ウクライナのクレバ外相は、5月9日、ロシア側が外交交渉よりも戦闘を優先させていると非難し、ウクライナ側の目標は領土の解放と戦争の賠償などと語りました。国際報道2022の単独インタビュー全文です。
(国際報道2022キャスター 油井秀樹)
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油井:きょう5月9日はロシアでは戦勝記念日のパレードが行われ、プーチン大統領が演説しました。その演説を聞く機会はありましたか?
クレバ外相:報告は受けました。ただ私が理解する限りでは驚く内容はありませんでした。そもそも個人的にはスピーチやパレードなど5月9日の関連で、何か目新しいものが出てくるとも思っていませんでした。というのも地上での戦闘が明白だからです。ロシアはドンバスで攻撃を続けていて、ウクライナの都市や街を巡航ミサイルで撃ち続けている状況です。大きな変化は期待できませんでしたし、実際に何もありませんでした。
油井:プーチン大統領は演説で軍事侵攻を改めて正当化しましたね。
クレバ外相:いつもの主張でしかありませんでした。彼は自分自身の世界に生きているのです。1940年代にスターリンが行ったように、ナチスと戦っているという世界です。自国民の抑圧というだけでなく、大戦争を行っているという意味で、彼は間違いなく自分自身をスターリンと比べたがっていると思います。しかしこれはすべて作り話です。彼のビジョンと現実は合致していません。なぜならウクライナにネオナチは存在しないからです。これは私の国に対するロシアの公然かつ一方的な侵略です。そしてプーチン大統領は全世界にうそをつき、侵略の言い訳を見つけようとしているのです。
油井:プーチン大統領はウクライナに対するNATOの軍事支援も批判しました。プーチン大統領は軍事支援に不満を募らせていると思いますか?
クレバ外相:プーチン大統領は日本を含めて世界各国がウクライナを支援していることに不満を抱いているのでしょう。彼の計算ではウクライナは国際社会から見捨てられ、どの国もプーチンの侵略に対してウクライナを支援せず、ウクライナは孤立すると見ていたからです。NATOは彼にとって一種のブランド、悪のブランドなのでNATOを批判したのでしょうが、実際はもっと多くの国々に対して不満を抱いているのです。
"戦勝記念日後もロシアはドネツク州とルハンシク州の占領を試みるだろう"
油井:5月9日が一つの節目とみられてきましたが、ロシアの次の一手は何だと思いますか?
クレバ外相:ロシアの次の動きは容易に推測できます。ウクライナのドネツク州とルハンシク州全体の占領を引き続き試みることです。私たちが話をしている今も、激しい戦闘が行われています。ロシアは航空機、大砲、多連装ロケットシステム、戦車などあらゆる種類の兵器を使用して、我々の軍隊を打ち負かそうとしています。しかし我が軍は勇敢にも戦線を維持しています。我が国と我が国民を守るためです。
そしてプーチンの第2の目標は、ウクライナの南部地域で親ロシア派政権を確立することです。戦争の最初の数週間でクリミアからの部隊が支配下においた地域で、この動きは続くでしょう。私はドンバス地方の戦いの結果が明確になるまでは、プーチンの政策に大きな変化があるとは思っていません。
油井:ではウクライナ側の目標は何ですか?
クレバ外相:我々の目標は勝つことです。それ以外に選択肢はありません。この戦争に負ければウクライナは存在しなくなるのです。ウクライナのアイデンティティーは抑圧されるでしょう。だからこそ私たちは激しく、精力的に外国の侵略者と戦っているのです。私たちの国の未来がかかっていることを理解しているからです。
油井:目標の実現に、どのくらいの期間がかかると思いますか?
