは「市民の命を守るため民間施設は攻撃していない」「ロシア軍がブチャにいた時、市民は自由に携帯電話を使うこともできた」ということでした。

ナターリャさんは、ネベンジャ大使の言い分に憤りを隠せませんでした。

「ロシアの主張はうそです。軍隊が来て通信手段が破壊されているのに、電話を使うことなどできるわけがありません。街にロシア軍がいて銃撃が続く中で、自由に歩き回るなんてできるはずがありません。彼らは恥も外聞もなく、自分たちにとって都合のよいことを話しているだけです。相手の目を見ながらうそをつく、どうしてそんなことができるのか私には分かりません」

“女性はレイプされ殺された”

さらに長く街にとどまっていた人たちの中には、街に侵入したロシア軍を間近で見ていた人もいました。

20代でITエンジニアを務めるヤロスラフさんは、地下室にこもり、とにかく目立たないように毎日を過ごしてきたといいます。

「あと1日、あと10分生き延びることができるかさえ分からず、本当に恐ろしい思いをしました。生き延びるために私はロシア兵に言われたことには素直に従い、何も言わず、何もしないように心がけてきたのです」

従順になるしかなかったのは、ロシア兵たちの行動のせいでした。

街に入った部隊は統率もされず、わがもの顔で振る舞っていたといいます。

「ロシア兵は本当に市民を撃っていました。通りを歩くのも大変でした。兵士はいたるところにいて、ドアを破って略奪をしていました。一般の家やアパートを撃ち、人々を調べては服を脱がしたりしていたのです。人道支援物資を受け取る場所も射撃されるので、食料品を手に入れるのも困難でした」

さらに、ヤロスラフさんは知り合いから聞いた話だとした上で、女性が性的暴行の犠牲になっているという凄惨(せいさん)な情報も伝えてくれました。

「何人かの知り合いが性的暴行の被害にあいました。若い女性がレイプされて殺されたということも知っています。事件が起きた場所に住んでいる人が話してくれた、確かな話です。そのうちの1人は子どもの頃から知っています。これ以上ありえないほどおぞましいことです。こんなことはあってはならない。怒り、屈辱、憎しみ、あらゆる気持ちが混ざり合っています」

“ロシア兵は酔っ払って銃を撃ち始めた”

ロシア兵はヤロスラフさんの自宅にも訪れ、ノートパソコンや携帯電話を押収していきました。

それでもヤロスラフさんは逆らわず、息を潜めていました。

「ロシア兵は酒を飲んで酔っ払い、理由もなく残虐な行動を始めました。私たちの住む通りにもやってきて、私の家の入口で飲み始めました。自動小銃を空に向けて撃ち、車や窓を撃つこともありました。酒はスーパーマーケットから略奪したものです。個人の住宅から持っていくこともありました。彼らは権力を握ってやりたい放題でした」

ある日ヤロスラフさんは、酔っ払ったロシア兵から話を聞きました。

後ろ手に縛られた遺体が、いったいどのような状況で殺されたのかという告白でした。

「ロシア兵が市民を縛ったのです。みんな普通の市民だったのに『諜報員だ、スパイだ』として敵だとみなしたのです。ロシア兵は自分からそう言っていました。『スパイだから、悪いやつだから撃ち殺したのだ』と酔っ払って私に言ったのです。ロシア兵にとっては気に入らないというだけで射殺できたということです」