気球撃墜は絶好の機会?“中国引き寄せる”ロシアの思惑

NHK
2023年2月8日 午後5:39 公開

アメリカ軍は4日、アメリカ本土やカナダの上空を横断していた中国の気球を南部サウスカロライナ州の沖合およそ11キロの領海で戦闘機によって撃墜しました。アメリカ側は、気球は「偵察用」だったとしています。一方の中国側は撃墜された気球は気象などを研究する民間の飛行船だったと発表、米中の緊張が高まっています。

中国外務省は、アメリカ軍が気球を撃墜したことについて、北京にあるアメリカ大使館に厳正な申し入れを行ったと発表しました。今回の気球問題による米中の対立が、中国とロシアの関係にどのような影響を及ぼすのかも、今後の焦点の一つです。

(「国際報道2023」で2月6日に放送した内容です)
 

中国は、馬朝旭(ば・ちょうきょく)外務次官が今月、2日間の日程で、ロシアを訪問し、ラブロフ外相などと会談しました。
 

さらに、それに続く形で、外交を統括する王毅氏が今月にもロシアを訪問。その後に、習近平国家主席も訪問する見通しだとロシアメディアが報道しました。ラブロフ外相が「我々は、中国との戦略的パートナーシップを着実に強化している。両国の関係は史上最高だ」と述べるなど、中国との更なる関係強化を急ぎたいプーチン政権の思惑がうかがえます。
 

これに対してアメリカは、ロシアによる軍事侵攻を中国、特に中国企業が支援していると懸念を強めています。
 

先月には、中国の宇宙関連企業が戦場の衛星画像をロシア側に提供した疑いで、アメリカがこの企業に制裁を発動しましたが、アメリカはさらに多くの中国企業がロシアの軍事ビジネスに関わっているとみています。
 

現に、アメリカのシンクタンクは、先月、調査報告書を発表。ロシアが半導体などを入手できないよう欧米が輸出規制を行っているものの、ロシアは半導体などを中国や香港から入手しているという調査結果を示し、中国が制裁の抜け道になっていると警鐘を鳴らしたのです。
 

バイデン政権は、気球の問題がなければブリンケン国務長官が中国を訪問しこうした支援をやめるよう中国側に直接、警告。釘を刺す予定でした。
 

これに対して中国は、中国企業が支援しているというアメリカ側の指摘を否定する一方で、欧米側との決定的な対立を避けるため、ロシアに過度に接近しないよう微妙な距離感を維持してきました。
 

今回の気球問題を受けて米中の対立が再燃する中で、ロシアは中国を引き寄せる格好の機会と見ているのは間違いなく、中国・ロシアの連携にも注目です。
 


油井秀樹(「国際報道2023」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。


(この動画は2分25秒あります)