米中対立の世界で「同盟国も敵もいらない」 東ティモールが目指す“外交サバイバル術

NHK
2022年1月20日 午後3:09 公開

アメリカが主導する同盟に加わるか、中国との関係を深めるか。“新冷戦”とも称される国際情勢の中で周辺国がどう生き抜いていくべきか、率直に本音を語るリーダーがいます。21世紀最初の独立国・東ティモールのシャナナ・グスマン元大統領です。独立から20年、日本をはじめ多くの先進国が援助してきましたが、コロナ禍で急速に関係を深めているのが中国。経済支援に加えてワクチンの提供も受けました。ただ、中国との関係を深めていくのかと問うと「同盟国を作るつもりはない」と語気を強めます。そこには大国の思惑に振り回されてきた苦い経験と、独立した国として生き抜く矜持があらわれていました。
(国際報道2022 鎌倉千秋)

独立運動の英雄が直面してきた「苦い援助」

インドネシアとオーストラリアの間に位置する東ティモール。

激しいゲリラ戦を経て、2002年にインドネシアからの独立を果たしました。

独立運動の闘士として絶大な人気を誇り、初代大統領に就任したのがシャナナ・グスマン氏(75)です。

大統領を退いた後も政治家として大きな影響力を持ち、去年11月に親善交流のために来日。

激変する国際情勢をどのように見てきたのか本音を聞きたいとインタビューを依頼しました。

かつて密林でゲリラ戦を戦い抜いたグスマン氏ですが、第一印象は思いのほか気さくで、初対面の私ともすぐにジョークを交えて話を始めました。

昔から彼を知る人が“人の心を一瞬でつかむ人物”と評していましたが、その通りのカリスマ性を感じました。

グスマン氏が20年前に大統領として舵取りを担った東ティモールは、その後民主的な選挙が何度も行われ、近年は大きな混乱もなく政権交代も実現しています。

民主主義が根付いたと誇りを持つ一方で、思うように進んでいないのが経済発展です。

周辺の海域で産出される石油などの資源以外に産業が育たず、今も120万あまりの人口のおよそ40%が1日平均1米ドル以下で暮らす貧困層とされています。

鎌倉:かつてのゲリラの闘士として、今の東ティモールは理想の国になっているでしょうか。

グスマン氏:夢を見るのと実際に形にするのはまったく違います。独立闘争時は自由になることが唯ーの目標でした。独立から間もない国に問題はつきものです。でも私たちは優秀とは言えませんが、それほど悪くないと思っています。

独立以降、東ティモールはオーストラリアやアメリカ、そして日本といういわゆる“民主主義陣営”から多額の経済援助を受けてきました。

「あらゆる国からの援助をありがたく思う」と日本の協力にも感謝するというグスマン氏。

ただこの20年の間には何度も苦い思いをさせられてきたといいます。

その1つが、2000年代初頭からアメリカが主導する「ミレニアム挑戦会計」です。

ヒラリー・クリントン元国務長官は、東ティモールに対して数百万ドルの資金援助をほのめかしながら、結局「民主主義や人権への取り組みが不十分だ」とされ実現しなかったといいます。

去年6月には、バイデン大統領が「より良い世界の再建(Build Back Better World)」と題した新たな支援構想を立ち上げました。

民主主義という共通の価値観を持つ国が中心となって、世界各地で途上国のインフラ整備を進めるというものです。

このプロジェクトについてどう思うか尋ねたところ、グスマン氏は露骨に顔をしかめて答えました。

グスマン氏:知りたくないというのが本音ですね。何兆ドルもの資金があるのなら、アフガニスタンにもインフラが築けただろうにとは思いますが。これまでも何度もそういう援助の話がありました。発展途上の小国として、超大国の「援助をするよ」という空約束に何度も直面してきて思うのは「もうたくさんだ」ということです。

高速道路もワクチンも支援 存在感を増す中国

一方で、ここ数年急速に関係を深めているのが中国です。

2017年、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」へ参加する覚書を交わし、高速道路などの多くのインフラが中国からの投資によって建設されています。

さらに去年6月、新型コロナの感染が拡大した際に中国政府はワクチン10万回分を提供しました。

グスマン氏自身中国製のワクチンを接種し、その写真は中国大使館のウェブサイトにも掲載されています。

日本がワクチン支援に踏み切ったのは、それから2か月後でした。

グスマン氏:中国製のワクチンを打って、なにがいけないのでしょう。ワクチンが必要だったところに、中国企業が提供してくれました。それはありがとうと言って受け取りますよ。そんなに騒ぎ立てないでほしいですね。もし日本のワクチンが届いていたら、それを接種していましたよ。

米中対立が深まる世界で「同盟国も敵も作らない」

では国際政治の場でも中国との蜜月は深まる一方かというと、そう単純ではありません。

2016年には当時の東ティモール大統領が来日して安倍元首相と会談。

中国が南シナ海で海洋進出の動きを活発化させていることを念頭に、深刻な懸念を示しました。

その後も国連海洋法条約を“海の憲法”として尊重するべきだと再三表明しています。

中国の人権問題をめぐって国連で応酬が繰り広げられた際も、必ずしも中国を擁護する側に加わっているわけではないのです。

今後、中国との関係をどうしていくつもりなのか。

グスマン氏が繰り返したのは、米中対立が深まる世界で生き抜いていく極意でした。

鎌倉:東ティモールは中国との関係を今後強化していくべきだと思いますか?

グスマン氏:私たちの外交政策の基本方針は「同盟国を作らず、敵も作らず」です。誰もが友人です。 オーストラリアのような大国なら、同盟国を作るのもいいでしょう。でも私たちの国はとても小さく、まだ発展に向けて歩み始めたばかりです。「この国は同盟国」「この国は敵」と区別する理由があるでしょうか。私たちの国には問題が山積しています。どこかの国に味方して、敵と戦う余裕などありません。

鎌倉:世界の多くの国にとって、米中対立が激化する中でどういう立場をとるか苦労しています。

グスマン氏:最貧国である私たちにとっては、あらゆる国との関係が必要です。ですから、この問題は難しくありません。やはり「敵を作らず、同盟国を作らず、誰もが友人」それが私の考えるあるべき国の姿です。

インタビューを終えて “アメリカか中国か”ではない世界の見方とは

中国を主な取材フィールドにしてきた私にとって、「民主主義陣営に加わるのか、中国式発展モデルをとるのか」という枠組みは国際情勢を切り取る1つの基準になっています。

ただこの問題設定自体、貧困にあえぐ多くの国民を目の前にするグスマン氏にとって“そんな踏み絵を迫ることは不毛だ”というのが偽らざる本音だと感じました。

「アメリカか中国か」ではない道を探る東ティモールのサバイバル術は、米中対立が世界を巻き込んで先鋭化させないようにするためのヒントにもなる気がしました。

東ティモールに限らず、これまで西側が経済援助をしてきた多くの地域で中国の存在感が増しています。

背景にあるのは経済援助の規模だけでなく、「うるさいことを言われない」というのも大きな理由だとよく聞きます。

“アメリカの新たな援助構想なんて知りたくもない”と顔をしかめるグスマン氏の表情からは、支援と引き換えに上から目線でものを言われてきた経験がよほど苦いものだったのだと感じます。

自由や民主主義はとても大切な価値観ですが、途上国や新興国の立場に寄り添い、本音に気づけているのか。

報道に携わる私たちにとっても、心に留めておきたいと思いました。