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渋谷ザニーさん 祖国ミャンマーへの思い

NHK
2021年6月23日 午前10:01 公開

ミャンマーの軍事クーデターから4か月あまり。軍や警察による弾圧が続く中、市民は文字どおり命がけで抗議活動を続けています。そんな市民に日本から支援の手を差し伸べる人がいます。ミャンマーで生まれ、日本人として生きることを選んだ、渋谷ザニーさんです。

渋谷さんは、ファッションデザイナーとして世界を舞台に活躍。2012年、ノーベル平和賞の受賞スピーチでアウン・サン・スー・チーさんが身に着けていた民族衣装の巻きスカート・ロンジーは、渋谷さんがデザインしたものです。2月のクーデター以降、渋谷さんはミャンマー国内の友人や知人から情報を集め、軍の弾圧の現状を世界に発信したり、混乱のなかで困窮する市民に食料を届けたりする活動を行っています。祖国の現状をどんな思いで見つめているのか、話を聞きました。

(「キャッチ!世界のトップニュース」で6月14日に放送した内容をまとめたものです)

ミャンマーの現実 SNSで発信

渋谷さんは弾圧の映像や支援を求める声を集め、SNSなどを通して世界に発信しています。

渋谷さんが入手した写真には、頻発する軍の空爆から隣国タイに逃れようとする市民の姿が映っています。

軍によって村に地雷が仕掛けられ、足を失うなどの被害の報告も相次いでいると言います。

渋谷ザニーさん:小動物や昆虫よりも自由に生きられない。それが今のミャンマー市民の現状です。日本から飛行機で6時間ほどの距離にあるミャンマーで、凄惨な殺りくや人権侵害が行われていることについて、私自身も現実のこととして捉えることができないでいます。

渋谷ザニーさんとミャンマーの民主化

渋谷さんとミャンマー民主化運動の最初の接点は幼少期でした。1988年、学生たちを中心に軍政に反対する抗議デモが全国に広がりました。学生リーダーのひとりだった父親と母親もこれに参加。軍の激しい弾圧にあいます。

渋谷ザニーさん:当時3歳でしたが、銃声が鳴り響くなか、父親に抱えられながら逃げたことは今も鮮明に覚えています。大人たちの激しい衝突に大きなショックを受けたんだと思います。

1993年、8歳の渋谷さんは、先に亡命していた父親のあとを追い、母親とともに日本に渡ります。

日本の教育を受け、ファッションデザイナーとして働くようになってからも、軍政と闘う祖国の人々に思いを寄せ続けていました。

スー・チー氏に衣装を贈ったことをきっかけに、民主化を求める人々との関係を深めていきます。2015年の選挙をへて、ついにスー・チー氏を中心とした政権が実現したことを心から喜んでいました。しかし、ことし2月。軍が政権を転覆。その直後から、支援を求める仲間たちの悲痛な叫びが渋谷さんのもとにつぎつぎに届くようになったと言います。

渋谷ザニーさん:東京で普段どおり生活していると、突然電話が鳴るんです。この6年間にミャンマーで出会った人たち、例えばスー・チーさんの側近ですとか、そういった人たちが僕に支援を求めるメッセージを送ってくるのです。彼らの声を世界中の人々に届けること。これは自分の使命だと思って、この数か月、活動してきました。

困窮するミャンマー市民 基金設立し支援

現地の情報を収集し、発信を続けてきた渋谷さん。弾圧が長期化する中で、現地の人々を直接支援しようと、基金を立ち上げました。

“日本からミャンマーの闇を照らす月明かりになるように”との願いを込めて、「フル・ムーン基金」と名づけました。

渋谷ザニーさん:軍や警察による殺りくや人権侵害にさらされ、国民は疲弊しています。それでも彼らは、食べ物さえあれば立ち向かえるという思いで戦い続けています。そんな彼らに対して、1日の食料の足しにでもなればと思って立ち上げたのがこの基金です。

写真は渋谷さんの支援で行った炊き出しの様子です。クーデター後の混乱で食料不足が深刻になるなか、お腹をすかせた子どもたちが長い列を作りました。

病院や学校に行けない人々も多く、現地の仏教寺院などを通じて医療や教育の支援も行っています。

渋谷ザニーさん: ミャンマー国内には今、頼りにできる政府が存在していません。国民はそうした状況の中で生きていかなければならないのです。だからこそ国外にいる私たちの支援が重要なんだと思います。

ミャンマー民主化運動 スー・チー氏から国民へ

混迷を深めるミャンマー情勢。これまで国民を導いてきたスー・チー氏は、軍に拘束され動きを封じられています。しかし、渋谷さんは、こうした状況でも弾圧に屈せず抗議を続けている市民の姿に、大きな希望を見いだしています。

渋谷ザニーさん:今、アウン・サン・スー・チーさんの存在は、国民の心の支えではなくなっていると思います。国民ひとりひとりが自らの意思で民主化運動を継続すること。スー・チーさんはそれを理想としていました。そして今、国民の間にはその意思が存在しています。スー・チーさんは民主化運動を継続するというバトンを、国民に渡せたんだと思います。自分たちの手で民主化を成し遂げようとする国民がいる限り、ミャンマーは民主国家になる力を持っているのだと思います。

高橋彩(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):渋谷さんが発信しているミャンマーの写真。表情は見えないけれど、地雷で足を失った人や痩せている子どもの姿が写っていて、現地の厳しい状況が伝わってきますね。

小林雄(「キャッチ!世界のトップニュース」キャスター):その写真ですが、渋谷さんは、写っている人の顔を隠すだけでなく、色もカラーではなくモノクロに加工して発信しているんです。これは、服の色などから万が一にも個人が特定されないようにという配慮なんです。というのも、海外から支援を受けていることを知られてしまうと、それだけで軍や警察によって拘束されたり、危害を加えられたりする可能性があるからだそうです。

高橋:それほど軍による弾圧が厳しくなっているということなんですね。そうした中でも抗議活動が続くミャンマーの現状について、“民主化運動のバトンはスー・チー氏から国民に渡った”という渋谷さんの言葉がとても印象的でした。

小林:そうですね。ミャンマーでは1988年、2007年と大規模なデモが行われましたが、いずれも軍の弾圧によって鎮圧されてしまいました。しかし、今回は激しい弾圧を受けても、市民たちは口を閉ざそうとしていません。ようやく勝ち取った民主主義を絶対に手放さない、そうした思いが人々を突き動かしていると渋谷さんは話していました。これ以上命が失われることなく、ミャンマーに民主主義と平和な日々が戻ることを強く願います。