【解説】ロシア・ウクライナ双方が市民を"人間の盾"に? (油井'sVIEW)

NHK
2022年7月12日 午後8:12 公開

ウクライナでは一般市民が戦闘に巻き込まれて犠牲となるケースがあとを絶ちません。

国連からはロシア軍を非難する声が一段と高まる一方で、一部では、ウクライナ側にも責任があった可能性を指摘しています。

国連人権高等弁務官事務所は、先日、ロシアによる軍事侵攻に伴うウクライナの人権状況をまとめた報告書を発表しました。

バチェレ人権高等弁務官は、「市民の犠牲者数の多さと民間インフラの破壊の深刻さで、ロシア軍が国際人道法を守っていない重大な懸念が引き続き存在する。それに比べるとかなり少ないが、ウクライナ軍も国際人道法を守らなかった可能性がある」と述べています。

国際人道法とはジュネーブ条約など捕虜や一般市民などを人道的に保護するための国際法規です。

国連が報告書の中でウクライナが守らなかった可能性があると具体例としてあげたのは、3月にウクライナ東部のルハンシク州にある介護施設で起きたロシア軍による攻撃でした。

当時、ルハンシク州の知事はSNS上で「介護施設の入居者56人がロシア軍の攻撃を受けて死亡した」と発表。

ただ国連の調査では、ロシア軍の攻撃の数日前に、ウクライナ軍がこの施設を戦略上重要な位置にあることから、入居者とともにこの施設に立てこもっていたと明らかになりました。

つまりウクライナ軍が入居者を「人間の盾」にしていた可能性を指摘したのです。

これまでもロシア・ウクライナ双方が市民を人間の盾にしていると互いに相手を非難してきました。

現に、ウクライナ軍は、ロシア軍が現在占拠している南部で反転攻勢に出る構えですが、ロシア軍がウクライナの住民たちを「人間の盾」にする可能性があるとして、現在、住民達に避難するよう呼びかけています。

国連人権高等弁務官は、市民の犠牲をこれ以上出さないためにもロシア・ウクライナ双方に戦闘の停止を訴えていますが、双方とも戦闘を継続する構えで罪のない人々が命を落とす恐れはさらに高まっています。


油井秀樹(「国際報道2022」キャスター)

前ワシントン支局長。北京・イスラマバードなどに14年駐在しイラク戦争では米軍の従軍記者として戦地を取材した経験も。各国の思惑や背景にも精通。


(この動画は2分58秒あります)

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