「ロシアの戦争犯罪を裁くため特別法廷を設けるべきだ」
これを提唱したのはEUのフォンデアライエン委員長で「ロシアは主権国家を侵略した罪を含む恐ろしい犯罪の代償を払わなければならない。ロシアの侵略犯罪を捜査し訴追する国連支援の特別裁判所の創設を提案する」と述べたのです。
ロシアの戦争犯罪をめぐっては、国際刑事裁判所=ICCが捜査を進めています。
ただロシアはICCの締約国ではなく、侵略犯罪の罪でプーチン大統領ら政権幹部の責任を問うのは難しいという見方が根強いのです。
このため、ウクライナ政府がICCの捜査に加えて特別法廷の設置も国際社会に求めていて、今回EUのフォンデアライエン委員長が公式にその提案を後押しした形です。
またゼレンスキー大統領の夫人オレーナ氏も、特別法廷の設置をイギリスの議会での演説で強調しました。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、11月、ロシア側との停戦交渉の再開の条件として、領土の回復、国連憲章の尊重、戦争損害の賠償、戦争犯罪者の処罰、ロシアが侵攻しない保証という5つの条件をあげました。
特別法廷の設置は戦争犯罪者の処罰としてウクライナ政府が求めているもので、ウクライナ政府としてはロシア側と最終的に交渉する可能性も視野に各国に特別法廷設置に向けて働きかけを進めています。
今後の焦点はこの特別法廷設置の機運が国際社会の中で高まるかどうかです。
フランスやオランダなどは特別法廷設置を支持する立場と報じられているものの、特別法廷設置はロシアを過度に刺激することになってむしろ和平交渉の道を閉ざすことになりかねないと欧米の中でも慎重な立場の国も存在しています。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は1日、早速「特別法廷の設置は合法性に欠け、私たちは受け入れない」と発言し、欧米側をけん制しています。
ウクライナ政府はG7にも特別法廷の設置に向けた協力を求めていて、来年G7の議長国となる日本の手腕が問われるかもしれません。
油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)
前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。
(この動画は2分49秒あります)