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“カジュアルフライデー”は華やかな服装で ガーナの国家戦略がアフリカを変える!?

NHK
2021年9月22日 午後2:35 公開

ふだんはダーク・スーツを身にまとった人たちが働く ”お堅い職場” 金融機関のオフィス。ところが金曜日になると、雰囲気は一変します。従業員全員が、カラフルな民族ファッションで客や取引先に対応――。西アフリカで急成長する国、ガーナ共和国 の日常です。

ガーナ政府が2004年から国を挙げて実施してきた「金曜日は、華やかな伝統的装いで出勤しよう」という取り組み= "カジュアルフライデー"。定着するにつれて経済が徐々に成長し、自国文化への誇りが強まりました。さらには民族間の融和や、先進国の企業が相次いで進出するきっかけにもなったと言われています。一体どういうことなのでしょうか。「“カジュアルフライデー”で国を変える」 という、ユニークな国家戦略に迫りました。

(政経・国際番組部ディレクター藤田修平)

国家戦略“カジュアルフライデー”のきっかけ

人口およそ3000万人のガーナ。首都アクラのビジネス街は金曜日になると、色とりどりの華やかな服装に身を包んだビジネスパーソンが行き交い、まるでリゾート地のようです。それぞれがファッションに工夫をこらし、週に一度のカジュアルフライデーを楽しんでいました。

男性:今日は故郷に敬意を払うため、伝統的なデザインの服装を着てきました
女性:自分たちの文化をファッションで表現できるので、金曜日になるのが待ち遠しいです

(地元の保険会社のオフィス)

ガーナを大きく変えた“カジュアルフライデー”は、2004年に国家戦略として始まりました。背景にあったのは、当時、ガーナが抱えていた様々な問題です。

その一つは、経済的な貧しさです。
ガーナは1957年にイギリスの植民地から独立しました。しかし、金の採掘やカカオ豆の栽培以外に目立った産業がありませんでした。市民が着る服も外国から寄付されたり輸入されたりした古着が多く、暮らしの基盤である「衣食住」の柱の一つ、「衣」に関わる繊維や服飾関係の産業が自国では育っていなかったのです。

(カカオ豆を運ぶガーナ人)

こうした中、政府が目をつけたのが教会の日曜礼拝でした。ガーナは国民のおよそ70%がキリスト教徒で、毎週日曜日に行われる礼拝には多くの人たちが華やかな伝統衣装で出かけます。それぞれが工夫をこらし、時にはお金もかけてファッションを楽しんでいました。「日曜日以外にも着飾る機会を作り需要が増えていけば、国内に繊維産業や服飾産業をおこしていけるのではないか…」。様々な議論の末、”金曜日は伝統的な装いで働こう”と呼びかける“カジュアルフライデー”が始まりました。

(首都アクラの教会)

当時のガーナにはもう一つ、大きな課題がありました。
19世紀にイギリスの植民地になって以来、ガーナは西洋化が進み、仕事など公的な場では西洋式の服装やマナーが当たり前になっていました。このままでは、自国の文化が失われ、国民が誇りを感じられなくなっていくのではないか…。カジュアルフライデーには、伝統的文化に光を当て「国民の意識を変える」 というねらいもあったのです。

貿易産業省広報責任者 プリンス・ボアーキー=ボアテングさん

「ガーナには豊かな文化と伝統があります。この文化を次世代に浸透させ、文化と共に長く生きられることが大切だと思っています。さらに私たちにはガーナの製造業を活性化させたいという思いもありました。輸出できる産業を作り、外貨を獲得したいと考えていました」

カジュアルフライデー 服作りの現場に密着!

カジュアルフライデーは、どのように経済成長につながったのでしょうか。

実は、ガーナではカジュアルフライデーで着る服を多くの人が一から仕立てます。布を作る職人・布を販売する問屋・服に仕立てる職人など多くの人が関わるため、関連する雇用が増加しました。さらに、ガーナの人たちが工夫を凝らしたファッションは、海外からも注目されるようになりました。その結果、繊維・服飾産業の輸出金額は、カジュアルフライデーが始まってからの15年で約2.8倍に増えたのです。

実際にどのようにカジュアルフライデーの服が作られているのか。服を新調するクァビナ・ヤブアさんに同行させてもらいました。

①数百種類もの生地を取りそろえる布問屋に行き、自分の好きな柄を購入
②次に仕立屋へ。買った布を渡して採寸
③数日後、完成したシャツをとりに行く
④完成したシャツに腕を通したヤブアさん
「思った通りの服ができました。金曜日に仕事に行くのが楽しみです」