クレバ外相:我々はロシアが力のある大国であることを知っていますが、戦争の前に想像していたほどではありませんでした。我々はロシアを倒す方法を学び、彼らを止める方法を学んでいます。もし我々が引き続き、軍事支援や人道支援といった必要な支援を持続的に受けられ、ロシアに対してさらなる制裁が科され、我々が友好国と結束して行動できれば、時間はかかるかもしれませんが、最終的に私たちは勝利するでしょう。これはウクライナだけではなく、民主主義とルールに基づいた国際秩序を支持するすべての人々の勝利となるのです。もしロシアが勝てば、歴史や世界地図を書き換えたい世界の人たちに、"侵略こそがそれを実現する手段だ"という明白なメッセージを送ることになるからです。私たちはそれを許すわけにはいきません。
"クリミアは何世紀もウクライナの一部だ"
油井:ゼレンスキー大統領は、先日、勝利の定義にクリミアの奪還も含まれると発言しましたが、ロシア軍をウクライナからどこまで追い払うことが目標なのでしょうか?
クレバ外相:ロシアによる一方的なウクライナへの軍事侵攻の結果で、私たちはロシアと戦っているのです。そのため私たちの目標は、我々の領土を解放することと、ロシアが我々の土地にもたらしたすべての苦しみと破壊を賠償させることです。
油井:領土の解放という目標にクリミアも入るのでしょうか?
クレバ外相:クリミアがなぜ特別な関心を集めるのか理解できません。思い出してほしいのはクリミアは、何十年も、歴史的には何世紀もウクライナの不可分の一部だということです。ロシアに不法に併合される2014年までは、です。だからクリミアが、なぜ異なる例のように特別に注目されるのか、よく理解できません。私が明確にしたいのは、ウクライナは外交交渉を受け入れる立場です。私たちはロシアと交渉し、テーブルの上にあるさまざまな問題について、相互に受け入れられる解決策を見つける用意があります。しかし、この交渉を相互に受け入れ可能な方法で行うために、ロシアが誠意を示さなければなりません。
<ブチャを視察するゼレンスキー大統領>
油井:ロシアとの外交交渉は現在、どのような状況なのでしょうか?
クレバ外相:交渉は待機している状況ですが、我々はロシアが交渉よりも戦いを優先していると認識しています。ロシア側には、すべてのレベルにおいて交渉を継続する熱意や意欲が見られません。両国の専門家は協議を続けていますが、技術的な細かな問題の議論で実質的な問題は議論していません。
油井:外交交渉で解決する上で最大の課題は何ですか?
クレバ外相:最大の課題はロシアが外交よりも戦争を選んでいることです。もしロシアが戦争よりも外交を優先するのであれば、ドンバス地方で攻撃を続けることはないでしょう。その代わりに我々と交渉のテーブルにつき、互いに受け入れ可能な解決策を探すでしょう。しかし、ロシアは自分たちが外交ではなく軍事力で事態を解決する能力を持っていると判断したため、外交交渉が実現していないのです。
<東部で戦うウクライナ兵>
日本の石油禁輸措置はよいニュース 交渉中の要望も
油井:日本のウクライナ支援に対してはどう評価していますか?
クレバ外相:軍事侵攻が始まった当初から日本は非常に前向きでした。ウクライナへの援助やロシアへの制裁に関して、G7の信頼できる積極的なメンバーとして行動してきました。最近、日本がロシアに対して石油の禁輸措置を行うと発表したのは非常に良いニュースでしたし、まさにこれこそ世界の他の国々が日本をお手本として行動しなければならないことです。ロシアが石油とガスで何十億ドルという支払いを受けている限り、ロシアとロシアの戦争基盤に資金を供給し続けることになるからです。ですからプーチンを止めるにはウクライナを支援し、ロシアのガスや石油を買うのを止めるのが最良の方法です。
油井:日本の協力には満足していますか?
クレバ外相:現時点では満足していますが、我々は、日本と相互利益となる多くの問題をいまだ交渉しています。日本政府に対していくつかの要望も行っていますが、それに対する回答はまだありません。しかし我々は日本との話し合いを続けており、ここで不満を述べる理由はありません。
油井:日本政府に対しては、どのような要望を行っているのでしょうか?
