“難民受け入れ”で揺れるイギリス・移送先のルワンダの実情は?

NHK
2023年12月4日 午後5:51 公開

これまで多くの難民を受け入れてきたイギリスでも、 いま、異変が起きています。難民申請者への反発が広がり、国民の間で激しい議論となっているのです。

こうした中、イギリスの最高裁判所は、「内務省の主張は認められない」と政府の進める難民政策が「違法だ」とする判断を示しました。

(「国際報道2023」で11月24日に放送した内容です)


油井キャスター:イギリスで違法だと判断された政策。

2022年以降に難民としての保護を求めてイギリスに非正規の方法で入国した人たちを、アフリカ東部ルワンダへ移送。イギリスからの資金援助と引き換えに、ルワンダが難民認定の審査などを行うというものです。

酒井キャスター:去年4月に打ちだされたこの政策をめぐっては司法の場で争いが続いてきました。

今回、イギリスの最高裁判所は「ルワンダに移送された場合、難民申請が適切に判断されず出身国に強制送還される恐れがある」として、違法の判断を下しました。

しかし政府は、いまもこの政策を取りやめようとはしていません。なぜ、移送にこだわるのでしょうか。


難民受け入れ巡り、揺れるイギリス

歴史的に多くの難民や移民を受け入れ、いまや外国生まれの住民が15%にものぼるイギリス。

いま、難民としての保護を求め、ドーバー海峡をボートで渡るなど非正規の方法で入国する人々が急増。難民申請者の数は去年、過去最高の8万人以上に達しました。

認定結果を待つ難民申請者の収容などに投じられる予算も、年間7000億円近くにまで膨らみ、負担が大きすぎるとして、反発する声が高まっています。

「われわれは世界中から移民を受け入れてきたが、数には限界があり、今の状況は持続可能ではない」

「イギリスのために国民が立ち上がってほしい。世界全体を引き受けることはできません。まず自国民の面倒を見なくては」

さらに、治安悪化への懸念も広がっています。

ここ10年間で中東やアフリカからを中心に新たな移民が急増した、ロンドン東部のバーキング地区。半世紀近く暮らしてきた住民は、この地区の様子は大きく変わったと訴えます。

「イギリス人は、ほとんどいません」「バーキング(の治安)は悪化しています」「刺殺事件や発砲事件が多発しています」

一方、専門家は、冷静に事実を見つめる必要性を指摘しています。

「数年前に我々が調べたことですが、一般的な犯罪率と地域の移民人口との間に関連性は見られませんでした。移民は社会問題の主要因ではありません。どのような政策を行うかが重要なのです」

最高裁の判断の日に行われた世論調査の結果です。移送政策への支持は5割ほどと、依然として、少なくない人たちが支持。スナク政権も、「われわれは緊急の法的措置を導入するつもりだ。これ以上移送を遅らせられることはないだろう」と、新たな立法措置を講ずるなどとして、引き続きルワンダへの移送を実行すると強調しています。


こうした中、不安を抱き続けているのが、イギリスに逃れてきた難民申請者たちです。クルド系イラク人のクリーブ・ラウーフさんです。

イランとの国境の検査所で働いていたラウーフさん。そこで行われていた密輸の実態を批判したことで、身の危険を感じ、ことし4月、親戚が暮らすイギリスに難民申請しました。

「(夕方)外に出るとき、(内務省から)いつ連絡がくるのだろうと心配になります。このような政策が行われないよう、私たちを他国や母国に強制送還しないよう、お願いします」  

「彼らは非常に絶望的で、ルワンダに送られるかもしれない、もしくは、逃れた祖国に戻されるかもしれないという恐怖を常に抱えています。(この政策は)助けを求めやってきた人々への正義・良識といったイギリスの価値観に反しています」


なぜ強制移民政策を?移送先のルワンダは

移送先として計画されているルワンダ。人口1300万の経済成長が著しい国です。いま、周辺の国々を中心に、数多くの難民を受け入れています。

政情不安が続く隣国のコンゴ民主共和国やブルンジなどから、その数はおよそ13万人にのぼります。

ルワンダはかつて、民族間の対立から起きた虐殺により、200万人もの難民を生み出した歴史を持ちます。ルワンダ政府の報道官は難民を受け入れるのは、そうした悲劇の経験があるからこそだと語りました。

「ルワンダ人なら誰でも、自分や、あるいは家族が難民になって土地を追われた経験があります。だからこそこの問題に深く共感しています」

Q. 資金提供と引き換えに難民を受け入れていると批判する人もいますが?

「批判は自由ですが、私たちには正当な理由があります。イギリスは難民を受け入れたくないと苦境にいます。私たちが面倒を見るには、資金は必要です」

とりわけ手厚く迎えられている人たちもいました。首都キガリにある最大の病院で実習を受けていたのは、戦闘が続くスーダンを逃れてきた医大生たちです。

かつての内戦の影響でルワンダでは医師が不足するなか、医師への道が断たれかけた彼らを受け入れ、現場に配置しています。

「幸せだし恵まれていると感じています。(大学を)卒業する機会をくれて本当にありがたいです」

Q. ルワンダで働きたいですか?

「もちろんです。友人ともその話をしました。ここに滞在したいです」  

「この国には医師が必要です。あらゆる分野で熟練した人材が必要なのです。彼らにとっても有益ですし、最終的にはわれわれにとっても有益なのです」

一方で、難民の扱いをめぐっては、懸念も指摘されています。

5年前には、難民キャンプで起きた食糧配給の削減に抗議するデモに対し、警官が発砲。12人が亡くなりました。

今回、イギリスの最高裁判所も「ルワンダは移送先として安全ではなく、難民申請者が出身国に強制送還される恐れもある」と指摘しました。

実は10年ほど前には、イスラエルが、自国に来た難民申請者をルワンダなどに移送したことがあります。

移送された人たちの支援にあたった人権活動家は、当時、多くが移送直後に国外への退去を求められ、混乱の中で命を落とした人もいると言います。

そのため、難民申請を受けた国が責任を持って受け入れに当たることが重要だと訴えます

「ひとたび安全な地を追われた人たちは、拷問、絶望、苦痛、奴隷の連鎖に巻き込まれてしまいます。法的な駆け引きをしている政治家たちは、難民が強制送還されると命の危険にさらされるのだということを認識すべきだ」


油井キャスター:イギリス政府は、今回の違法との判断を受け、ルワンダ側と新たに協定を結び、難民申請者の安全を確保したうえで、移送政策自体は進めるとしています。

酒井キャスター:ことし、世界で難民や避難民は1億1千万を超えたとされています。そうした人たちをどのように受け入れていくのか。抜本的な議論が求められています。