新型コロナ・ウクライナ侵攻…世界7100万人が貧困 解決策は?UNDP総裁に聞く

NHK
2022年7月26日 午後1:38 公開

ウクライナでの戦争がコロナ禍で傷ついていた経済をさらに悪化させ、世界中で社会を不安定化させています。

UNDP=国連開発計画は、「ロシアによるウクライナ侵攻後の3か月間で、新たに約7100万人が1日に3.2ドル未満で暮らす貧困状態に陥った。食料やエネルギーを輸入に頼るアフリカや中東、アジアの国々が特に深刻な影響を受けている」という報告を発表しました。

貧困の撲滅は、国連が掲げてきたSDGs=持続可能な開発目標の第一に掲げられてきたものです。

しかし世界的な生活費の上昇は、この目標の達成を非常に難しくしています。

世界はこの事態にどう対応すべきか。UNDPのシュタイナー総裁にインタビューしました。

小林雄(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター): 報告書では7100万人が貧困状態になったとしています。とても大きな数字ですが、世界でいったい何が起きているのでしょうか?

シュタイナー総裁: 問題をこじらせているのが生活費上昇の危機が、コロナ禍のまっただ中から、ようやく終わりに向かい始めたときに起きたことです。多くの国で政府予算は底をつきていました。政府は多額の借り入れをし、負債の重荷がのしかかっていたのです。スリランカで起きていることがまさに象徴しています。借金によって破綻した政府は国民に必需品を提供できずに信頼を失い、人々は抗議の声を上げているのです。これは明らかに重大な懸念です。そして正直に言って、国際社会の対応はとても遅いです。国際社会、特に富裕国には、これを自分たちの問題と捉え、団結の姿勢を示してもらう必要があります。債務の返済の猶予の導入などを検討すべきです。

シュタイナー総裁は国際社会が対応を怠れば、破綻する国家は増え、経済危機、政治的危機のスパイラルに陥ると警告します。

そして世界中で、貧困層に直接現金を届ける政策を実効に移すことが、危機を脱する最も効果的な方法だと訴えています。

ただし、それには富裕国の支援が欠かせません。

小林: 日本を含め富裕国も財政的に厳しい状況です。どうやって世界中の貧しい人々に配るための十分な資金をえるのでしょうか?

シュタイナー総裁: 確かに富裕国の人々も物価上昇の影響を受けていますが、それでも全く食べるものがないという状況ではないはずです。富裕層はこれを一時的な価格上昇として乗り越えられますが、貧困層にとってはそうではありません。まさに命に関わる問題なのです。我々の世界は現在450兆ドルもの富を持っているのです。この尋常ではない危機に対応するための資金は、富裕国には十分にあるのです。

一方、先進国の多くはいま、多額の予算を援助ではなく、軍事の増強にあてる傾向を強めています。

シュタイナー総裁: 多くの国で安全保障に対する懸念が高まっていることは理解できます。しかし軍備増強に資金を投じることが本当に平和を守る最善の方策でしょうか。おそらくより良い方法は軍事費を増やすと同時に、国際的な開発協力の資金も増やすことです。なぜならそれが未来の危険から私たちを守ることにつながるからです。

もし世界的な脅威から身を守りたいなら、その問題は戦場に赴くことでは解決しないことは歴史が教えています。脅威の原因をあらかじめ予測し、未然に防ぐことに資金を投じることが重要なのです。

小林: 現在、世界は「新しい冷戦」といわれるほど、分断し対立しています。価値観の違いや不信感を乗り越えて協力し合える部分を見つけなければ、世界の誰も安全ではいられない。シュタイナー総裁の言葉に現実的な重みを感じました。

(この動画は5分23秒あります)