ロシアの軍事侵攻にさらされるウクライナ。爆撃の恐怖にさらされる市民たちが、通信事情も不安定な中で私たちの取材に応じてくれました。人々は戦火の中の日常を必死に生き、避難さえかなわない弱い立場の人に寄り添い続けています。「世界の人々に現状を知ってほしい」と訴えるウクライナからの声です。
キエフに留まりボランティアを続ける インナ・コチカロワさん(38)
今も首都キエフに留まるインナ・コチカロワさん。
話を聞いたのは3月10日、チェルノブイリ原発で電源が喪失したというニュースが報じられた翌日でした。
<チェルノブイリ原発>
チェルノブイリ原発からキエフまでの距離はおよそ110キロ。
かつて事故が起きた時の記憶を鮮明に覚えているというインナさんは、強い不安を感じていました。
「とても心配しています。私の周りの多くの人は、甲状腺の被ばくを防ぐヨウ素剤を購入しました。この状況がロシアの脅しであったとしても、私たちにとっては現実的な脅威なのです。1986年のチェルノブイリ原発事故の時もそうでした。影響はキエフにもすぐに及んだのですから」
ウクライナでは18歳から60歳までの男性は出国が制限されていますが、女性や子どもを中心にすでに200万人以上が国外へ避難しています。
なぜインナさんはキエフに留まるのか尋ねると、戸惑いながら胸の内を打ち明けてくれました。
「避難するかどうかについては、正直にいっていつも悩んでいます。避難した方がいいのかもしれません。ただ、ここには私たちよりももっとひどい状況に置かれた人たちがいます。重い病気を患う人、高齢で歩くこともできない方、自分では避難できない方がたくさんいるのです。もし私たちが避難したらどうなるでしょう?命の危険があったとしても、私たちはここに残らざるをえないのです」
インナさんは今、高齢者や病気を抱える人に薬を届けるボランティア活動を行っています。
避難することもできない人に手を差しのべ続ける決意です。
<インナさんが支援している高齢者たち>
最後に「世界やロシアに発信したいことはあるか」と聞くと涙を流しながら答えました。
「ロシアに対しては何も言うことはありません。私には痛みがあります。巨大な痛みです。これは出血している痛みです。この痛みは、傷は…。…ごめんなさい、何も言うことはできません。あってはならないことが起こっています」