【徹底分析】プーチン大統領 4州を一方的に併合 反米姿勢も 石川一洋専門解説委員

NHK
2022年10月3日 午後5:32 公開

旧ソビエト時代から長年ロシア取材をし、プーチン大統領に詳しく、側近とも直接、話したこともある石川一洋専門解説委員がロシアを読み解きます。


(この動画は7分54秒あります、2022年9月30日に放送したものです)

油井秀樹(「国際報道2022」キャスター):まず今回プーチン大統領が表明した併合の対象なのですが、これは4つの州の占領地域のことをさすのでしょうか。

石川一洋専門解説委員:ルハンシクとドネツクについては黄色の枠だとしています。ただザポリージャとヘルソンについては赤いところなのか、黄色のところなのかは、明確にされていません。ただいずれにしても不法な併合には変わりありません。ロシアは今後、この一方的な併合した地域への攻撃はロシアに対する侵略とみなすとしています。 ただ現状はウクライナ軍は反転攻勢を強めていて、例えばドネツク州の北東部のリーマンではロシア軍が包囲されようとしています。 ただこうしたみずからの領土を奪還しようというウクライナの反転攻勢もロシアの方は実は自国への侵略ととらえて、これまでの特殊軍事作戦をいわば「祖国防衛戦争」に切り替える口実とする可能性はあります。プーチン大統領はウクライナに領土の併合を認めたうえで停戦交渉に戻ることを呼びかけましたが、それはとても自己本位の不法な論理で国際的にもウクライナにはとても受け入れられるものではありません。

油井:プーチン大統領の演説で気になった点はどこですか。

石川一洋専門解説委員:ここまで激しい反米的な…恐らく3分の2以上はウクライナというより、アメリカのこれまでの歴史、広島や長崎などということも踏まえた非難など、ここまで反米的な演説になるとは予想しておりませんでした。 軍事占領下での不法な住民投票を強行したときから占領地の併合はいわば予想されていました。 きょうの演説で1つは国内向けに一方的な併合について正当化する国内向けの部分とですね、この外向け、アメリカや欧米諸国に対してどこまでどういうメッセージを送るかということを注目していたんですけれども、非常にアメリカに対しては反米的な、反米を貫いた演説だと思います。

石川一洋専門解説委員:ウクライナの今後ということで大変注目したのは、4つの州をプーチン大統領が「ノボロシア」と呼んだことですね。これは非常に危険な兆候です。「ノボロシア」とは18世紀、女帝エカテリーナ2世の時代にロシア帝国がオスマントルコから自国領としたウクライナ南部の領土のことで、オデーサなども含みます。全体として非常に復古主義的で大ロシア主義的な演説で楽観的にとらえうるものはほとんどなかったと思います。

油井:今回の併合の表明をロシア国民は一体どういう風に受け止めていると石川さんは見ていますか。

石川一洋専門解説委員:今回の演説で私は、プーチン大統領はクリミア併合をもう一度というような形で、そのときの式典とそっくりな形でやろうとしていると…同じゲオルギーの間ですし、招待客は上下両院とか政府とかを集めて、大きな愛国心を盛り上げようとしていると思うのですけれども、しかしながら私は2014年のときクリミアの一方的な併合のときは、確かにロシア国民の大多数はそれを歓迎したという状況があったのは事実だとしてあったとは思うのですが、きょうはこの会場の様子を見てもそうした盛り上がりというか、感情の高揚というのは政府高官の顔を見ても感じられませんでした。

石川一洋専門解説委員:ロシアの世論調査機関が9月初めに行ったザポリージャ州とヘルソン州についてどう思うかという世論調査ではこの地域が、ロシアの一部になるべきかという問いに対してそう思うと答えた人はロシア国民で45%しかいないのですね。 だからその意味でいけば 同じ一方的な併合なのですけれども、2014年のクリミアのときとはロシア国民の受け止めはかなり違うと思います。

ノルドストリーム"破壊工作は欧米によるもの" 戦術核の使用は

油井:プーチン大統領は今回ロシアとドイツを結ぶ海底ガスパイプライン、ノルドストリームのガス漏れについて破壊工作だということにも言及しましたよね?

石川一洋専門解説委員:プーチン大統領は破壊工作だとしたうえで、これは欧米によるものであって、事実上のロシアに対する戦争行為に近い破壊行為だという言い方をして、言ってみれば欧米はウクライナを全面支援しており戦争の当事者だという見方を示したのです。 非常に激しい反米的な演説であって、アメリカを口汚く非常にののしったと言っていいと思うのですけれども、それによって恐らくプーチン大統領はアメリカの1極中心ではなく、今ロシアがやっていることは新しい国際秩序を作ろうとしているのだという、いわゆる第3極に対して示したかったのだと思います。ただ非常に口汚くののしっていましたけれども、アメリカに対して直接の例えば核使用とかそういう脅しは抑えていたように思うのですね。

石川一洋専門解説委員:今、懸念されるのは、プーチン大統領は今後ウクライナにおいて戦術核の使用に踏み込むかどうかなんですけれども、そこまではいっていないという印象は受けました。 プーチン大統領はロシア領については、一方的に不法に併合した地域も含むとしていて、これに対してあらゆる手段を取るとして核使用の威嚇ともとれる発言を繰り返しました。ただ核戦争の危険も含んだアメリカとの全面対決までは、非常に反米的な演説にもかかわらず、望んでいるわけではないようにも思えます。強気な姿勢の裏でアメリカなどを、核使用もありうるということで脅すことで、ウクライナへの支援を弱め現場のラインでのこう着状態、つまり事実上の停戦に持ち込みたいと言う思惑もあるように見えます。ただ今回の不法な一方的な併合は戦争をさらにエスカレーションさせるおそれが大きいんですね。だからその点でいっては非常に危険な1歩をプーチン大統領は踏み出したと思います。