“どこの国も受け入れてくれない” 世界のウイグル族に忍び寄る中国の影

NHK
2021年12月24日 午後3:38 公開

いま世界が注目している中国・新疆ウイグル自治区の人権問題。欧米の人権団体は、100万人に上るウイグル族やトルコ系少数民族の人々が収容施設に送られていると批判しています。さらに中国からの圧力は国内だけでなく、世界各地に移り住んだウイグル族の人々にも及んでいるといいます。弾圧を恐れて、遠く日本にまで逃げ込んでくる人たちも相次いでいることがわかってきました。彼らが語ったのは、安住の地を求める切実な思いでした。

(国際放送局ディレクター 中西英晴)

世界各国で強まるウイグル族への圧力

近年、中国国内でのウイグル族だけでなく、世界各地に住むウイグル族が現地の当局に拘束されたり、中国に強制送還されたりする事例が相次いでいます。

2015年には、タイで保護を求めたウイグル族109人がタイ政府により不法入国の名目で中国に強制送還されました。

また2017年にはエジプトでもウイグル族の留学生を中心に200名以上が拘束、強制送還されています。

オクサス・ソサエティが公開したデータベース

<オクサス・ソサエティが公開したデータベース>

2021年6月、アメリカの研究機関「オクサス・ソサエティ」によって、あるデータベースが発表されました。

世界各地に住むウイグル族に対する人権侵害の事案を現地の報道などをもとに集めたものです。

ウイグル族に対する人権侵害が報告された国は、世界地図上で赤く表示されています。

さらに地元当局に拘束されたり、中国へ強制送還されたりしたウイグルの人々の氏名や拘束理由、現状などが分かるようになっています。

オクサス・ソサエティによると、1997年から2021年の3月までに1149人が各国で拘束され、427人が中国に強制送還されたといいます。  

オクサス・ソサエティ ブラッドリー・ジャーディン研究主任 「中国政府は、ウイグル族が国際的な人権問題の注目を集めることを分かっています。だから国外のウイグル族がこの問題を語るのをやめさせたいのです」

日本にたどり着いたウイグル族 “トルコにはもう暮らせない”

中国の外に逃れたウイグルの人たちはどんな境遇にあるのか。

私は神戸にウイグル族の一家が暮らしていると聞き、訪ねてみました。

神戸在住のウイグル族、バイユズ・マウランさん

<神戸在住のウイグル族、バイユズ・マウランさん>

バイユズ・マウランさんは去年、10年間住み続けたトルコから妻と3人の子供とともに神戸に移り住んできました。

実はマウランさん一家が日本に住むのはこれが2度目。

20年前に徳島の大学に留学していましたが、子どもの教育のことなどを考えて10年前、日本からトルコに移住していたのです。

トルコには5万人を超えるウイグル族のコミュニティがあります。

言語や文化、宗教などがウイグル族に近いためです。

ウイグル族にとっては第2の故郷とも言えるトルコから、なぜマウランさんは日本に戻ってきたのでしょうか。

バイユズ・マウランさん 「トルコが中国に接近すればするほど、ウイグル族にプレッシャーがかかるようになりました」

近年、トルコは難民問題などをめぐって欧米との溝が深まり、経済が低迷しています。

そこで関係を強化しているのが中国です。

マウランさんは、トルコは中国と関係を深めるのと合わせるようにウイグル族に対し厳しい政策を取り始めたと言います。

バイユズ・マウランさん 「ウイグル族の住民カードを持っていると『政治的に危険』『社会秩序を脅かす』というレッテルを貼られます。それでは、トルコで仕事を見つけることは出来ないし、安全な生活を営むことも出来ません」

トルコに残っているウイグル族は今どうなっているのか。

マウランさんの友人に最新状況を聞いてもらいました。

マウランさんの友人:我々は安全ではない。だから他に行くところがあればトルコを出たい。飛行機のチケットを買ったけど、空港でスタッフに止められたよ

マウランさん:どうしてとめられたの?

マウランさんの友人:空港の職員によれば、どこの国も私を受け入れてくれないらしい

私たちの取材で、現在日本にはトルコのほかにもエジプト、アラブ首長国連邦、マレーシア、フィリピンの5か国から逃れてきたウイグル族の人々が暮らしていることがわかりました。

中国のウイグル政策 世界では“過半数が支持”する理由

中国政府は国際社会に対し、自らの立場を正当化するロビー活動を強めています。

2021年9月、国連で”新疆は素晴らしい土地”と題したオンラインのイベントが開催されました。

新疆ウイグル自治区の美しい自然やめざましい経済発展の様子を紹介。

さらに、人権団体が“強制収容所”と批判している職業訓練センターを卒業したというウイグル族の女性が登場しました。

職業訓練センターを卒業したとされるウイグル女性 「職業訓練センターでの勉強を通して、極端な思想は人に害を与えるものであることを学びました。現在、私はとても充実しており満足しています。これは全てセンターのおかげです」

イベントの最後には、キューバ、ロシア、イランなど中国を支持する国々から賛辞の声が相次ぎました。

その1か月後。

国連総会での人権に関する会合で、日本や欧米など43か国がウイグル族の人権問題などについて中国政府に懸念を示す共同声明を発表しました。

しかし、それを上回る62か国が「中国の内政問題」だと擁護する共同声明を発表したのです。  

中国 張軍国連大使 「アメリカなどの少数の国々に警告する。あなたたちの発言には一切根拠がない。新疆の発展は保たれており、国民の生活はどんどん良くなっている。あなた方の中国の発展を阻止するような陰謀は必ず失敗する」

なぜウイグル族に対する人権問題で中国を非難する国よりも擁護する国が多いのか。

1つの理由が国連加盟国の多数を占めるのは途上国であり、中国の経済支援を必要としているだけでなく、自らの国内にも人権問題を抱えている国が多いためです。

安住の地を求めるウイグルの人々 日本はどう向き合う

この原稿を書いている間にも、世界各地でウイグル族の人たちが拘束される事件が相次いでいます。

12月2日には中国と緊密な関係にあるセルビア・ベオグラードの空港で、トルコ在住のウイグル族の男性が拘束されました。

この男性は1週間後には釈放されトルコに戻ることができましたが、北アフリカのモロッコで拘束された男性の場合、現地の裁判所は中国への身柄引き渡しを容認する判決を下しました。

こうしたケースが相次ぐ中、世界各地に住むウイグル族の間で、日本や欧米などに移住を希望する人が徐々に増えているといいます。

そうした状況は日本のデータにも表れ始めました。

2021年5月に発表された出入国在留管理庁のデータによると、2020年に難民と認定された47人のうち中国国籍を持っている人は11人で、日本が難民の受け入れを始めた1982年以降最も多くなったことがわかりました。

その中にはウイグル族の人々が含まれているとみられています。

世界各地で追われるウイグル族の人々に今後どう向き合うのか。

私たち一人ひとり、ひいては日本社会の人権意識が問われていると感じます。