【解説】汚い爆弾めぐるロシアの情報 欧米と交渉実現のためか(油井'sVIEW)

NHK
2022年11月1日 午前11:20 公開

“汚い爆弾”をめぐるロシアによる積極的な情報発信について、欧米はDisinformation=偽情報の発信と批判を強めています。

ロシア外務省のツイートでは、原子力関連施設のような建物の写真を掲載して、ウクライナの2つの組織が“汚い爆弾”を製造していると主張しているのです。

そして容器の中に放射性物質が含まれているとか、“汚い爆弾”の証拠だとか主張しているようです。

しかしスロベニア政府はツイッターで「ロシア外務省が掲載した写真はスロベニアの放射性廃棄物を管理する当局が2010年に使用した画像だ」とした上で「放射性物質は安全に管理されているほか、容器は“汚い爆弾”ではなく「煙探知機」だとしています。

これを受けて、アメリカ、ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議のワトソン報道官は、スロベニア政府のツイートをリツイートし「ロシアによる偽情報。馬鹿げているが驚かない。恐ろしい意図で作成された」と書き込み、ロシアの偽情報を批判したのです。

“汚い爆弾”をめぐってはロシアによる偽旗作戦、つまりロシアがみずから使用するのではないかという懸念が出ています。

ウクライナ政府に助言をしている専門家は26日の記者会見で「ロシアは“汚い爆弾”のほかに交渉の準備ができているとも話している。“汚い爆弾”は欧米を交渉の席につかせるための試みなのです」と話しました。

ウクライナのゼレンスキー政権は、先に、プーチン大統領との交渉は行わない方針を発表しています。

こうしたことからプーチン政権はゼレンスキー政権の後ろ盾となっている欧米に対して“汚い爆弾”や核をちらつかせることで早く交渉の席についた方が得策だと思わせるねらいがあるのではないかという見方が出ています。

ヨーロッパでは、現にロシアとの交渉で早く戦争を終わらせるべきだと主張したとされるルーマニアの国防相が、ゼレンスキー政権を支えるルーマニア政府の立場とは異なるとして辞任するなど交渉をめぐって立場の違いも表面化しています。

戦場で苦境に立つプーチン政権がウクライナの占領地域を死守するために脅しと交渉という硬軟織り交ぜた手法で欧米の足並みの乱れを誘い、揺さぶりを続ける可能性もありそうです。


油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。


(この動画は3分15秒あります)

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