【ウクライナからの声⑪】 占領された街で”ロシア兵が家にやってきた”

NHK
2022年3月30日 午後6:40 公開

激戦が伝えられる東部のマリウポリや首都キエフなどとは違い、”静かに恐怖に飲み込まれている“という街があります。すでにロシア軍によって占領された南部のヘルソンです。マリアさん(仮名・29)は街から逃げ出すこともできず、住民たちはロシア兵による厳しい締め付けを受けていると訴えました。

“早朝3時にロシア兵が10人やってきた“

黒海に面した都市ヘルソン。

軍事侵攻直後にロシア軍が急襲し、7日目の3月2日にはロシア国防省が「掌握した」と発表しました。

マリアさんが撮影したヘルソンの様子

<マリアさんが撮影したヘルソンの様子>

10歳になる娘と生後4か月の息子と暮らすマリアさん。

街にはあっという間にロシア兵があふれるようになったと恐怖を感じています。

「侵攻が始まった2月24日は下の子が病気で病院にいました。すると知り合いから『空港が攻撃されている』『戦争が始まった』と電話があったのです。とても信じることはできませんでした。今では街のいたるところに軍用車両にのったロシア兵がいて、大通りだけでなく住宅地にも入り込んでいます。一般の人の姿はほとんど見当たりません。皆、不安とパニックに陥っています。夜になると郊外で大きな銃撃の音が響き渡ります。子どもたちは泣き娘は3日間眠ることもできませんでした」

軍事力で制圧された後、ロシア側は住民に支援物資を届けているといいます。

一方でマリアさんが恐れているのが、ロシア軍による“ウクライナ寄り”の住民の締め付けです。

その手は家族にまで及んでいると証言しました。

「私の弟の話ですが、朝3時に10人ほどのロシア兵が家にやってきて建物の中を地下室まで探し回っていったんです。弟の子どもたちは恐怖で震えあがっていました。ロシア兵は電話やパソコンを押収して調べています。地元政府やウクライナ軍に関係のある人を探しているのです」

“ここはウクライナだ“ 止まない抵抗

圧力を強めるロシア側。

ヘルソンの分離独立のための“住民投票”を行うという情報も一時飛び交いました。

現地から届く映像には住民たちが抗議デモを行い、激しく衝突する様子も映されています。

マリアさんはロシア軍による“暴力と恐怖”の支配に抵抗を続ける住民がいるのだと声を強めました。

「食料品はどんどん少なくなり、薬はほとんどありません。ロシア軍は支援物資を届けていますが、それでもすべての人が受け取るわけではないのです。ロシア軍は住民投票をしたいのでしょうが、ヘルソンの人々は『ここはウクライナだ』と抗議の声をあげています。支援物資の受け取りを断るのもそのためです。ロシア軍は何度も投票を行おうと試みてはいますが、うまくいっていません」

“朝が来ないのではないか“とおびえる夜

マリアさんは子どもたちのためにも街を出たいと考えています。

しかし車も資金もないために脱出できないと訴えました。

「1日も早く子どもたちを連れ出したいです。でも移動の手段がないので街を出られません。バスも列車も走っていませんし、車を頼もうとすると業者は隣町まで1000ドルを要求するのです。私が稼げるのはせいぜい200ドル程度なので、そんな大金はありません。お金のない人は街を出ることができないのです」

一瞬にして奪われた当たり前の暮らし。

マリアさんは今の思いを、時折声を詰まらせながら語りました。

「戦争が始まるまで私たちは朝が来ることを知っていました。長女は学校へ行き、下の子は微笑みながら目を覚ましていました。子どもたちの将来のために家を建て、ローンを支払っていこうとしていました。でも、それは一瞬にして崩れ去りました。今は1時間後に自分がどうなるのかすら分かりません。暗くなってくると精神安定剤を服用するようになりました。夜を恐れ、朝が来ないのではないかとおびえるようになりました。こんなことは、これまでの人生で初めてです」