【徹底分析】影響力強める保守系財閥 プーチン体制の今後は 石川一洋専門解説委員

NHK
2022年12月27日 午後8:39 公開

旧ソビエト時代から長年ロシア取材をし、プーチン大統領に詳しく、側近とも直接に話しをしたこともある石川一洋専門解説委員。ロシアで今、ウクライナでの苦戦に伴い目立つのが強硬派、ロシアの民間軍事会社ワグネルの代表プリゴジン氏や背後にいる保守系財閥コワルチュク氏です。プーチン政権の今後に影響を与える財閥の動きを読み解きます。


(この動画は6分42秒あります、2022年12月26日に放送したものです)

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プーチン政権の今後に影響を与える財閥の動きとそれぞれの人物像

油井秀樹(「国際報道2022」キャスター):強硬派プリゴジン氏と保守系財閥コワルチュク氏の関係はどういうものなのでしょうか?

石川一洋専門解説委員:プリゴジン氏の最近の行動ははめを外しています。ゼレンスキー大統領が東部ドネツクの激戦地バフムトを訪れた時、みずからのSNSに「本部でゼレンスキーが着いたと聞きバフムトへ急いで出発した。ゼレンスキー氏にその気があればいつでも会おう」と投稿をしました。まるでみずからがロシアの指導者であるかのような言動ぶりも目立っています。

石川専門解説委員:しかし「プーチンの料理人」といわれるプリゴジン氏だけの財力、力でワグネルを動かすのは無理でその背後にはさらに大きな財閥と国家組織の存在があるとみられています。国家組織としては軍諜報部GRUとのつながりが指摘されています。そしてプリゴジン氏の背後で、いわば手駒として操る保守系財閥としてユーリー・コワルチュク氏の存在が注目されています。

油井:保守系財閥のコワルチュク氏とはどういう人物なのでしょうか?

石川専門解説委員:プーチン大統領と同じサンクトペテルブルク出身で優秀な物理学者でした。ソビエト連邦崩壊後ビジネスに転じ、副市長だったプーチン氏と親しくなりました。 現在は、メディアグループ「ナショナル・メディア・グループ」を組織し、全国ネット第1チャンネルや有力紙イズベスチヤやかつては独立系だったテレビ局も今は傘下に収めています。

石川専門解説委員:もう一つは金融です。「プーチンの銀行」ともいわれる民間銀行ロシアの事実上のオーナーです。さらに兄は原子力研究の最高峰クルチャトフ研究所の所長で息子はロシア最大の電力会社の社長です。際立つのはプーチン大統領との近さです。1996年には共同で別荘を所有し、コワルチュク氏ら共同所有者がプーチン政権の下で富を蓄積し、プーチン閥といわれています。

石川専門解説委員:コワルチュク氏がいかにプーチン大統領と近いか、それを象徴するのが2人の女性の存在です。ひとりは新体操の金メダリストでプーチン氏の愛人といわれるアリーナ・カバエワさん。もうひとりが、娘のカテリーナ・チホノワさんです。カバエワさんは、プーチン大統領の間で複数の子どもをもうけたといわれていますが、ナショナル・メディア・グループの取締役会の会長を務めています。また、娘のカテリーナさんのさまざまな活動を支えているのもコワルチュク氏といわれています。自分の大切な女性をまかせているところからもプーチン大統領のコワルチュク氏への信頼がうかがえます。

油井:コワルチュク氏は、ウクライナへの軍事侵攻ではどのような役割を果たしたのでしょうか?

石川専門解説委員:非常に危険な影響をプーチン大統領に与えたといわれています。コワルチュク氏の父は歴史学者で、コワルチュク氏とプーチン氏は、ともに歴史への関心が深く、ウクライナとロシアは統合されるべきだという非常に保守的な考えも共通しています。ウクライナへの軍事侵攻開始前、大統領は多くの時間をコワルチュク氏と過ごしたともいわれています。彼はエネルギーやアルミ、鉄鋼など実業ではなく、いわばロパガンダと金融で財をなした財閥です。プリゴジン氏の過激な言動も、プーチン大統領を動かすための手段ともいえます。思想面でプーチン大統領の危険な行動を支える財閥と言えます。

石川専門解説委員が読み解く2023年のロシア軍事侵攻やプーチン大統領のゆくえ

油井:こうした強硬派の影響が強まる中でまもなく2023年になります。石川さんは何に注目していますか?

石川専門解説委員:2024年3月にシア大統領選挙があります。しかしプーチン大統領の揺らぎ変調も目立っています。この12月プーチン大統領は年末恒例の内外記者会見を中止しました。大統領は、自分は国民の心が分かると固く信じており、ポピュリスト・プーチン自らが国民に訴える重要なツールでした。

石川専門解説委員:ことし中止となったのはもしかしたら、プーチン大統領の国民の心が分かるという自信が揺らぎ、「いつ戦争は終わるのだ」「どのような形で終わるのだ」という国民の声を恐れてきたのかもしれません。

石川専門解説委員:コワルチュク氏ら強硬派がプーチン大統領への圧力を強める一方、ガス、石油、鉄、アルミなど実業を握る大財閥は戦争についてほとんど発言をしていません。彼らもプーチン体制の柱ですが、コワルチュク氏ら強硬派と違い、戦争からの出口を探っている可能性はあります。出口を見つけるために、プーチン氏が大統領選挙の前に退任する可能性はあると私はみています。プーチン大統領が再選を目指すのか、和平への糸口を見いだすため後継者を立てるのか、クレムリンの中を含めてプーチン体制の中で暗闘が始まっている感じがいたします。