“2027年までに中国が台湾に侵攻のおそれ”米軍司令官の警告

NHK
2021年11月16日 午後8:36 公開

「2027年」。
これは、中国人民解放軍の創設100年にあたる年です。

また習近平国家主席がもし来年秋の共産党大会で続投を決めれば、3期目の任期を終える節目の年となります。

この年に向けて中国が台湾に侵攻する恐れがあると警告を発し注目されたのが、インド太平洋軍のトップだったフィリップ・デービッドソン氏(海軍退役大将・現在は米国笹川平和財団諮問委員)です。

警告の背景を聞きました。

(国際報道キャスター 油井秀樹)

台湾危機までのカウントダウン「デービッドソン・ウインドー」とは

デービッドソン氏が警告を発したのは、ことし3月、米議会の公聴会でした。

2027年までの期間は、今や関係者の間で「デービッドソン・ウインドー」と呼ばれ、中国政府が台湾への侵攻を決めるまでの残り期間の意味で使われ始めています。

そのことを本人に聞くと、苦笑しながら次のように語り始めました。

デービッドソン前司令官:中国軍は我々の情報機関の予測を上回る速いスピードで兵器システムを開発してきました。さらに2027年は習近平国家主席が3期目の任期を終え4期目を迎える時、その政治的なダイナミズムを考慮すれば、2027年までの期間は非常に注目すべきなのです。中国の脅威が明白になるのは6年以内だと思います。いつ習主席や中国軍が決断するのか正確な時期を予測するのは困難ですが、6年後というよりも6年以内だと考えています。

デービッドソン氏の警告はアメリカ国防総省が11月発表した中国軍の動向に関する年次報告書にも反映されています。

去年の報告書にはなかった「2027年」という記述が並んだのです。

米国防総省 中国軍の動向に関する年次報告書

<米国防総省 中国軍の動向に関する年次報告書>

(以下、報告書から抜粋)
「中国共産党は2027年を中国軍の近代化の新たな指標と宣言した」

「中国軍の2027年の目標は、台湾有事に向けた信頼できる軍事オプションを中国政府首脳に提供することだ」

「中国メディアは、中国軍の2027年の目標をアメリカ軍に対抗できる能力の増強と台湾の政治指導者を中国政府に有利な形で交渉の席につかせることだと報じている」

最大の脅威は中国「ロケット軍」の強化

中国は過去30年以上莫大な予算を投入して軍備の増強を進めてきました。

その国防費は1989年から毎年2桁の伸びを長年記録してきたのです。

デービッドソン氏が特に懸念を強めているのが、中国の「ロケット軍」の強化です。

「ロケット軍」は核兵器や弾道ミサイルを担う中国軍の中核部隊。

台湾有事の際には、アメリカ軍などが台湾海峡に近づけないようにするため、アメリカ軍の基地や艦艇を標的にする弾道ミサイルなど様々な種類のミサイルを多数配備しています。

デービッドソン前司令官:最も警戒すべきは「ロケット軍」の強化です。「ロケット軍」は極超音速兵器や他の長距離攻撃兵器の実験を繰り返しています。中国は陸、海、空、サイバー、宇宙などあらゆる場所からの攻撃力の強化を図っています。東アジアを不安定にさせ、国際社会の懸念となっているのです。特に中国が開発中の極超音速兵器は警戒すべきで、我々の現行のミサイル防衛システムでは対処できないと思います。

防衛だけでは抑止できない 日本に求めるのは攻撃力

中国の攻撃力に対抗するためには、防衛力の強化だけでは不十分というのが、デービッドソン氏の主張です。

デービッドソン氏が率いたインド太平洋軍が現在、進めているのが、日本から台湾、フィリピンを結ぶいわゆる第一列島線に沿って、ミサイルなど中国を攻撃できる新たな兵器の配備計画だと言います。

デービッドソン前司令官:防衛だけでは中国を抑止できません。相手を攻撃する力をある程度持たないと相手の敵対的な行動に対抗できないのです。中国の軍備増強に対してアメリカと日本は、陸、海、空、そしてサイバー空間で攻撃力の配備が必要です。日本への具体的な配備は政策決定なので日本政府と日本国民の判断次第です。ただ、私は第一列島線、さらには第二列島線にも攻撃力を配備すべきだと考えています。

同盟国と台湾の防衛力強化へ

軍備増強を急速に進める中国軍の戦力がアメリカ軍を上回るのはいつなのか。

その問いに対して、デービッドソン氏は「予測は難しい」とした上でアメリカ政府が今後どれだけ予算を軍に投入するのか、また日本などの同盟国からどれだけ協力を得られるかによって違ってくると説明します。

デービッドソン前司令官:私が懸念しているのは、アメリカ軍と同盟国の能力の低下です。我々は、中国軍の軍備増強のペースに追い抜かれるわけにはいかない。アメリカと日本などが適切な投資を軍に行えば、追い抜かれることは避けられるでしょう。

また、台湾の防衛力の強化も欠かせないと強調します。

デービッドソン前司令官:台湾軍を訓練するのは我々の長い間の責務です。訓練は軍事車両の整備や技術的な支援から実際の戦場を想定した戦術的な訓練まで様々です。あらゆる訓練を支援できるようインド太平洋軍から様々な兵士を派遣してきました。

CIAも台湾有事に備え「中国ミッションセンター」を創設

2027年に向けて懸念されているのは中国の政治指導者の過信とも言われています。

「中国はアメリカを上回る軍事力を保持した」と過信し、台湾に侵攻する恐れがあるというのです。

だからこそデービッドソン氏を始めアメリカ軍の幹部たちは、抑止力の強化を急いでいるとも言えます。

さらに、2027年に向けた動きは、軍だけでなく情報機関にも及んでいます。

CIA=中央情報局は10月、「中国ミッションセンター」の創設を発表しました。

一部の報道によると、「中国ミッションセンター」の最大の任務は、台湾有事の兆候をつかむことだということです。

習近平国家主席などの政治指導部が台湾への侵攻をどう考えているのか情報を収集し分析すると伝えられています。

デービッドソン前司令官:CIAの中国ミッションセンターの創設は、中国が世界に及ぼす懸念に対してアメリカ政府が全省庁あげて集中的に取り組むことを示し、重要な進展だと思う。CIAの具体的な任務についてはコメントできないが、必ずやアメリカと同盟国の安全に役立つ。

武力衝突を避けるには

一方で、デービッドソン氏は衝突を避けるためにも米中両軍の間で対話の扉を閉ざさず、軍事交流を続けて不信感を取り除く努力を続ける重要性も指摘しました。

デービッドソン前司令官:アメリカ軍は定期的に中国軍との交流を続けています。私もインド太平洋軍司令官の時には中国軍の幹部たちと対話を重ねました。また、アメリカ陸軍は定期的に中国側と人道支援や災害救助の訓練を行っています。重要なのはアメリカと中国の間でコミュニケーションができることです。協力できる分野は米中の間で協力すべきと考えています。

「米中新冷戦」とも言われる中、米中両国は今、軍拡競争の道を歩み始めています。

この軍拡競争にどう歯止めをかけて、軍縮・緊張緩和の道へと転換させるのか、日本を含めて関係国の知恵と努力が求められていると思います。

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