ザポリージャの原子力発電所に対する砲撃が相次いでいます。
ロシア、ウクライナ、どちらの攻撃か不明ですが、砲撃の背景には、この発電所が生み出す電力をロシアとウクライナのどちらが手に入れるのか、電力をめぐる戦いがあると見られています。
ウクライナの発電で重要な役割を担っているのが原子力発電所で、中でもヨーロッパ最大規模とも言われるザポリージャ原子力発電所は、軍事侵攻前は全電力の5分の1を生産してきました。
軍事侵攻は電力の生産にも影響を与えていますが、ウクライナ政府はことし6月、余剰電力があるとして隣国のルーマニアに電力の輸出を始めたと発表し、今後、EUへの輸出を拡大していく方針を明らかにしたのです。
【解説】ロシア依存脱却に期待 ウクライナ電力輸出開始の解説はコチラから
現にウクライナのエネルギー相は先月下旬EUエネルギー相会議で「EUがウクライナから電力を購入すればロシアからのガス購入を減らせる」と指摘し、「ウィン・ウィンになる」と主張したのです。
しかし今、ザポリージャ原子力発電所の電力供給が不安定になり、ウクライナ側の電力輸出計画は揺らいでいます。
ロシアが望むのは欧州エネルギー危機だけではなく、占領地域に電力を送ること
ロシア政府としてはウクライナによる電力輸出を阻むことで、ヨーロッパをエネルギー危機にしておきたい思惑があると見られます。
さらにザポリージャ原子力発電所の電力をウクライナ側の送電網から外し、ロシア側の送電網につなげることで、ロシア軍が占領するウクライナ東部や南部に電力を送り、この地域でのロシア化を進めたいという狙いがあると見られています。
これに対してG7不拡散局長級会合は声明を発表し「ザポリージャ原子力発電所とその発電所が生み出す電力はウクライナのものだ。ロシアがウクライナの送電網から発電所を切り離そうとする試みは容認できない」とロシア側を非難したのです(8月29日)。
ロシア・ウクライナ双方に「ザポリージャ原発を抑えることで戦闘を有利に進めたい」そんな思惑があるのかもしれませんが、とりかえしのつかない深刻な被害が広がりかねない極めて危険な状況に私たちは直面しています。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分53秒あります)