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同時爆破テロ事件から2年 スリランカは今

NHK
2021年4月23日 午前10:06 公開

2年前、イスラム過激派による同時爆破テロが起きたスリランカ。日本人1人を含む269人が犠牲になりました。事件後、治安の維持を掲げて就任したゴタバヤ・ラジャパクサ大統領は、イスラム教徒への締めつけを強めています。スリランカをめぐり、米中のせめぎ合いも激しさを増しています。スリランカでいま何が起きているのか、読み解きます。

多民族・多宗教の国 スリランカ

今回、お伝えするスリランカは、多様な民族と宗教が共存する国ですが、最も多いのがおよそ70%を占める仏教徒です。その大半がシンハラ人です。

現在のゴタバヤ政権は、この多数派を支持基盤としています。この政権は、2年前の同時爆破テロ事件以降、少数派のイスラム教徒の教育やしきたりを制限しようとするなど、締めつけを強めています。これに対してイスラム教徒は抗議の声をあげています。イスラム教徒が置かれた現状とその背景について、ジェトロ・アジア経済研究所の荒井悦代さんに聞きました。

スリランカで強まるイスラム教徒への締め付け

荒井悦代さん:イスラム教徒への警戒感というのは強まっています。ゴタバヤ・ラジャパクサ氏が大統領になって、イスラム教徒に対してかなり強硬な対策を取っている印象を受けます。

政府はイスラム教徒の女性が着る「ブルカ」を禁止したほか、去年4月には、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人は火葬にするよう、強制しました。これに対して、火葬が禁じられているイスラム教徒は猛反発。大規模な抗議運動が起きました。ゴタバヤ政権がイスラム教徒を締めつけるのは、政権の支持基盤であるシンハラ人の仏教徒の不満を解消する“ガス抜き”の意味合いがあると、荒井さんは指摘します。

荒井悦代さん:新型コロナウイルスの感染拡大の影響でスリランカ経済が厳しいだけでなくて、以前から抱えている問題もあって、経済成長率が低迷しています。そういう中でシンハラ人の仏教徒たちの不満を受け止めて、解消させなければならないということも、政府にとってかなり重要な問題になってきています。イスラム教徒たちの権利を抑圧することで、シンハラ人の仏教徒たちに、「自分たちは守られているのだ」と感じさせているということだと思います。

イスラム教徒に広がるゴタバヤ政権への怒り

イスラム教徒の間には、ゴタバヤ政権による締めつけに対して、いらだちが広がっていると言います。

荒井悦代さん:スリランカ政府は反イスラム教徒的な政策を出しますが、ブルカの着用禁止については根拠がありません。さらに2年前の同時爆破テロ事件の調査報告書には、過激な仏教徒の活動を禁止するという内容も記載されていましたが、政府は問題視していません。過激な仏教徒を締め付けないことに怒りの声があがっています。

西海奈穂子(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):イスラム教徒を強権的なやり方で抑圧し続けると、2年前の同時多発テロ事件のようなテロが起きてしまうという懸念はあるのでしょうか?

荒井悦代さん:このまま抑圧し続けると、政府が防ごうとしていたイスラム教徒の過激化をもたらしてしまう可能性はあると思います。そうなると再び政府がイスラム教徒をおさえつけるという悪循環が起こってしまうかもしれません。

スリランカをめぐり存在感を高める中国

スリランカは、中東とアジアを結ぶ海上交通路・シーレーンに面するインド洋の要衝です。アメリカや日本などが提唱する「自由で開かれたインド太平洋」と、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」が重なる地域でもあります。中国はスリランカに対して、インフラ整備や新型コロナワクチンの支援を行うなど存在感を高めています。

荒井悦代さん:スリランカは経済的に厳しく、返済しなければならない債務がたくさんあります。中国に対しても債務があるのですが、融資や投資を呼び込む形ですり寄っていると言えます。あとはワクチンです。当初、ワクチンをインドから取り寄せていましたが、インドがワクチン不足になってきたので、中国のワクチンに頼らざるを得ない状況になっています。中国との関係が重要だと感じているのではないかと思います。

アメリカに警戒感を抱くスリランカ

一方、アメリカは去年10月、当時のポンペイオ国務長官がスリランカを訪問。中国を厳しく批判すると共に経済支援を申し出ました。しかし、アメリカが示した条件にスリランカは同意しませんでした。 

荒井悦代さん:スリランカはアメリカとインドに対して、非常に強い警戒感を抱いています。これまでの出来事の中でさまざまな経緯があったからなのですが、中国に対しては気前が良くて、内政干渉もしないので、いい友人だと思っているように見えます。アメリカに関しては、社会主義の時代の反米感情が残っているように見えます。

スリランカ外交 クアッドとの関係は

アメリカは中国に対抗するため、日本やインドなどと「クアッド」という枠組みの連携を強めています。この中でスリランカはどのように立ち振る舞うのでしょうか。

荒井悦代さん:クワッドの中にスリランカも入るというような関係が構築されていくと思います。

西海:中国との関係を築くのではなくて、クアッドにスリランカが入っていくとお考えですか?

荒井悦代さん:どちらかなと思いますけど、やはりインドとの関係を断ち切ることはできないのではないかと思います。近くにある大国、海軍の力も強いということもありますので、どちらかというとインド側につくと思います。

スリランカと日本 今後の関係は

これまでスリランカに、さまざまな形で支援を行ってきた日本。2年前、2500億円規模の交通システム整備計画で合意しましたが、ゴタバヤ大統領は去年9月、この計画を撤回する考えを示しました。荒井さんは中国の影響力が強まるにつれて、日本のプレゼンスが落ちていると感じています。

荒井悦代さん:中国一辺倒ではないバランスの取れた政策。中国と仲よくしすぎることによって、関係が弱くなる国が出てきています。日本もそうなのですが、そういったことがないようにしてほしいと思います。日本は長い間関係を築いてきましたし、支援も行ってきました。人の交流も非常に盛んです。今まで築き上げてきた関係を生かして、お互いに情報を提供し合える関係だと思います。それを維持していくしかないかなと思います。

スリランカで薄らぐ中国への警戒感

中川栞(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):日本は関係を築いてきたにも関わらず、中国に比べて存在感が低下しているというのは非常に残念ですね。

西海:そうですね。スリランカでは南部の港の開発をめぐって、中国から借りたローンの返済が滞り、運営権が中国側に譲渡され、いわゆる「債務のわな」の典型例とされています。そうした中国に偏った政策への反省もあって、2年前、ゴタバヤ大統領が就任した時には、インドを最初の外遊先に選び、バランス外交を目指す姿勢を強調していました。しかし、荒井さんによれば、新型コロナウイルスの感染拡大で経済が落ち込むなか、中国に対するかつての警戒感はすっかり薄らいでいて、スリランカ政府の高官は、「中国は日本と同じくらい無害だ」と認識しているということでした。

中川:ちょっとびっくりする発言ですが、スリランカの人たちはどうしてそう思うのでしょうか?

西海:中国はスリランカに限らず、ミャンマーでの軍による市民の弾圧やカンボジアでの野党への締めつけなどについて、一切非難しない、内政干渉はしない主義を貫いていて、これを歓迎する国も多いです。中国が存在感を強める中、日本はどういう戦略でインド・太平洋地域でのプレゼンスを維持するのか、真剣に考えなければならない時を迎えていると感じます。