【ウクライナからの声⑮】 マリウポリ“地獄からの脱出を助けたい”

NHK
2022年4月14日 午後5:11 公開

「住民たちを地獄から助け出したいのに、自分の無力さを感じます」

深刻な人道危機が続き、住民の避難が思うように進まないマリウポリ。地元の地区長を務めるステパン・マフスマさんが苦しい胸の内をあかしました。避難できない大きな理由はロシア軍による妨害だと語ります。「人道回廊」が設置されたはずなのに攻撃はやまず、検問所ではロシアの”裏切り者“がいないか裸にまでされて理不尽なチェックを受けているというのです。

“検問所では裸にされ「裏切り者」でないか調べられる”

ステパンさんはマリウポリで生まれ育ち、行政職員としてキャリアを積んできました。

今は街から脱出して、残された住民の避難や食糧を送る支援に携わっています。

私たちがステパンさんにインタビューしたのは4月1日。

ちょうどこの日、ロシア国防省は「人道回廊」と呼ばれる避難ルートを設置すると発表していました。

国連難民高等弁務官事務所とICRC=赤十字国際委員会も参加することになっていて、”今度こそ避難が進むのでは“と注目を集めていたのです。

しかしステパンさんが口にしたのは「まったく期待は持てない」という悲観的な見通しでした。

「毎日のように人道回廊のルートが定められて停戦も合意したと伝えられます。しかし強く訴えたいのが、いつも問題なのはロシア側の設置したいくつもの検問所を通れるか分からないことなのです今回も実際に検問所にいる人間が政治家の決めたことに従うかどうか疑わしいと思います」

ステパンさんが問題視している「検問所」。

ロシア側の担当者は武器を振りかざし、非人道的なやり方で人々を取り調べていると訴えます。

「ロシア側の検問所ではいつも厳しいチェックが入ります。男女を問わず携帯電話はすべて押収して調べています。ロシアの“裏切り者”がいないかどうか探しているのです。ロシア兵は偉そうな長官のようにふるまい、住民たちを馬鹿にします。避難バスの中では子どもたちが泣いて、母親たちは神経質になっています。とてもつらい光景です。幼い子どもたちが何日もバスの中で過ごしているのです。男性は検問所で裸にされ、いれずみや傷がないか調べられます。武器をもった男たちに父親が取り囲まれるのを見て、子どもたちは当然、恐怖を感じています」

ステパンさんが危惧したとおり、この日も住民の避難はほとんど進みませんでした。

今もマリウポリには水も食料もない中に10万人以上の人が取り残されているとされ、ロシア軍は市内の完全掌握に向けて攻勢を強めているとみられます。

苦渋の決断でロシアに避難する住民も

マリウポリのボイチェンコ市長は、私たちの取材に対して「3万人もの住民が強制的にロシアに連れ出されている」と語っています。

ステパンさんは、住民たちの中には命を守るために仕方なくロシアへ向かう選択をする人もいると明かしました。

「住民はもちろん砲撃のない場所、安全な場所に逃げたいのです。水があってお風呂にも入れて、温かいお茶が飲めるところです。生きるか死ぬかという選択を前に、どこでもいいから避難したいとロシア行きに同意せざるをえない人もいます。ただウクライナ側に避難したいと思っていたのに、だまされてロシア側へ連れて行かれる人のほうがずっと多いです」

インタビューの最後、いま辛いことは何かを尋ねると、ステバンさんは命を救いきれない現状へのもどかしさを口にしました。

それでも住民の避難に全力を尽くすのは、ある光景が目に焼き付いているからでした。

「住民への責任を感じています。できるだけ多くの住民を地獄から助け出したいのですが、残念ながら自分の無力さを感じることもあります。本当は空を封鎖して住民を爆弾から守ってあげたいです。一人ひとりの命を助けたいのですが、全てをかなえられるわけではありません…私の親族は攻撃を受けて体がばらばらになりました。私はその光景を一生忘れないでしょう。もう誰にも、そんな思いをさせたくないのです」