クレバ外相:それについては、静かな外交にチャンスを与えることにしましょう。
ロシア同盟国の中国をどう見るのか
油井:ロシアの軍事侵攻を受けて中国に対して仲介を依頼しましたが、中国の対応をどう評価していますか?
クレバ外相:中国は世界の大国であると同時にロシアの緊密な同盟国で、ロシアに対して影響力を持っています。ですから我々は戦争の開始当初から中国当局に働きかけ、ロシアの行動に影響を与え、ウクライナに対する侵略をやめさせるようお願いしてきたのです。中国の外相からは、この戦争は中国の利益ではないと確約を得たと信じています。そして我々にとって決定的に重要なのは、中国がロシアにいかなる軍事支援も提供せず、中国企業や中国の司法権を通じてロシアに科せられた制裁を回避するための安全地帯を提供しないことです。これが私たちの中国に対する立ち位置です。万が一、中国がロシアに軍事支援を提供したり、制裁を回避する手助けをしたりすれば、我々の立場もそれに応じて変わるでしょう。
油井:中国に対する現在の評価は?
クレバ外相:いま、そうした判断を下そうとあらゆる情報を収集している最中です。現時点では中国がロシアを軍事もしくは経済で支援したという大きな例は見られていません。しかし私たちは、中国との関係について包括的な検証を行っています。
"化学兵器や核兵器の使用を抑止するため G7は対応を練り上げなければ"
油井:ロシアが大量破壊兵器を使用する可能性が懸念されていますが、その可能性をどう見ていますか?
クレバ外相:ロシアがキエフを空爆したり、ウクライナの他の大都市を巡航ミサイルで攻撃したりする、そんな事態を2か月前、私は想像すらしていませんでした。いまはどんな可能性もあると考えています。ロシアがどのような行動をとるのか、それとも何もしないのか、100%の保証は誰にもできません。私が考えるべきことは『ロシアに大量破壊兵器を使わせないために私たちはどうするか? 』、もしくは『もしロシアが大量破壊兵器を使用したら、私たちはどうするか? 』です。ロシアが大量破壊兵器を使用すれば、どのような結果を招くのか明確に理解する必要があるからです。使用すればロシアにも影響があるとただ口先で言っているだけであれば、ロシアは真剣に受け止めず、使用しても良いと見なすでしょう。だからG7はロシアに対して、ウクライナに対する化学兵器や核兵器の使用を抑止するため、可能性について非常に具体的で明確な対応を練り上げなければならないのです。ウクライナ側の対応としては、私たちは国のために戦い続けます。私たちには他の選択肢はありません。
油井:戦いに勝利するために最大の課題は何でしょうか?
クレバ外相:最大の課題はウクライナの経済を支えることです。経済が破壊されては戦争に勝てませんから。我々の重要なインフラや供給路、貿易や物流のルートに対するロシアの意図的な攻撃の結果、当分の間、ウクライナ経済は制裁によるロシア経済への損失と比較しても、より多くの損失を受けるでしょう。第一にロシアに対して制裁をさらに強化すること、第二にウクライナに対してより多くの財政・経済支援や貿易支援を行うことが求められているのです。もし私たちが経済を動かし、世界から必要な物資をすべて調達できれば、ウクライナでロシアを封じ込め、打ち負かすことができます。我々はロシアによるこの悪事を阻止します。ロシアが世界の他のならず者たちに、武力で歴史を変えることができるという手本を見せることは決して許しません。
油井:最後に日本の視聴者に言いたいことはありますか?
クレバ外相:私は、日本の皆様がウクライナに個人的な支援を広げてくださったことに感謝をしたいと思います。私たちはとても感謝しています。ウクライナを支援しているのは日本政府だけでなく、日本の人々も支援していることがわかります。ありがとうございました。