【解説】ウクライナ全土へ攻撃 プーチン大統領3つのねらいとは(油井'sVIEW)

NHK
2022年10月13日 午前11:43 公開

プーチン大統領が決断したウクライナ各地への攻撃ですが、プーチン大統領にとっては3つのねらいがあるとウクライナのシンクタンク「国防戦略センター」が指摘しています。

①「ロシア国内の強硬派対策」

ロシア軍の劣勢を受けて、ロシア国内では軍の指導部を批判する強硬派の声が高まっていて、こうした強硬派をなだめるために攻撃を仕掛けたという分析です。

本来であれば戦場で反転攻勢をかければいいのですが、ロシア軍にはそれが難しいため、民間のインフラなどソフトターゲットを狙うしか選択肢がなかったという見方も示しています。

②「ウクライナ国民の戦意を喪失させる」

③「欧米のさらなる軍事支援を食い止める」

ただ欧米はさらなる軍事支援を行う姿勢を示しており、ウクライナ国民も結束していると伝えられています。

そういう意味では今回の攻撃は、むしろ逆効果だったのではないかと見られているのです。

ウクライナ政府の痛手は「EUへの電力輸出の停止」

ウクライナのエネルギー相は声明を発表し「ロシアによる今回の電力システムへの攻撃は戦争開始以来最大のものだった」とした上で、EUへの電力輸出について自国のエネルギーシステムを安定させるため、11日から輸出を停止せざるをえないと明らかにしたのです。

ウクライナは、ロシアによる軍事侵攻後も原子力発電所などが稼働し、電力が余っているとして6月からEUの一部に電力の輸出を始めました。

ウクライナがEUに電力を輸出することで、EU側はガスを節約し厳しい冬に備えるという戦略でしたが、今回の輸出停止でこの戦略が大きく揺らいでいるわけです。

ウクライナのエネルギー相は声明の中で、「ヨーロッパがエネルギーのロシア依存を減らす助けとなったのが、ウクライナからの電力輸出だった。だからこそロシアはウクライナの電力システムを攻撃して、輸出を阻もうとしている」と批判しています。

プーチン大統領はヨーロッパ最大規模と言われるウクライナのザポリージャ原発も国有化して電力をロシアのものとする構えです。

今後、懸念されるのは、ウクライナ側の電力・エネルギー設備を狙ったロシアのさらなる攻撃で、冬を前に電力をめぐる争いが本格化しています。


油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。


(この動画は2分54秒あります)

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