アメリカ コロナ禍における自殺問題 子どもたちの心に一体なにが?

NHK
2021年4月27日 午後6:28 公開

新型コロナウイルスの影響でアメリカでは多くの地域で学校の閉鎖が続いています。そこで懸念されているのが、子どもたちの心の不調による自殺の問題です。アメリカでは2019年、10代の自殺が年間2744人と人口比で見ても日本(同年659人)を超える水準でした。2020年は、専門家の間で「2019年の人数を上回るのではないか」と危機感が高まっています。子どもたちに何が起きているのでしょうか。

*4月12日放送 (国際報道2021 ディレクター 重田竣平)

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息子を亡くした父の悲痛な思い

テキサス州に暮らすブラッド・ハンスタブルさんは2020年、息子のヘイデンくんを自殺で亡くしました。その胸の内を語った動画は1億回以上再生されています。

ブラッド・ハンスタブルさんが公開した動画

(ブラッド・ハンスタブルさんが公開した動画)

ブラッド・ハンスタブルさんの動画より 「おととい息子を埋葬しました。息子は新型コロナで亡くなりましたが、皆さんが思うような亡くなり方ではありません。もう誰もこんな痛みを経験してほしくないんです」

ヘイデン・ハンスタブルくん(当時12)

(ヘイデン・ハンスタブルくん(当時12))

12歳だったヘイデンくんはアメフトが好きで、友達も多い 明るく活発な性格でした。しかし去年3月、学校が閉鎖されると自宅での学習にストレスを抱えるようになります。オンラインゲームをする時間が長くなり、いらだってパソコンのモニターを割ってしまうなど、情緒が不安定な様子を見せるようになりました。

ブラッド・ハンスタブルさん 「ヘイデンは自宅学習に難しさを感じていました。ヘイデンはうつ状態だったとは言いませんが、『こんな生活は早く終わってほしい』と思っているようでした」

そして去年4月17日。13歳の誕生日を目前に、自分の部屋で亡くなっているのを妹が見つけました。学校が閉鎖されて およそ1か月後のことでした。

ブラッド・ハンスタブルさん 「まもなく1年がたちますが、いまだに毎日苦しんでいます。子どもを亡くすと親は罪悪感に駆られます。もしこうだったら、こうすべきだったと。最も後悔しているのは、ヘイデンともっと話をしておけばよかったということです」

急増する心の不調を訴える子どもたち

アメリカでは新型コロナの感染拡大以降、心の不調を訴える子どもが増えています。取材の中で聞こえてきたのは、

「わけもなく、ただ悲しい」
「将来に希望を持てず、すべてが無意味に思える」
「何もかも終わりにしたい」

という10代の切実な声。

アメリカのCDC(疾病対策センター)の調査では、2020年にメンタルヘルスの症状の悪化で救急外来に助けを求めた18歳以下の割合が44%増加しました。

NPOティーン・ライン

(NPOティーン・ライン)

子どもたちを支援する団体にも、連日切迫した内容の相談が寄せられています。カリフォルニア州のロサンゼルスに拠点を置く「ティーン・ライン」というNPOでは、専門家による訓練を受けた10代のボランティア165人が、同じ10代からの相談を受ける窓口を提供しています。

ティーン・ライン代表 ミシェル・カールソンさん 「パンデミックのような状況では 子どもは世界が崩れ落ちたように感じます。だから若者が思いを語る場を作る必要があります」

この日、高校生のボランティアのミアさん(17)のもとにパニック発作の症状を訴える子どもから相談が寄せられました。

ティーン・ラインのボランティアが相談を受ける様子

(ティーン・ラインのボランティアが相談を受ける様子)

相談者とのやりとり 「最近パニック発作が続いてるのね。とても怖いよね。どんな症状なの?誰か気軽に相談できる人はいるかな?」

ティーン・ラインでは新型コロナの拡大以前に比べ、自殺に関する相談が35%増加。すぐに対応しなければ命に関わると判断され、警察の派遣を要請したケースも2倍に増えています。

ティーン・ライン ボランティアのミアさん(17) 「ここ2~3か月のほぼ全てのシフトで、自殺関連の電話を受けています。怖いです。最近みんな自暴自棄になって、より孤独を感じているのだと思います」

なぜここまで事態が緊迫しているのか。ボランティアの1人が、理想の人生とコロナ禍の現実との狭間で戸惑う10代の気持ちを代弁してくれました。

ティーン・ライン ボランティアのビバリーさん(17) 「私たちには完璧な人生を送るべきという大きなプレッシャーがあります。“アメリカンドリーム”の世界です。しかしそれを達成できない人もいます。みんな大きな喪失感を感じています。新型コロナで大切な人を亡くし、機会や経験も逃しました」

対策を急ぐ学校側も

子どもたちが焦りを募らせる中、学校側も対策を進めています。その一つが、子どもたちがオンライン授業で使うパソコンにセキュリティソフトを導入する取り組みです。

ソフトは子どもたちが「縄の結び方」など、自殺をほのめかすような検索をした場合、自動的に検知。学校側は速やかに保護者や子ども本人に連絡をとるなど対策につなげます。このソフトは全米各地の学校に導入されており、保護者に通報したケースはこれまでに5000件以上に上っています。

子どもたちのパソコンの使用状況をチェックする教師

(子どもたちのパソコンの使用状況をチェックする教師)

ソフトウェアの責任者 エレン・ヤンさん 「子どもたちはネット検索には何でも正直に書きます。子どもたちが孤立し、人に上手に助けを求められないときこそ、このソフトが彼らを救うのです」

大人は子どもたちにどう接すればいいのか?

アメリカでは4割以上の学校が授業を完全には再開できていません(2021年4月12日現在 Burbio School Opening Trackerより)。そこで、家の中でのケアがこれまで以上に重要になっていると言えます。コロナ禍での子どものメンタルヘルスに関する学会のガイドラインを取りまとめた、小児科医のキャロル・ワイツマンさんに、子どもたちのストレスを軽減させるためにはどうすればいいか、聞きました。

キャロル・ワイツマン博士 「私たちができるのは 子どもの話に耳を傾け、無理に問題を解決しようとしないことです。子どもが自分の感情を表したときに、それをやり過ごしてはいけません。“大した問題ではない”“あしたには気分が良くなる”“みんなが経験すること” と言ってはいけないのです。子どもはストレスや怒り、悲しみ、恐れといったことを感じるでしょうが、『そうした感情を持つことに問題はないんだよ』と伝えることが大切です。アメリカではワクチン接種が進み、より日常に近い暮らしに戻れる可能性も見えてきました。しかし多くのストレスにさらされた子どもは、後遺症としてトラウマの症状が出るかもしれません。学校が再開しても、苦難は続きます」

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