ヤブアさんのシャツは、すべての工程を含めて合計1000円ほどで完成しました。手ごろな価格で作れることが、カジュアルフライデー普及の追い風になりました。仕立屋の職人の話では、いま仕事の9割がカジュアルフライデー関連だそうです。布問屋の店主も、「昔は一般の人が布から服を作ることなどなかった。カジュアルフライデーのおかげで商売繁盛だ」と話していました。

思わぬ波及効果 ファッションで超える民族・地方間

カジュアルフライデーは思わぬ効果も生んでいます。異なる民族や異なる地域の人同士の「理解の深まり」です。

かつて民族間の衝突がしばしば起きたガーナ。無益な対立を生まないよう、憲法に「特定の民族や宗教、地域による政党を作ることを禁止する」と明記するなど、様々な規制が作られてきました。その結果、互いの出身地や民族の違いに触れることがある種のタブーとなっています。

ところがカジュアルフライデーが始まって以降、服装の話を通じて互いの出身地や民族について気軽に触れる機会が増えました。いわば、行き過ぎたタブーを見つめ直す機会になっているのです。

(取材した保険会社のオフィスにて)

この日、保険会社のオフィスでは、女性従業員が着ているファッションについて話に花が咲いていました。女性がまとっていたのは黒を基調としたシックな衣装。ガーナ北部の王族が着る伝統的な衣装だそうです。

男性:あなたは、南部出身だけど、北部の服を着ているんだよね
女性:とても着心地がよくて仕事がはかどるの。もともとは、北部の王様ファッションね。でも今は誰でも着られるでしょ?

何気ない会話に聞こえますが、オフィスの人たちによると、お互いをより知るきっかけになるし、またガーナの文化や歴史に触れることで一体感を得ることもできると話していました。

思わぬ波及効果まで生んでいるカジュアルフライデーに、政府は確かな手応えを感じています。

貿易産業省広報責任者 ボアーキー=ボアテング氏 「カジュアルフライデーが、ガーナの平和をもたらし、国を守る。そして雇用を守ることができ、国が発展できます。ガーナにとってそれがいい方法です」

“援助頼り” からの脱却 ~Beyond Aid~

カジュアルフライデーによって、繊維や服飾関連の産業が成長したガーナですが、さらにいま新たな産業の育成にも乗り出しています。

その一つが、食品加工業です。トマトや魚、穀物などの食品加工工場を次々と建設。農業や水産業を発展させるため、収穫期にとらわれない年間を通じた安定的な出荷を実現しようとしています。

もう一つは自動車産業です。去年、独フォルクスワーゲンの自動車組み立て工場の誘致に成功。さらにトヨタグループなど日本の自動車メーカーも相次いで工場を建設しました。ガーナの政治や社会が比較的安定していることが、アフリカ進出を目指す大企業にとって魅力となっているのです。ガーナ政府はこうした企業から技術を習得し、将来的には国内に自動車産業をおこす目標を掲げています。

(トヨタグループの自動車組み立て工場)

様々な分野で成長戦略を進めるガーナが掲げているスローガンがあります。
「Beyond Aid」=「援助を越えて」
2017年にアクフォアド大統領が提唱しました。
アフリカの多くの国と同様、ガーナも長い間、国家予算の多くを海外からの援助に依存してきました。依存には様々なデメリットがあります。援助が打ち切られると、進めていた事業がストップする事態に陥ってしまいます。役人は援助を続けてもらうことに膨大なエネルギーを注がねばならず、他のことがおろそかになります。またかつての服飾産業のように、援助頼りになると自国のビジネスが発展する機会を失うことにもつながってきました。

依存から脱却し国家としての自立を目指すスローガン「Beyond Aid」。ガーナの成長が今後どこまで続いていくのか…。同じ課題に苦しんできたアフリカの国々は、その行方を固唾をのんで見つめています。

(ガーナのアクフォアド大統領)

【取材後記】

(アフリカンファッションと筆者)

私が写真で着用している緑のシャツは南部アフリカのマラウイで働いていた時に、現地で仕立てた服です。マラウイでもカジュアルフライデーが導入されていて、大きな恩恵を受けていると仕立職人たちは語っていました。

今回調べたところカジュアルフライデーは、ケニアやコートジボワールなど少なくともアフリカ12か国に広まっており、中には金曜日だけでなく毎日身につけようと呼びかけている国もあります。どの国も経済が立ち遅れる中、自らの手で産業をおこしていきたいという思いがあります。
ファッションを通じたユニークな取り組みが今後も広がっていくのか、注目していきたいと思います。